呪詛の西国に黒龍は戻れり No.2 黒龍蹂躙
〖数日前の帝都〗
「大嶽丸君。観勒が戻って来た事だし、そろそろ西の地に戻って〖黒龍の巣〗わ攻略してきてもらえないかな? 八岐大蛇が戻って来る前にね」
「畏まりました。帝様……ですが、あの黒龍は死んだ筈ではないですか? 〖西の賢者〗とやらに消されたと鬼族の長から報告が来ましたが」
「……いや、生きているよ。数ヶ月前に受けたこの傷で分かる。これはあの黒龍の一刀だからね。いやー、それにしても治るのに随分かかってしまった」
「現在の和国で最強の帝様に傷を負わせる相手。確かに黒龍が再び自らの神域に戻られたら厄介ですな。ご慧眼畏れ入ります」
「うん。ありがとう……ただ少し急いだ方が良いかもしれないね。遥か西側の魔力を探ったんだけどね。空間の歪みを確認したからさ。もしかしたら、現れてしまうかもね。黒龍……〖肆の神地 八岐大蛇〗に入られて、竜達を統制されてもめんどくさいから早めに終わらせて来てね。〖黒龍の巣〗の占領を……」
◆◆◆◆◆
帝様が危惧していた事はこれだったのか。俺の自慢の鬼族の精鋭共が喰い殺され始めているだと?
〖七原龍〗は列島大陸にそれぞれ神域と呼ばれる巣を持っている。そして、現段階で〖黒龍 八岐大蛇〗はその中にすら入らずとして、これ程までの力を持つとは想定外だぞ。
だがこのまま俺が引けば、帝様に対しての抵抗勢力が一つ誕生する事になる。
せっかく西の地に敗走していた〖将軍〗を捕らえ、数日前、曼陀羅寺へと幽閉し和国統一までもう少しという所まで来たんだぞ。こんな所で失敗できるか!
「……己、貴様。俺の同胞と俺の右腕を切り刻みやがったな」
「シュララララ! 我が留守の間、我が領域を征服せんとするものに対して行った正しき行動だ。さあ、どうする鬼神。貴様の部下は後で我が癒し、使ってやるとして……貴様は我に下るのか? 応えよ」
「……馬鹿か黒龍。俺が遣えるべき御方は帝様のみ、貴様の様な列島大陸の未来を何とも考えない破壊者に従う道理など一切ないわ。光れ〖三明の剣〗」
「ほう……その剣は名刀か……貴様、それを我に寄越せ、新しき主の剣として貴様と共に差し出してやろう」
「身勝手な事ばかり口にしやがる。神だからと好き放題できると思うな。七原龍!!! 俺は……いや、俺達鬼族は貴様等のその振る舞いが遥か昔から嫌いだったのだ。自身達が正しいという理を押し付けられ、苦しんでいる列島大陸に住む者達の存在を知れ! 神明魔法〖大嶽の氷剣〗」
俺はあらゆる自然の力を操る悪の化身。その攻撃は七原龍にも届く力。その力が乗った〖三明の剣〗を唯我独尊の黒龍に向けて放つ。
「来い……一太刀目はちゃんと受けてやろう。神話魔法〖草薙の太刀〗」
ガキンッ!!
〖黒龍の巣〗全域…いや、〖列島大陸〗の西の地全域に、黒龍の凱旋を告げる剣撃の音が響き渡った。
「……成る程。確かに神域に入っている我と、何一つ有利な環境でもない今の貴様とは闘っても勝ったとしても、何の面白味はないか。おい、大嶽丸とやらよ。興が冷めた東の帝都とやらに帰って良いぞ。今度は我がその帝都とやらに行って貴様等、鬼族を蹂躙してからな。消えるが良い」
「黒龍……貴様! 突然、何を言っている? 闘いはまだ始まったばかりだぞ。何故、剣を納めるか!」
「……今の貴様では〖黒龍の巣〗に入る我には絶対に叶うまいよ。だから、今回は見逃してやると言っているのだ。何れ、帝都には蹂躙する為に向かうしな」
「俺に慈悲を与えるつもりか?!」
「帝都ならば貴様の力は最大限に引き出され、逆に我は東の地では竜共の信仰心も無いゆえ、弱体化する。その時こそが我と貴様が対等に闘える場になるであろうよ」
「……貴様!! それ以上ふざけた口を叩くようならば…」
「〖天上天下唯我独尊〗……我、再び〖黒龍の巣〗の主へと戻ろう。アリーナ」
〖了解した……〗
〖黒龍の巣〗の中心地から黒き闇が溢れ出す。その闇は黒龍 八岐大蛇へと流れていき、一体化し始めた。
「……貴様……何だ? その禍々しい姿は……」
巨大……余りにも巨大な山の様な八首の神蛇が俺を見下ろしている。
「「「「「「「「シュララララララララララララララララララララララララララララララララララ!!!!!!!!!……いいから行け。鬼神よ……今回の我の地への蛮行は、その剣を献上する事で水に流そう。消えるが良い!!!!!!!」」」」」」」」
「……くっ!
この場所では勝ち目など無くなった……これ程のものなのか? 神域に鎮座する七原龍の力というものは、これ程までに圧倒的な島神や土地神との差が生じるのか。
「「「「「「「「……もう一度言おう。その刀「置いてされ、三下……でなければ貴様はあと数分で輪廻に落ちる」」」」」」」」
「……わ、分かった。この場は引こう……帝都でのやり合いを選ぶ……ではな」
「「「「「「「「シュラララララララララ! 懸命よな……それからこれは貴様と黒龍の契約なり、今回の事は誰にも告げる事は許さぬ……破る事があるならば貴様の心臓が切れると思え……●●●」」」」」」」」
「がぁあ?! 何だ? この印は?」
「戒めの印だ……ではされ、鬼神……次に会う時まで、楽しみにしているぞ。シュラララララララララ!」
黒き霧が濃霧となり、俺の前を覆っていく。
覆っていき、いつの間にか、俺は西の地と東の地の境にある〖戦場の軍畑の地〗で一人佇んでいたんだあった。
「……黒龍 八岐大蛇……この屈辱は帝都で晴らしてくれるわ……クソオオォォォガアァァア!!!」
俺は怒りに任せて、戦場の軍畑の平原で吠え散らかしたのだった。
呪詛の西国に黒龍は戻れり
終