呪詛決戦・〖呪術の王は姫を憶い〗 No.4 偽り姫の舞踊
「舞えや、舞えや、骨よ舞え……私に葬られた骨達よ。私に従い西の大陸の魔王を屠れ、〖遊技の剣骨〗」
地面から鋭利な牙を持つ獣の屍の群れが現れた。
「魔法詠唱で自身の力を増幅させたのか? ガブリエル殿が相手をしている髑髏達よりも強力そうじゃな」
「この子達は全て、私が集めて育てた特別な獣骨達です。だから貴女が私に勝つ事はもう…」
「そういう自分に酔いしれた言葉はガリア帝国のあの女騎士だけでよいわ。闇魔法〖吸黒の闇〗」
七綾姫が私に獣骨達を仕掛けさせようとした瞬間。私は闇魔法を発動した。
獣骨達が立つ地面から黒色の闇が現れ、その闇の中へと吸い込まれる。
「ケラケラ?」「ゲゲゲゲ!!」「ギギギギギ?!」
「私と同じ陰遁術? 何故、貴女も私と同じ術わ使えるのですか? 希少価値が高い私の陰遁術を」
「列島大陸の魔法形態については知らぬが、闇魔法など魔法大陸で使える者などかなり居るぞ。そなたはもう少し世界の広さを学んだ方が良いぞ」
「くっ! 五月蝿いですね。陰遁術〖骨の舞い 二極骨〗」
曼陀羅寺の周りに落ちた骨の残骸が一纏まりになり、竜の姿に……竜の形をした数体の竜骨へと姿を変えた。
「「「「ゲゲゲゲギシャアアア!!!」」」」
「骨を操り死者を弄び過ぎじゃ。緑魔法〖癒しの樹優〗」
私が展開した緑魔法陣から新緑の枝葉が伸びていく、その枝葉は竜骨達の身体に巻き付き、魔力を吸い取っていく。
「「「ギャラララララ?!!」」」
「土へと帰られよ。列島大陸の古き民達よ。静かに眠れ」
「私の……骨達が浄化したんですか? 私の……この〖滝夜叉〗の骨を……」
七綾姫……いや、滝夜叉と名乗る姫は消え行く、白き骨達を見て唇を震わせて私に向かって言った。
「神明を明かしたか。〖滝夜叉〗の姫。それがソナタの本当の名前なのか? それで神明の力を底上げする気か?」
「神明? そんなものは知りません。私はただ、あの人に教えてもらった陰遁術を使うだけ。私はこの力であの人の為に道を作るのです。陰遁術〖骨の舞い 三我苦楽〗」
七綾姫は赤き色に変色した三つに枝分かれした骨の剣を懐から七綾姫の……いや滝夜叉姫の身体の動きが変わった。自身の神明を無意識に明かした事で力を解放したようだのう。だがまだ足りぬ。
「その程度のスピードでは、まだまだレイカより遅いわ。闇魔法〖夕闇の剣〗」
滝夜叉姫が放った赤き骨を魔力で作った闇の剣で骨の剣を受け止め、その剣を闇の剣の中へと吸収した。
「私の剣を吸収した? そんなこの剣は首塚の骨を使った特別な幻獣骨なのに? どうして」
「他者の身体を……力を利用して戦う事は、今後は余りしない事を勧めるぞ。滝夜叉姫殿。ソナタが何に囚われ、力を可笑しな方向に使って入るのかは知らぬがな。それで列島大陸に住む者達に迷惑をかけてはいけないのだ」
「……私が住む人達に迷惑?」
「うむ。ソナタは確かに強い。強いがその強さは個人の為に使ってはならぬ。力ある者はその力を正しく使い、弱気者を正しく導き守ってやらねばならぬ。それが力を生まれ持った者の指名じゃと私は思っている。それをお主は死んだ者達を供養もせず、酷使するなど……愚かな事をしていると考えなかったのか?」
私は滝夜叉姫の目をじっと見つめそう言い放った。
「……わ、私はただ、今のあの人に言われて、でも昔のあの人とは全然、違うから戸惑っていたんです……わ、私は恩人であるあの人の為に、少しでも力になれればと、私になりに考えた結果動いただけなんです……私のその行動でこの大陸の人達が苦しむなんて、考えもしなかった…私は…私は……」
「やはり……精神に何か細工されておるか。滝夜叉姫殿……いや、七綾姫殿。今は私が言った事を噛み締めて、良く考えよ。そして、深き眠りに落ちよ。緑闇魔法……〖深淵の緑寝〗」
「ね、眠気が……私は……あの人為に……勝たないと……」
七綾姫の目が虚ろになっていく。私が放った〖深淵の緑寝〗が効いてきたようだ。
「ラベル! ガブリエル! こっちはそろそろ決着が着く。そっちも終わらせよ!」
「ハッ! 魔王様」
「ハイハイ~! 私の相棒候補さん。」
「神代魔法(緑) 〖新緑寵獣〗」
「あの〖幻獣の楽園〗の幻獣さんは凄い〖緑〗の魔法だね。それじゃあ、ボクも……神代魔法(天)〖昰天の綠蹴〗」
ラベルとガブリエル規格外の攻撃により、曼陀羅寺と青龍川に現れた骨達が、塵と化していく。浄化されていく……滝夜叉姫……いや、何者かに束縛されていた骨達…魂達が解放されていく。
(ありがとう)(助かった)(恩に着る)(これで終われる)(感謝します)(さようなら。ありがとう)
私の耳元にはそんな感謝の言葉が次々と聴こえてきた様に思えた……
「ああ、安らかに眠ってくれ。曼陀羅寺内に入る前に、河川や鳥居周囲の浄化をせねばならぬな……急がねば」
私はそう告げて、緑魔法を使用し始めた。