〖水天宮〗の滝社
〖和国〗というのは列島大陸の本島を国に持つ、列島大陸最大の連邦国家だ。
連邦国家体制で本島各地の小国を統治し、管理を行う〖和国〗は西の地、東の地で異なる文化体制を取っている。
そして、今回、俺達が最初に転移魔法で降り立った場所は西の地の〖弐の神地 青龍〗だった。
この〖弐の神地 青龍〗は和国本島のほぼ中央に位置し、七原龍 青龍の住みかだったとされる、水浮島〖水天宮〗の上から流れ落ちてくる青水が巨大河川〖青龍川〗へと落ち、本島全土の河川へと伸びて行く。
〖水天宮〗から落ちてくる青水は、列島大陸に住む人々の生活に欠かせないものとなっている。その〖青龍川〗の管理しているのが曼陀羅寺の祈祷者達であるのだが、タテミヤや鈴の話しによれば最近は呪詛ばかり読み上げてばかりで、水原の管理を疎かにし始めているのだとか。
〖青龍川〗
「凄いな。空の上から大量の水が滝の様に流れているなんて……あの身が和国本島の河川全域に行くんだよな? タテミヤ」
「うむ、そうでごさる。神成殿……そして、その下に建てられたのが西の地と東の地の中間地とされる〖曼陀羅寺〗でござるよ」
俺はタテミヤは指差す方を見つめた。空に浮く〖水天宮〗から落ちてくる滝に護られる様に巨大な社が建っている。
この巨大な社を日本の建物に例えるのなら……伊勢神宮や出雲大社のような広い社を合わせても足りない程の大きな宮内の広さをしている。
「あれが? 何かあの周辺だけ黒い霧に覆われてるな。それも〖トウ〗と言う奴のせいなのか?」
「……いかにも。奴はおぬ…〖西の賢者〗殿が去られた後に突然、現れ、東の地を支配し始めた男、〖帝〗と言う者の遣いと名乗り、西の地を侵略し始めたでござるよ」
「黒龍と西の賢者と言う敵対しそうな存在が居なくなった途端に動き出したとは……いかにも〖神々の黄昏〗の者達がやりそうな事じゃな。列島大陸に滞在して頃のセツナならば、今の様な貧弱な身体ではないのだろう?」
「……貧弱って、今の俺が弱いみたいに言わないでくれよ。エスフィール」
「いや、弱くなっておるじゃろ。魔王城で戦ったお主は魔力、肉体、精神の全てが飛び抜けておった……だが、今のお主は魔力しか全盛期を超えておらんではないか」
「む? 今の神成殿に何か変化しておるのか? 拙者からしたら何も変わっていない様に見えるでござるが?」
タテミヤが俺の身体をジロジロと見てくる。そりゃあそうだろう。認識阻害魔法と擬装魔道具を使って見た目だけはかつての全盛期の姿に見せているだから。
忍者の衣装に身を纏い、長い赤髪をポニーテールでまとめ、眼は右目が青、左目が赤の魔願のオッドアイだって昔、言っていたな。年齢は確か十八才だったか?
「これは擬装だ……それより中にはどうやって侵入するんだ? まさか真っ正面から乗り込むのか?」
俺はタテミヤの顔を手で退けて、曼陀羅寺を指差す。たく! 全盛期の頃の年齢と歳が近かったからか、やたらと近くによって来るんだよな。
「……その。つかぬ事をお聞きすが、タテミヤ殿は男の子で合っておるのか?」
「ウム! 拙者はれっきとした男でごさるぞ。ユナ殿。建宮家十代目 当主でごさる」
「そうか……それはホッとした」
エスフィールは何にホッとしたんだろうか? まさか俺がタテミヤとそういう関係だとでも勘ぐったのだろうか?……止めてくれ。俺にそんな趣味はない。
「それよりも良かったのか? エスフィール。サーシャと鈴を〖黄金の宝物庫〗の中に避難させて、それもレヴィアタンが居る部屋に行かせてさあ」
「……ああ、良い。それが一番良いと判断した。サーシャは鈴がまだ、怪しいと言っていた。ならば、近くで監視をさせておくのが無難じゃろう。それにお主が今回、連れてきた契神の中では、〖極神 レヴィアタン〗様が一番信頼できるお方……あのお方ならば、鈴が何か仕出かした時に、対象も容易にしてくれるじゃろう」
「だな。町で俺達に見せたあの涙は嘘偽りの無いだろうが、鈴の中に潜んでる何かは信用できないもんな」
「うむ……」
エスフィールはそう言って、俺の腰にある〖黄金の宝物庫〗に目を向けた。中に居る鈴の事を考えているのだろうか?
「エスフィール。君……」
「こんな鳥居の前で長いお話をされているなと思い来てみましたが、指名手配中の忍者さんが何故、こんな所に居るのでしょうね?……わざわざ捕まりに来たのですか?」
目の前に現れたのは黒装束を着た色白の女の子だった。その顔に生気は無く、不健康そうな顔をしていた。
「お主は……七綾姫?」
「何? この者が?」
「この娘は確か。北方の……」
「アナタ達は?……そうですか。その忍者さんのお仲間ですか。ならば排除しましょう。私の恩人、観勒様の為に……陰遁術〖餓者髑髏〗……屠ってあげましょう」
「ラアアアアアアア!!!!!」
七綾姫の術が発動した時、〖青龍川〗の中から巨大な髑髏が現れた。