行く者と残る者
「何を言っているんだい? 行かなければ。魔法世界と地球は滅ぶんだよ? 君が見てきた未来の様にね」
灰神楽は俺を睨みながらそう告げた。そうして、俺の肩に乗って来た。
「な? お前、あの世界の事、知っているのか?」
「自分は〖神気〗も纏える身だよ……まぁ、口外はしないよ。魔法世界の歴史をあの様なものにしたくないもの……だから、自分と……いや、僕と共に行ってもらうよ。〖列島大陸〗……和国へね」
「……ひそひそ話は終わったか? 魔法世界に再び行く者はセツ、灰神楽……」
「うむ。〖神々の黄昏〗が絡んでおるなら、私も行くぞ。セツナ! 未知の大陸。〖列島大陸〗にのう。ほれ、それと紅茶じゃあ」
ガシャンッ!!
エスフィールがそう言って、紅茶を俺が座るテーブルの前に勢い良く置き、盛大に溢した……コイツめぇ。魔法世界に入る時は、頼りになるのに、こっちに来た途端に気が抜けてポンコツに成りやがって~!
「いや、それだとルアとアナスタシアの面倒見てあげる人が居なくなるだろう」
「神成君。それは私が……」
ガチャッ!
「私達にお任せ下さい! セツナ様!」
「……アヤネ様が編入して暇になったので」
「……君達は芽愛さんに寧々(ネネ)さん」
甘露寺 芽愛 (カンロジ メイ)さんと雨宮 寧々(アマミヤ ネネ)さんはアヤネの専属メイドだ。
確か、アヤネが全寮制の〖ケレス女学院〗へ半年間編入する事になった為、その間は普通の学生として過ごす様になった天王洲家の人達に言われて途方にくれたとか。
それを聞いた義妹の星柰が父さんに頼んで、アヤネが戻って来るまでは、放課後、神成家の臨時メイドとして働くとか、何とか言ってた気がしたな。
「君達がルアとアナスタシアの面倒を?」
「わ、私も見ます! 神成君。なんたって私は貴方のお陰で過酷でエッチな旅を乗り越えたんです。だから、その恩返しをしたいんです。だから、ルアさんとアナスタシアさんの事は任せて下さい」
「お、おお、それはありがたいんだけど。生徒会の方は大丈夫か? また、仕事が貯まるんじゃ?」
「カハハハ、それは心配無いぞ。セツ、アリーナに頼んで色々と細工してもらうからな、ティアマト地方から帰還した時の様に、地球での時間はそれ程、経っておるまいて」
「うんうん。前回だって、魔法世界じゃあ、数ヶ月間は過ごしていたのに、こっちでは五日位しか経ってなかったんだよね?」
ムササビ状態の灰神楽が芽愛さんや寧々さん達が居るのに普通に喋っている。コイツ、芽愛さんはともかく、こっちの事情を全く知らない寧々さんが居るというのに、何を好き勝手振る舞っているんだろうか。
「可愛い。ムササビさんですね」
「……良くできたロボット。精巧な玩具ですね」
……どうやらムササビ状態の灰神楽の事を玩具と勘違いしてくれている様だ。寧々さんは天然だから助かるなあ。
「良し。では、私とルアの世話係も三人も居てくれるならば、心強い」
「ウィ~、ネムイ~、可憐ママ、メイママ、ネネママ、ルアの世話、ヨロシク……ZzzZzz」
ずっと話し合いをしていたせいなのか、ルアが眠ってしまった。
「……ルアお嬢様。ここで寝ては風邪を引いてしまいます。お部屋へ参りましょう」
「はい~、お世話してあげます~」
ガチャ……
そして、寧々さんがルアを背負って、芽愛さんと共にリビングから出ていってしまった。
あの二人はアヤネを幼少の頃からお世話してい為、可愛い女の子をお世話するのが好きなのだそうな。確かにルアを抱っこしてある寧々さんはどこかイキイキしていたな。
「……カハ、ルアも寝入った事だし。もう一度……魔法世界の列島大陸に向かう組はセツ、ユナ、灰神楽。残る組は私、アナスタシア、ルア、可憐だな」
「妥当だね。列島大陸は神聖残る神々の島々。中途半端な子達が行ったら無駄死にする事になるからね」
……灰神楽の言っている事は正しいが、何だかとても冷たい言い方だった事に俺は少し違和感を感じた。
「しかし、行くとしてもどう行くのだ? 確か列島大陸に向かうには、暗黒大陸を越えなければ行けないのではなかったか? それに今回、私とセツナだけでは、少々、心許ないのう」
「あぁ、それは心配ないよ。先ずはティアマト地方に転移して、そこからティアマト神、巫の巫女 極神レヴィアタン 青龍の力を使わせてもらって、を経由して、列島大陸までの転移の道を作る」
「……それは良いが。それを導く為の依り代がなければ、完璧な列島大陸の道は作れないのではないか? 今回は二つの大陸の間をまたいで行くのだろう?」
「依り代か……それなら、セルビア国の時に蓬莱様とアオイちゃんに渡したあれが依り代になるだろうから大丈夫だぞ」
「セルビア国の時じゃと?……セツナ。お主、もしや、こうなる事が最初から分かっておったのか?」
「……んー? 何となくな。列島大陸は不安定な大陸だしな。それに戦力が足りないのが心配なら、問題無いぞ。ティアマト地方にはグレイやサーシャ達がまだ居る筈だから、誰かしらに声をかけて付いてきてもらうつもりだからな」
「ほう。成る程、それは心強いのう。分かった。それを聞けて安心したぞ。魔道船ユピテルでは、アリスとセレナもお主に会いたがっていたしのう」
「……サーシャを見つけたら速攻で〖列島大陸〗飛ぶぞ。エスフィール」
「……なんでじゃ? なんでサーシャなんじゃ? 何かあるのか?」
「一番トラブルを起こさない仲間だからだ。大人しい奴が一番楽なんだよ。恋愛関係のトラブルはもういい。俺は今回の旅では女の子のトラブルは結構なんだよ」
「今のは確りとスマホのボイスレコーダーに保存したから、アリスとセレナに聞かせるからのう。拷問を楽しみにしておけ。セツナ」
〖一番トラブルを起こさない仲間だからだだ……〗
エスフィールはそう言うと、先程、ボイスレコーダーで保存した、俺の言った言葉を再生して、俺に聴かせるのだった。
ああ、俺、あっちに行ったら拷問確定らしい……何でやねん……