輪廻決戦・〖この魔力を以て、その運命を屠る〗No.5 カンナギ王国建国者〖アルベルト〗
〖アルベルト幼少期〗
「ワハハハ! 良いか! アルベルト! どんな優れた王や長であろうと、全てを手に入れれば、いつかは必ず孤独に陥る」
「それは、夜に母が父を置いて出ていった事と関係があるのか? 父上」
「ワハハハ! だから、こうして、シースライドを走らせて迎えに入っているだろう。良いか、アルベルト。俺はカンナギ一族の族長だが、真の主はお前の母だ。あれには誰も勝てん。俺さえもだ」
「父上。それはただ、父上が母上に絶対に逆らえないだけではないか?」
「ワハハハ! そうだとも俺はルースには絶対に逆らわん! 何たって、俺はルースを、お前の母上を心の底から愛しているからな! ワハハハ!」
「‥‥心の底から愛している」
「何だ? 頭の切れるお前なら理解できると思ったが、まだまだ若いな。アルベルト! なーに、お前もいつかは、自身が心の底から愛を捧げたいと思う女が現れるさ! さぁ、ルースの故郷はもう目の前だ! 今、迎えに行くぞ!我が妻、ルース!!!」
「ワシが‥‥愛する女か」
▽▽▽▽▽
「キヒィ! 何をお考えで?」
「‥‥お前には関係ない。偽物のセブンよ」
「おぉ、私の正体にやっと気づき始めましたか」
「剣技大陸の東の道化都市〖アンクル〗のユグドラ家殺害の首謀者‥‥あれには父上も困っていたのを覚えている」
「キヒィ‥‥貴方、バイラスのお子さんでしたか。成る程、それは剣技大陸を一つに纏められる力をお持ちですね。そうですか、そうですか‥‥それなら死んで下さい! 私を殺した男の子供、カンナギ・アルベルト! 零剣術〖零怒〗」
「父上の馴染みだったか‥‥輪廻はどこまでも回るか‥‥父上の口癖だったか。そして、セブンの運命はワシが絶ち切ってやれという事か。再び舞えや〖嶺花の水刀〗そして、巫水剣術‥‥一の太刀〖水月〗」
和国の名工達が作成した最上大業物十工の一つ。名刀〖嶺花の水刀〗は七剣神が一柱〖剣神・巫ノ神子〗が天界に生える聖樹〖嶺花の枝〗を一人の鍛冶師に与え、造られた《創造武器》の一つである。
その能力は変幻自在に変化し、敵対対象を自由な身体に切り裂く〖水の太刀〗で、魔法世界に存在する水属性の武器として最強武器の一つとして数えられる。
そして、それを操る人物〖カンナギ・アルベルト〗は五百数十年前の剣技大陸において、剣においては最強と称された剣士とされる。
そんな最強武器を剣において最強の剣士が使えば‥‥この世界での最強種の一角に君臨する事も可能になる。
「先ずはその幾重にも隠くされた素顔を暴く。〖激流〗」
アルベルトがゆっくりと〖嶺花の水刀〗を振り下ろす。そして、その動作だけで、死んだ相手の顔を剥ぎ取り、管理する男〖屍の管理者セブン〗の幾重にも重なる肉の仮面が切り刻まれていく。
「キヒィ、そんな‥‥遅い剣の振り方じゃあ、私は倒せませんよ。カンナギ・アルベル‥‥ト?」
スパンッ‥‥スパンッ‥‥ザスッ!
コンマ数秒毎にアルベルトの放った水斬の威力が増していく。
ザスッ‥‥ザスッ‥‥ドスッ‥‥ドスッ‥‥
〖屍の管理者セブン〗はこの段階でようやく気づく、自身の数百もの偽物の顔が殆ど切り裂かれている事に。
「キヒィ?‥‥あれ? 私の顔が痛い‥‥?‥‥痛い‥‥痛い痛い‥‥痛い痛い痛い‥‥痛い痛い痛い痛い‥‥痛い痛い痛い痛い痛い痛い‥‥私の顔が全て切れた? 痛い! 外の魔力に晒されて、顔がとてもなく痛い!!!」
「お前のその顔‥‥覚えているぞ。母上と父上を別れさせる為に、カンナギの里を引っ掻き回していた男の顔か‥‥」
「キヒィ! そ、そんな事よりも、私に顔を‥‥魔力から覆う顔。この醜い顔を隠す顔を私に下さい!!」
「醜い顔だと?‥‥お前は何を言っている? お前の様な顔つきの美男子、なかなかいない筈だが?」
「だから、嫌なんです! 私は醜いモノを好む!合成も好き! 廃棄物も好き! 御姉様の醜い心も! カルマの雑ざりきった汚い身体も好き! 汚れが好き! 汚れた全てが好きなのです。だから私の顔も汚くてはならない。だから、こんな顔は必要な‥‥」
何を狂ったのか、セブンは自身の素顔を切り裂こうと手に持っていたサーベルを自身の顔に突き刺そうとしていた。
「止めろ!」
ガキンッ!
