小さな異変
〖神成家 邸宅〗
〖怪異 轆轤首〗襲来の後、俺、エスフィール、可憐ちゃん、ルア、アナスタシアの五人は、神成邸のリビングのテーブルに置かれている赤色の首飾りを眺めていた。
ボッ!
「フゥー、この大きさと形なら家を燃やさなくてすむかな」
〖緋龍 灰神楽〗
「赤毛のムササビになった?」
「可愛いのう」
「モフモフですね」
「ウィー、何かあったのかー? 神成ー」
「……灰神楽が起きたという事は、何か不味い事があったということか?」
「流石、アナスタシアは察しが良いね。〖怪異〗……いや、魔力持ちがこちら側に現れたんだよ。以前、大蛇が倒した。鈴彦姫の様な〖怪異〗がね」
「〖怪異〗?……それは列島大陸の魔法使い達が変異した姿だったか?」
「違う違う。氷雪大陸ではそう伝わってるのかい? 〖怪異〗は魔具や魔落ち人が魔力暴走の成れの果ての産物なんだ」
「そんな存在が、何故、地球に現れる? 天照の祠の魔法世界とこちらの入り口は大蛇と私で閉じた筈だが?」
「声……呪詛が飛ばせるのだったら、話は変わってこないかい? 氷雪大陸も氷節がある様に」
「声か……呪い言葉。詞?」
俺はアナスタシアと灰神楽の話し合いを聴きながら、そんな単語を述べた。
「そう。詞だ。少年」
「ん?」
「魔法世界から地球へと身体を送る事が出来なくなっても、物体の無い〖詞〗ならば、こちらにまだ遅れるね。地球にある禁則地という場所ならね」
「カハ? 何? こちら側にもあるのか? 禁則地が?」
アナスタシアは小型ムササビとなった灰神楽を、手に掴みユサユサと揺らし始めた。何だ? 何でそんなに驚いてるんだ?
禁則地と呼ばれる立ち入り禁止の場所なら、こっちの世界にも何ヵ所かあるのは、アナスタシアなら知ってると思ったんだがな。日本なら〖富士の樹海〗がそれに該当するんじゃなかっただろうか?
「……少年。この家には神の書か何かはないかい?」
「神の書? 古事記か日本書記とかで良いなら、書庫にあるぞ。灰神楽」
「じゃあ、それを持って来てくれないかい? 【八幡の藪知らず】について調べて……」
「不知八幡森。古くから禁則地とされ、千葉県の市川と言う場所に有るらしいのう。神隠しの伝承で知られ、近隣の者達は決して近付かない。と書いてありますね。ネットには」
可憐ちゃんがスマホの画面を見ながら、〖八幡の藪知らず〗について教えてくれた。そうだよな。今はネットで検索すれば直ぐに分かるんだよな。
「……成る程。今はその様にして情報を集めるのかい。昔は書物を読みあさって、彼等は情報を集めていたんだけどねえ」
「カハハハ! 灰神楽。発言が年寄り臭いぞ。老いぼれたな」
「同い年位に言われたくないね。アナスタシア……しかし、そうかい。東の直ぐ近くに禁則地があるならば、そこに〖呪詛〗を飛ばして迷い歩く何かしらの〖怪異〗を東の都の結界を超えてこちらに来たんだね」
「お~い、お茶が入ったのじゃ。たんと飲むのじゃ~」
魔王モードじゃない。気が抜けた状態の、メイドさんエスフィールがティーポット片手にお茶の準備をしてくれていた様だ。
「カハ……そして、セツの反応から見て、こちらの世界の禁則地と言われる場所は他にも在るようだぞ。なぁ? セツ」
「ああ、〖青木ケ原の樹海〗〖杉沢村〗〖雄蛇ヶ池〗なんかがそれに該当するみたいだな。呪いが強いんだと。ほれ」
俺はアナスタシアと灰神楽にスマホの画面を向けて、見せてやった。
「……どれもこの場所から近い場所ばかりだね」
「禁則地は呪いか神秘が、未だに残る場所だ。そんな場所がこれ程あるのか?」
「いや、それだけじゃないぞ。呪われた場所。心霊スポットとか呼ばれる場所なら町中や廃墟なら、日本のそこら中にあってだな」
「カハ?! それは本当か? セツよ?」
「……不味いね。それが本当なら相当不味い」
アナスタシアと灰神楽は険しい表情を浮かべている。何が不味いのだろうか?
「は? 不味い?何でだよ」
「もしも、今回の様に魔法世界側の何者かが放った詞……〖呪詛〗が日本……いや、世界中の禁則地に撒かれた時、この地球は〖怪異〗の者達で溢れかえる事になる……〖怪異〗の魔力暴走で人が沢山死ぬ世界になるという事だ。セツ」
「いやいや、それだけに止まらないと思うけどね。地球だけじゃない。フラマも、マキナも、トネリコも、アリーナも同じ様になる……止めないとね。〖呪詛〗を飛ばす人達を」
「ちょっと待ってくれ。フラマとかマキナとか良く分からないが……人が沢山死ぬ世界になるだと? そんな話が飛躍し過ぎだろう」
「〖神々の黄昏〗の者達なら可能だ。数もだいぶ減って、余裕が無くなってなりふりかまっていられなくなったのだろうな」
「少年。大蛇は何をしてるんだい?」
「大蛇?……アイツなら。酒製造にまた夢中になってウラさん達と〖黄金の宝物庫〗内に引きこもっているぞ……」
そういえばまだ説明していなかったが〖アグナの廃棄炉〗からの帰還後、〖黄金の宝物庫〗や他の七つの秘宝は力を取り戻し、普通に使える様になった。
今は〖怪異〗についての話いで忙しいので、〖黄金の宝物倉〗内で起こった、とある事件の事はそのうち語ろうと思う。
「なら使い物にならないね。今回は……アナスタシアは自分は今回ね。少年と共に……」
「カハハハ、良いぞ。こちら側には私が残ってルアを守ってやろう、良かったな。セツ。今回はの旅はサボり魔の灰神楽が、本気でサポートしてくれるぞ。カハハハ!」
「いや、俺、まだ行くと言っていないんだが……」