先輩達が残した後始末
〖聖豊中学 新生徒会室〗
カタカタカタカタ!
俺が叩くキーボードの音が静かな室内に響き渡る。
「天馬。聖抜祭で起きた各方面の謝罪文。書き終わったぞ。後で見といてくれないか? その後、OB先輩達に送るからさ」
「う~ん。了解だよ、セツナ。君、根詰めすぎてないかい? 頑張り過ぎだよ」
〖新生徒会 会計監査 天馬〗
「頑張り過ぎだよって……こんだけ仕事が貯まってたのに、放置している天馬達が悪いんだろうが」
「う~ん。そうだなね。僕も突然、任命されたからねぇ。参ってたんだよ。ねぇ? 志知難嬢」
「ボクは無理やりアンタに生徒会にブチ込まれたんだけど? 責任取りなよ」
〖会計 三重志知難〗
「誰が取るか、志知難もいやいや、良いながら入りたがってがってたらだろうが」
〖副会長(代理) 神成〗
「一翠院先輩、三ノ宮先輩、門倉先輩の不祥事。天王洲さんと神無月さんはお家の方針で、半年間のケレス女学院への編入ですからね。空いた穴が大き過ぎます。それで臨時で私が何で生徒会長に…しかも神成君は副会長で…」
〖生徒会長 可憐〗
「いや、それにしても、仕事を貯めすぎだろう。こんなのAIの処理と外部委託で、七割の仕事は減らせるだろうがっと! 終わったーっ!」
「早くないかい?」
「何で? あれだけ仕事が貯まっていて、絶望的な状態だったのに?」
「チートですか?」
「外部に漏れても別に支障がない文章なら、天王洲家の会社のデータ管理会社に委託できるだろう。それと後は自動化させとけよ。それで一か月分の仕事は終わるさ」
「おぉー、終わったのか? お疲れ様なのじゃ。 皆の衆。コーヒーでも飲むのじゃ」
〖書記 エスフィール〗
「エスフィール……何でメイド服を来てるんだ?」
バシャッ!
「「「「「あっ!」」」」」
俺や可憐ちゃんが、必死こいて終わらせコピーしておいた紙に、コーヒーが入ったカップをぶちまけた。
「……ちゃっちゃったのじゃ。済まんのう。テヘ、なのじゃ」
「……エスフィール! お前!!」
俺はエスフィールの両頬をおもいっきり引っ張った。
「フヘェェ?! ヒタァィのじゃあ! シュマンのじゃあ、セシュナ!!」
何故、俺やエスフィールが生徒会の仕事をやっているのかというと。ちゃんとした理由がある。
以前、生徒会の門倉先輩が起こした不祥事、聖抜祭開催時、生徒会長と副会長のニャンニャン遊びにより聖豊中学からの別校への編入。そして、聖豊中学は一週間程の休校に追い込まれた。
そして、学校側は突然、窮地に立たされた。短期間で生徒会の会長、副会長、会計がいなくなり、時期、生徒会長と副会長候補だったアヤネと委員長が編入するという、休校明けの生徒会が機能不全になってしまう事態に陥ったのだ。
「そんで魔法世界から帰って来たら、志知難が泣き付いて来るんだもんな」
▽
(おはよう。神成! 可憐とボクだけで生徒会回させる気なわけ? 責任、責任取りなさい。せめて生徒会が立て直すまでは臨時で働いていもらうからね)
(はぁ? やだし、天馬を行かせたから足りるだろう? それで周……)
(りませんでした。 人質にユナさんも生徒会入りさせたので、観念して下さい。神成君)
(なのじゃー。セツナ! 楽しそうだから、生徒会と言うやつに入ってみたのだ)
(……何でやねん)
▽
「はぁー? 何を言ってるの? そもそも貴方がボクに無理矢理、生徒会を押し付けたのが悪いんでしょうが」
志知難が俺の背中に軽くチョップしてくる。全然、痛くない。
「シーッ! その単語はこっちじゃあ、禁句ですよ。神成君」
「そうだったな……しかし、これどうするよ。可憐ちゃん」
「大丈夫です。地球に入る時のユナさんは絶体にやらかすので、予備は別の教室に用意してあります」
「おお、流石、可憐ちゃん。テンパらなきゃあ、アヤネや委員長よりも可憐ちゃんだな」
「ええ、私はあの旅で生まれ変わったのです。NEW可憐ちゃんに」
「ヒィハハイィー! そろそろ離してくれなのじゃ! セツシャア!」
◇◇◇◇◇
「頬っぺたが痛いのじゃ」
「ユナさんは、地球ではポンコツなんですから気を付けないといけませんよ。こちらポンコツなんてすから」
「……可憐。なんのフォローにもなっておらんぞ。それになんじゃ、その人を哀れんだ目は」
「いえ、魔法が使えないユナはポンコツだと思っただけですから」
「なんじゃとお! 可憐!!」
「何ですか? やるんですか? 良いですよ。私、こっちの世界ではユナさんより強いですからね」
エスフィールと可憐ちゃんがじゃれ合い始めた。
「しかし、魔道船〖ユピテル〗に戻った瞬間。地球に帰れだもんな。ティアマトとユグドラシル様は何を考えてんだかな。〖神々の黄昏〗との戦いも、いっそう苛烈になってくるんじゃないのかよ。まさか各地方の有力国が〖救国の担い手〗を是非。我が国の戦力に加える為に捜索隊を編成し始めるとは思わなかったな。それでガリア帝国も加わって、落ち着くまで地球に避難しろとはな」
「フレイヤ地方、ティアマト地方、アテナ地方で騒ぎを起こしたんじゃ。オマケにお主と私はガリア帝国の首都で顔バレしたのじゃ……いや、バレたのは私だけか、お主は常時、認識阻害と変装魔道具で顔を変えておったのう」
「おう。対策の勝利じゃな」
「(ムカッ)……いいのう。魔法世界に帰っても好き放題歩ける勇者は…常時、認識阻害と変装魔道具を発動できるとか、改めて思うがのう。お主の魔力総量は可笑しいのう。セツナ」
「あー、それ、私も旅をしている時に感じました。何で底を尽きなんですか? 神成君」
「んー? 次元渡りの恩恵じゃねえ、可憐ちゃんも帰って来た時、かなり増えただろう?」
「そー、ですね。でもこっちの世界じゃ、まほうは使えないんであまり意味ないですね」
「まぁな、それが地球に入る時の最大のメリットでもあるんだけどな」
「メリット? 何でじゃあ?」
「始祖・神集九煌の神々か、こっち発祥の〖怪異〗じゃない限り。他の世界の人達は〖魔力〗と〖神秘〗が使えないってところだな。だから、俺達はこっちにいれば〖神々の黄昏〗の襲撃を受ける事は無いって事だな」
「なる程のう。それで? 〖怪異〗ってなんじゃ? セツナ」
「〖怪異〗か? 怪異って言うのは……」
俺がエスフィールに〖怪異〗について説明しようとした時だった。
「妖怪です…」
「そうそう〖怪異〗は妖怪……見たいなもので……ん? 妖怪?」
「……妖怪です……神成君……目の前、見て下さい……」
「……目の前?」
俺は可憐ちゃんが指差す方を見てみた。するとそこには、電柱に届く程に首を伸ばし着物を着た可笑しな姿の奴がいた。
「アハハハハ! アンタが黒い刀の所有者かい?」
「誰だお前? 黒い刀だと?」
「アハハハハ! 持ってんなら寄越しな! この轆轤にね!」
〖怪異 轆轤首〗