「キヒィ? 貴方、何をするんですか?」
「‥‥少しで良い。私の話を聞け」
「カンナギ・アルベルトの話? 何でですか?」
「ワシが幼少期の頃の話だ‥‥父上はよく一人の男について、自慢気にワシ話されていた」
「一人の男? 自慢気に?」
「そうだ‥‥名前はセブンス。父上の幼少の頃から友で、商才に優れ、カンナギの里に多くの富をもたらした大恩にして、父上自慢の友だとな。彼が居なければ、カンナギ一族が西の地で台頭する事もなかったとな」
「バイラス‥‥の奴がそんな事を? 私に?」
「‥‥話を続ける。数ヶ月の間、父上が遠征中に事件は起きた。カンナギ一族が治める都市の一つ〖アンクル〗でカンナギ一族と懇意にあるユグドラ家の一人が殺害された。その疑いをかけられたのはセブンスと言う男だった」
「‥‥‥」
「だが、そんな筈はなかった。その男はその事件が起こった時、遠征中の父上と共に行動していた。できる筈がなかった。なのに‥‥なのにだ。そのセブンスという男は自分が殺ったと主張し続けた。おのが弟、エイトルを庇う為に‥‥そして、セブンスは勝手に罪を被り殺害人としての汚名を残して行方不明になった」
「‥‥違う。あれは私が殺ったんです。弟は関係ない」
「父上と母上を仲違いさせようとしたのもエイトルだな?‥‥何故、先程も庇う様な演技で誤魔化した? セブンス」
「‥‥私がバイラスの近くにいれば。弟が‥‥エイトルが嫉妬していました。それにエイトルはバイラスの妻、ルースに惚れていました。何れは間違いを必ず起こすと思っていたんです。そして、案の定、ルースの従者をしていたユグドラ家の子をエイトルは殺しました」
「それがユグドラ家殺害事件の全容か?」
「然りです」
「突然、行方不明になって父上は怒っていたが。それに対しては何を思う?」
「バイラスには迷惑をかけたくなかった。私は彼が夢が叶う為‥‥戦乱に荒れ狂う剣技大陸を平和にしたいという夢を叶える為に必死になっている姿をずっと見てきました。ですが、私の弟との件が他の国に知られれば、バイラスの評判が地に落ちる‥‥ですから私が名を捨て、姿を消し可笑しい道化に成り済まして‥‥」
「道化師の仕業に仕立て上げたという事か‥‥セブンス。お前が父上の前から姿を消してから十数年経った。ワシの時代ではな‥‥」
「‥‥そうですか。バイラスはもう‥‥」
「そして、もしも父上の親友たるセブンスに会う事があったらこう伝えてくれと伝言を頼まれた」
「‥‥伝言ですか?それはいったい?」
「我が親たる友、セブンスに深い謝罪と感謝を‥‥セブンス、お前が俺の友で良かったと。ずっと俺を支えてくれてありがとう‥‥お前は俺が最も信用する戦友だったとな」
「バイラスが‥‥そんな事を‥‥そんな‥‥私は‥‥君の前から‥‥黙っていなくなったんですよ‥‥私は君を裏切ったのに‥‥何で、何で、君はそんな‥‥そんな伝言を残してくれるなんて‥‥バイラス‥‥私は‥‥本当は君の元から去る時、別れを言いたかったんです。すみませんと、バイラス‥‥迷惑をかけて済まないと言いたかったです‥‥ウゥゥ‥‥アァア!!」
セブン‥‥いや、セブンスは嗚咽しながら、素顔で泣きじゃくる。
「‥‥そうか。それは父上も喜ばれるだろう‥‥ワシも元の時代に帰る前に、貴殿に父上の伝言を伝えられた事を誇りに思う」
カンナギ・アルベルトはそう告げると、〖嶺花の水刀〗を静かに鞘へと戻したのだった。