清んだ尻尾と角
〖蒼の海岸〗
「魔法大陸の様に七つの地方に別れてはいるんだ。だけどその七つの地方を〖七原龍〗の神様達が直々に管理しているんだ……まあ、その中の何柱かは例外だけどな」
俺は首にかけてある〖灰神楽〗の首飾りと〖黄金の宝物庫〗を指差した。
「ああ……呑んだくれの黒龍といつも眠っている赤モモンガか。この者達が本当に「七原龍」の二柱とは、未だに信じられんのう。この者達がいない地方はもしや無法地帯と化しているのではないか? 統治者が居ない場所など強者が好き放題するじゃろう」
「いや、それはないよ。〖七原龍〗には、それぞれの神々に防人と守護獣達が居る」
「防人?…守護獣達? 契約者ではないのか?」
エスフィールがなんじゃそりゃあって顔で俺の顔を見つめている。
「防人は〖七原龍〗を神話の時代から支えてきた一族の人達を言うんだ。そして、守護獣は神の遣い……七原龍の使い魔だな」
「ほう。魔法大陸で例えると、私やセツナの様に眷属の様なものか?」
「いや、それとはまた少し違うんだが……まあ、七原龍が不在の地方には将軍家、怪異の王、姫巫女達の様な力ある存在が代わりに、その地方の治安を維持しているんだ。だから、七原龍の何柱かが、居なくても列島大陸は結構平和だったりしてたんだ」
「成る程のう。神が働くなくても、その地方の有力な者達が代わりに平和を維持しておるのか。凄いのう。列島大陸に住む人達は、神達と共に共存し暮らしているとは……」
「……争いばかり起きてる魔法大陸は全然違う」
俺とエスフィールの会話を大人しく聞いていたサーシャがそんな事を言った。
まあ、確かに、今の魔法大陸は〖神々の黄昏〗が暴れているせいで色んな場所が荒らされてるからな。
そして、〖神々の黄昏〗に対応する為に俺も色々と壊しているから、他人事ではないけど。
「まあ、その昔、その平和が面白くないと思ったどこかの黒い龍が、和国で大暴れして大変だった時もあったんだがな……今じゃ酒造りにハマって、大人しくなったが」
「黒い龍……それはもしやあの呑んだくれ…」
シャラン……
「……鈴の音?」
「なんじゃ?」
「……女の子?」
俺がエスフィールとサーシャに列島大陸の事について教えていると、突然、目の前に鈴を持った女の子が現れた。
「失礼致します……印を、印の提示をお願いいたします」
「印?……何の事だ? 以前、列島大陸に来た時はそんな事、言われなかったぞ。それに君はいったい誰なんだ?」
「……それは平和だった頃の列島の話です。今は動乱の世。印を提示出来ない方々は排除されます……今から〖怪異〗を呼び寄せて排除を試みます。鳴神様」
「鳴神様? 君、今、鳴神様と言ったのか?」
「それが何か? 印がない貴殿方とこれ以上、話す事はありません」
印? 印って何の事だよ。あの女の子は鳴神様と発言した……おそらく〖七原龍 鳴神〗の関係者なのだろう……鳴神様の関係者? それならあれを見せれば印になるんじゃないか? 蓬莱様や彼女から貰ったあの尻尾と角がそ。
「排除開始します……」
「ま、待ってくれ。ある! 印ならちゃんとあるぞ」
「……はい?」
「『蓬莱の尻尾』と『青龍の角』だ。これは君の言う印に該当するんじゃないのか?」
「……蓬莱殿の尾に青龍の娘様の角端ですか……随分と清んでおりますね。素晴らしい印です。ではこれは私がお預かり一時的にお預かりし、汚れを……」
(シュラララララ! 黙れ、三下。その汚れた身体で我が新しき主に近づくな)
シュンッ!
「大蛇? お前、酔っぱらっていたんじゃないのか?」
〖黄金の宝物庫〗から突然、〖七原龍 八岐大蛇〗が姿を現した。
「……貴方様は……」
「久しいな。鳴神の下僕。新しき主が持つ宝に目が眩んだか? それを手に入れて何をするつもりであった? 応えよ」
「……消えた筈の黒龍様が何故、こんな場所に?」
「貴様、質問をしているのは我であるぞ……ひれ伏し詫びよ。そして、退化し赤子と化せ……┫┃┛┗┣」
「あぁぁ……黒龍様! お止め下さい! わ、私が悪う……アウゥァ」
大蛇は何かの呪文を唱える。すると鈴を持っていた少女は三歳時程度の幼女になってしまった。
「シュララララ!! 流石が我等が支配せし、列島大陸。立っているだけで力が漲るわ」
「ウゥゥァ……」
「何だ? 元に戻りたいのか? 赤子……ならば、暫しの間、新しき主殿の案内人になれ……しなければこの場で貴様を殺す」
「ウゥゥ…ゥン…ゥン」
「シュララララ!! それで良い……今後は我と我の新しき主に付き従え、逆らえば貴様にかけた呪いは解けぬからな」
「大蛇。お前、突然、出てきてなんて事をしてんだ。この娘に何て事を……印だって見せてないんだぞ」
「そんなもの必要ないわ。こやつはただの鳴神の所の下っ端だぞ。新しき主殿……鳴神の下僕よ。先ずはこの者達を曼陀羅まで案内しろ……」
「アウゥァ?」
「黙れ。行け…我の新しき主よ。先ずはこやつの案内に従って曼陀羅寺を取り戻すのだ」
「曼陀羅寺?……曼陀羅寺って確か、呪詛達の総本山だろう?」
「ああ、そして、西国の中心地でもある。先ずは西国の動乱を平定する」
「西国を平定?」
「そうだ。先ずは西側で暴れる者達の駆逐だ。それと我は暫く別行動だ。新しき主よ……我は自身の神域を取り戻しに行く……ではな。曼陀羅で再び再開しよう」シュンッ!
「お、おい! どこ行くんだよ! 八岐大蛇! 待て! ちゃんと説明してから行けよ!」
「行ってしもうたのう……しかしこの子供。私達を騙そうとしていたのか」
「アウゥァ……」
大蛇に幼女化させられた少女はトテトテと逃げ出そうとし始めた。
「……逃げちゃ駄目。下僕、案内して」
「アウゥァ!!」
そして、サーシャに杖で持ち上げられ、騒ぎ始めた。
『黒龍の巣』
「シャアアアア!!」「シュララララ!!」「ジュララララアア!!」「ギュララララ!!」
和国に住まう鬼人族の集団が、野生の竜達に襲いかかっている。
「行けっ! 黒龍無き、竜族等恐れる必要はない! 一体一体確実に屠り殲滅していけ」
「「「「「了解しました! 大嶽丸様!!」」」」」
「ほう。鬼神が竜を狩るか。ならば自分達が狩られても文句は言えぬな……神話魔法〖草薙の五月雨〗」
「ガァァ?!」「ギャアア!!」「ギャアアア?!」「グアアア?!」「ゴアアア?!」
「部下達の身体が剣で串刺しに……誰がこんな事を?!」
「黙れ! 我が支配地を汚せし愚弄よ……粛清の時間だ。消えるが良い」
「貴様は?……いつ舞い戻った……七原龍 八岐大蛇!」
「……先程、お前の蛮行に気づいて起きたところよ。鬼神 大嶽丸よ」