鈴の子の案内
『弐の神地 青龍 水練の村』
「「「「「「「「シュラララララ!!!」」」」」」」」
「……大蛇の笑い声か? 西の方が聴こえて来たって事は、黒龍の巣に戻ったって事だよな。また、昔みたいに暴れださなけりゃあ良いんだがな」
〖黒龍 八岐大蛇〗が飛び出して行った。後、俺達は、大蛇によって赤子にされた鈴の子供の案内で、人族が住む村へと辿り着いていた。
「うあぁぁ!」
「これ、また。勝手に逃げるつもりか? 鈴よ」
「……逃がさない。私達を騙そうとしたんだから。その報いとして、最後まで案内して」
隙あらば俺達から逃げ出そうとする。鈴をエスフィールとサーシャが捕まえている。つうかこれで何回目の脱走だよ。
村に辿り着くまで四、五回は逃げ出そうとしてるよな。
「んああ! いやだ。曼陀羅寺何かに行きたくない。呪われちゃうのおぉ」
「む? なんじゃ、こやつ。いきなり成長しよったぞ」
「……大蛇さんの呪いが強まったからだと思う。この娘の呪いは成長すればする程、強くなって、このこ娘の力を弱めていく呪いだから」
「ほう。そんな呪い始めて聞いたのう。サーシャは列島大陸の呪いについて詳しいのだな」
「……うん。兄弟子達がティアマト地方を旅している間〖黄金の宝物庫〗の図書館で魔法世界の書物を読み漁ってたから、詳しくなった」
「〖黄金の宝物庫〗内に図書館じゃと? セツナ。そんな場所があるなど私は始めて知ったぞ? 何故、黙っていたのだ?」
「うぅぅ、そんな事より、離して! 曼陀羅寺は別の誰かに案内してもらってぇ!」
エスフィールが鈴を押さえ込みながら、聞いてくる。くそ、サーシャめ。余計な事を言いおって、〖黄金の宝物庫〗の図書館には、魔法大陸中の国から拝借した書物や他の大陸に関する文献が保管してある。
その中には勿論、魔王領から拝借した貴重な魔本もあるわけで、そんな場所に魔王領の現魔王であるエスフィールに発見された日には回収され、俺がお仕置きされてしまう。
「……成る程。ここは列島大陸本島でも西の地の真ん中辺りなんだな。この村で西の地の地図が買えて良かったよ。以前、黒龍討伐の礼金を保管していたのが幸いだったな。エスフィール」
「……それで? 魔王領で貴様が盗んだ歴代魔王の奥義書と各属性魔法の魔本はその図書館にあるのだな? セツナよ」
……感の良い魔王め。魔法世界に戻って来た途端に真面目に戻りおって、地球に入る時の様なアホのエスフィールさんのままで入れば良いものを。
「……貴様、今、私の事を心の中でアホの子とでも言っておるだろう?」
何で分かるんだよ。天才か? この魔王。だが、俺はそんな馬鹿正直に真実は答えない。本当の事を言えば拷問されてしまうからだ。
「いや、今日もエスフィールさんは聡明だなと。思っただけだ」
「ほう。そうか……ならば、さっさと魔王領から盗んだ書物を私に返還しろ。馬鹿者!」
「うお!っとあぶない。あぶない。間一髪だったような……前より、パンチの速度上がってるな。エスフィール」
「剣技大陸でレイカに鍛えられたからのう。それと避けるでない。お主に鉄拳制裁が出来ぬであろう……サーシャ」
「……了解。ユナ姉」
ガシッ!
「は? サーシャ。お前、裏切るのか?」
鈴の幼女を抑えていた筈のサーシャが俺の背後へと忍び込み、俺を両手を拘束した。
「兄弟子……魔術院から盗んだ〖高位魔法の取得書〗もちゃんと返さないと駄目。だから、お仕置きされて……」
「な? お前、兄弟子を裏切るのか?」
「……私に魔術師の称号を押し付けて逃げた兄弟子が何を言う」
「貴様、魔術院でも何かやらかしていたのか? ならば制裁じゃ。喰らえ! 魔王パンチ!」
「ちょっと! 待て! それはビンタただろうが! ゴフッ!」
パチンッ!
……久しぶりのエスフィールさんのビンタはとても威力が上がっていた。
「ひ、ひいぃ! い、今のうち逃げなくちゃ。こんな奴等なんて聞いてませんよ。鳴神様……赤子や幼女の姿に変えられるし。もう、関わりたくない」
鈴((スズ)俺達が名前を聞いても応えようとしないから勝手にそう呼び始めた。)が再び逃げ様としている。
「……はい。逃げちゃ駄目。鈴は兄弟子を騙して〖印〗……〖神煌の依代〗を奪おうとした。あれは神獣や神様達の力を持った存在が、本当に信頼する人にしか渡さない〖擬装真核〗……それを奪おうとした理由を話すまでは解放してあげない」
「そ、そんな! 私はただ、直ぐに強くなりたければ、海岸に現れる海外の者達を騙せと七綾姫に言われただけなのに……あっ」
「……良く言えました」
サーシャはそう言って、鈴の頭を撫で始めた。
「や、止めて……それは何かの呪い? それ以上、私に呪いをかけないでえぇ……てっ何? この首輪?」
そして、鈴の首元に七聖語で書かれた首輪が現れ、サーシャによって付けられた。
「サーシャよ。それは何じゃ?」
「……呪いの上書き。これでこの娘に最初に呪いをかけた人の呪いを解除した。兄弟子の魔道具部屋にあった〖解呪の紐〗を使って……上手くいって良かった」
「ほう。そんな便利な者をセツナは隠し持っていたのか。暫く会っていない間にでも仕入れたのか? セツナ」
「……いや、それよりも。何でサーシャは俺の魔道具部屋に勝手に入って、勝手に俺の魔道具を使って……ゴフッ?!」
エスフィールが俺の頭を軽くチョップして来た。己、DV彼女か? 貴様は。
「……黙っておれ。窃盗犯。全く…この窃盗犯勇者を騙して、盗みをさせて様と企てておった者がおったか。セツナ。これは黒龍様が言っていた。〖曼陀羅寺〗とやらに早く行き、西の地を平定した方が良さそうかものう」
エスフィールはそう告げると俺の頭を自分の胸元に押し付けポンポンし始めた。暴力を振るって来たかと思えば、次は撫で撫でとか。
エスフィールさんはドSの魔王様なのか、お優しい天使様なのか……全く魔性の女である。
「ヒ、ヒイィィ! だから、あそこには絶対に行きたくない! 行ったら最後……呪詛師達に呪い殺されるもの!」
「……呪詛師? 祈祷師の間違いじゃないのか? だって数年前、俺が〖曼陀羅寺〗に行った時は皆、優しい人達だったぞ」
「……〖トウ〗様が現れてから皆、変わっていった……皆、可笑しくなって弐の神地は壊れ始めて皆、避難したのに……それで次は参の神地 鳴神に呪いを広め始めて……」
鈴の表情が先程よりも険しくなっていく。
「これは……もっと詳しく聞く必要があるのう」
「……うん。完全に怯える」
「だな……いったい。今の和国で何が起こってんだ……蓬莱様か鵺様……アオイちゃんを呼び出して聞いてみるか……」
〖弐の神地 青龍 海底島 竜宮殿〗
「「タテミヤ様。数刻前から、タテミヤ様がお探ししていた気配の方を感知しました」」
「おお、それはありがとうでござるよ。青姉妹殿……ようやく来て下さったか。神成殿……感謝するでござる」
〖不知火家 家臣 タテミヤ〗




