輪廻決戦・〖この魔力を以て、その運命を屠る〗No.8 恩讐は運命に勝る
数ヶ月前の〖無闇の部屋〗
「あらぁ~! マザーグースちゃん。どうしたのよ?! その〖黒〗のドレスは? 凄い力が宿っているんじゃない? どこで手に入れちゃったの?」
「フフフフフフフフフフフフ……私の〖異界〗に迷い込んだ子供が持っていたから、外に帰す変わりに貰ったの。フフフフフフフフフフフフ……」
「迷い込んだ子供に? そんな馬鹿な子も入るのねぇ? 〖魔力〗も必要としないで操れる〖黒〗を手放すなんて、笑っちゃうわぁ! オホホホ! だから私に頂戴よぉ。マザーグースちゃん」
「フフフフフフフフフ……絶対に渡さない」
「まぁ、そうよね。オホホホ!!」
「そう……あげない……フフフフフフフフフフフフ」
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「……身体中に刺し傷ができちゃったじゃない……何て事するのよ……神明魔法〖運命の車輪〗」
ガコンッ……カチッ…カチッ…カチッ…ゴーン!
「……フゥー、元のピチピチに戻れたわねぇ! ちょっと! 担い手ちゃん。何で生きちゃってるのよ! そこは大人しく死んどくところでしょう? それと何よ。そのどす黒いフードは? カッコつけているつもり?」
「数万の刺し傷や切り傷が元に戻した……ここは〖ラグナの廃棄炉〗……お前は大罪人達の運命を握り、苦しめた……名前がフォルトゥナ……お前はもしかして地球側の神なのか?……運命の女神とされるギリシャ神話の〖テュケー〗。ローマ神話では……〖フォルトゥナ〗」
「……を模倣した粗悪品って言えば良いのかしら?」
「粗悪品だと?」
「あら? 知らないの? 神話時代にロキちゃんや【博士】ちゃん達がやっていた〖神考創造〗実験の事を?」
「〖神考創造〗だと?」
「あら? 興味が湧いちゃったのかしら? 良いわよ。話してあげるわ。担い手ちゃんに刺された傷のダメージもまだ、治っていないもの」
「敵の俺にそんな貴重な情報を教えて良いのか? それにお前に対する攻撃はさっきだけじゃないんだぞ」
「良いのよ。良いの。私もねぇ、貴方にお話している間に、その〖黒〗をどうしたら良いか考えられるしねぇ……神話時代はねぇ、狂っていたのよ。色々とね」
「……それは知っている。各大陸で神々の暴走や争いが絶えなかった時代だと、神代魔歴史書にも書かれているからな」
「あらそう。まぁ、それを鎮める為にある一部の子達が考えたのが、〖神考創造〗……自分達の考えた、自分達の理想的な神を創る実験よ。そして、産まれたのが、地球の運命の女神を模倣してできたわ・た・しってことよぉん!」
「……は? それで終わりだと? 他にないのか? お前が何故、このラグナの廃棄炉に落とされた人達に残虐な行為をする様になったとかの話は? 何もないのか?」
「残虐? 貴方は何を言っているのかしら? この達……あぁ、もう死骸に成っちゃったわね。別に私はこの達に愛情を注いであげていただけじゃない。何でそんな事が残虐な行為になるのかしら?」
俺は目の前のフォルトゥナの言葉を聞いて戦慄したとともに、納得もした。〖神考創造〗実験……恐らく、その実験で創られた神には……いや、フォルトゥナには、本当の人の心が何一つ理解できないんだろう。
いや、それは俺の勘違いであって、人族や多種族に対してだけ無関心なだけかもしれないのだが。
「一つ……質問する。お前は仲間は大切にしているのか?」
「何よいきなり。当たり前でしょう。〖代理人〗ちゃんや〖皇帝〗ちゃんなんかとは特に仲良しよん♡」
ほら、やっぱり。コイツにも仲間を思いやる心はあるんだな。
「じゃあ、それ意外は? 魔法世界に住む生物に対してはどう思う?」
「また、変な質問をするわね。そうねぇ、家畜ね」
「は?」
「いや、だから家畜よ。家畜……生贄と言っても良いわね。あの方の為の……ただの家畜か生贄としか思っていないわよ。ただ、それだけの存在よぉ。ここで山積みになってる肉塊ちゃん達もね」
……あぁ、やっぱり。だから、彼等に、彼女等にこれ程までに怨まれているのか、仲間は大切にするが、それ意外は……無関心……だから、彼等、彼女等を無関心に、無慈悲に、合成して化物に変え、苦しませたのか……
「お前の話を聞いて理解したよ。お前は残忍な奴だってな……【復讐黑衣・黒雁】」
俺は【黑衣】を発動する。数万の復讐の小さき黒球をフォルトゥナへと放った。
「ちょっと! 何なのよ? いきなり怒り出すなんて、情緒が終わってるじゃないかしら? 神明魔法〖角の乙子絵〗」
フォルトゥナは懐から角笛を取り出し、吹き始めた。すると無数の白色の羊が現れ、フォルトゥナを守ろうと取り囲んでいく。
「なら、そいつ等ごと黑の布沼に沈め。【復讐黑衣・恩沼汚濁】」
山積みになっていた肉塊が沈み始まる。フォルトゥナの羊も、フォルトゥナ自身も【黑衣の沼】に沈んでいく。
「ちょっと! 次から次へと何なのよぉ! 神明魔法〖豊かな運命よ〗」
神話魔法に似た〖具現化〗だろうか? フォルトゥナを中心に不可思議な白色をした地面が創りあげられていく。
「長きに渡る時代と数万人にも及ぶ怨みは、神を越える……長き恩讐は運命に勝る。【復讐黑衣・黑万雷怨嗟】」
「……何? 私の神明の力が……消えて……黑に呑み込まれ……るじゃな……い……」
ズズズ………
フォルトゥナは復讐の沼へと沈んで行った。