魔王は勇者の無事を祈る
ティアマト地方〖魔道船ユピテル〗
「じゃあ。ユナ、私達は一端あっちに戻るからね」
「うむ。レイカも首都・アルベルトまでの道のり気を着けて行くのだぞ。しかし、まさか〖神々の黄昏〗の一人が待ち構えていたとはのう。しかも悪海賊・エクシスとは、良く勝てたものだな」
「まぁ、姫君は最強ですからな。それにカミナリ氏の事なら、余り心配しなくても大丈夫だと思いますぞ。カミナリ氏はどんな環境でもはしぶとく生き残りますからな‥‥それとこれはカミナリ氏に追加で頼まれた僕が作っといた薬です。僕の変わりに彼に渡しといてくれますか? エスフィール嬢」
「む? エドワードが作った薬? 確か魔法大陸では〖万能薬〗とか言われている高価な物だのう」
「えぇ、何でも治せる僕の自信作ですよ。それでは首都・アルベルトで転移魔法陣を設置したら、一端こちらへ戻って来るのでよろしくお願いします。では姫君、剣技大陸へと戻りましょうか」
「了解。じゃあ、またね! ユナ。あっちでお土産買って持ってきてあげるから~!」シュンッ!
「首都・アルベルトの魔法陣が繋がれば、ユピテルにいる学園の生徒や先生方を連れて帰れます‥‥その時が来れば、これ以上、僕がカミナリ氏に過重労働を強いられる事は無くなるのです‥‥」シュンッ!
「セツナの奴‥‥エドワードに何をやらせておるのだ? しかし、ガリア帝国での決戦から五日経ったが、セツナは見つからんとは、いったいどこに隠れておるのだ? お主は‥‥」
私はガリア帝国がある西の方を遠く見つめた。
あの異界の者達の戦いの終結後。突如として、大規模な転移魔法陣が現れ、私を初めとした勇者の仲間達はティアマト地方へ、ガリア帝国の者達はガリア内の各地へと飛ばされ。
他地方から援軍として、来ていたセツナの師匠とやらとセシリアは元のヘファイストス地方へと転移したと数日前にセシリアから手紙が届き分かった。
あの大規模魔法陣はセツナの仕業に違いないのだが、肝心の本人はティアマト地方へと帰って来ておらぬし、セツナと共に居たソフィアはティアマト地方についた瞬間に意識を失い、ずっとベッドで眠って目覚めない。
そんな中、魔道船〖ユピテル〗の船先で今後の方針をサーシャやギャラハット殿と話し合っていると、甲板に突然、転移魔法陣が現れ、その中からレイカとエドワードが飛び出して来たのだった。
そして、何故、いきなり現れたのかを詳しく聞いてみると。
ロウトル迷宮からの転移後は、悪海賊・エクシスとの戦闘になり、これを撃破。海底迷宮アリアドネの攻略は成功し、現在は〖剣神の祠〗で簡易転移魔法陣を設置し終えたところだとか。
まさか、ここで〖神々の黄昏〗の一人倒してしまうとは思わなかったが、これは朗報じゃな。これで魔法大陸を脅かす脅威の一人がいなくなったんだ事になるのう。
そして、先程、私にあちらでの説明を終えた二人は転移魔法陣の中にまた、入り消えていった。
「しかし、殿はもう不要ですぞ。エスフィール嬢とは‥‥どういう事なのだ? エドワードよ」
先程、レイカと共に戻って来たと思ったら‥‥
(そうですか。まさか〖異界〗に飛ばされるとは災難でしたな。エスフィール嬢、では今後は、僕に殿付けは不要ですぞ。ハハハ)
などと言っておったが、あれは何だったのだ。
「だ~か~ら~! セレナがガリアに帰りなさいよ! ここには私が残るんだから」
「い~や~で~す~! アリス御姉様がお帰りになればよろしいじゃありませんか! ここには私が残って勇者様の帰りを待ちますから」
「ハァ~、またやっておるのか? あのガリア帝国の姫共は‥‥」
大規模転移でティアマト地方へと帰って来ると何故か、アリスとセレナまでこちら側に転移して来た。
他のガリア帝国の皇族方は首都・テトリクスにそのまま残っていると、サーシャの知り合いのロリスロットが人物からの手紙に書いてあった。
後の文章はサーシャへの想いを永遠に綴ったものであったが、サーシャはそれを読まずに破り捨てた。
「聞いてよ。宿敵魔王! セレナったら私の言うこと全然聞かないのよ!」
「聞いて下さい! ユナ御姉様。アリス御姉様ったら、私の話を全然聞いてくれないんです」
「‥‥誰が宿敵魔王と御姉様じゃ。いいから、お主ら二人共。ガリア帝国にいい加減に帰れ、ガリア殿が心配しておるのだろう?」
「嫌だ!せっかく自由になったんだもの」
「嫌です。せっかく勇者様に会える機会を得たんですから」
こやつ等はあぁ!! 一緒に居るといつも姉妹喧嘩はしておるし、お主等が居ると他の者達が萎縮して、仕事が手につかなくなるのが分からんのか?
‥‥仕方あるまいあの部屋に連れていき耐久実験の仕事を無理矢理させるかのう。
「‥‥では何かしらの仕事をしろ。皆がそうしておる様にな」
「し、仕事。私が? していいの?」
何で少し嬉しそうなのだ?こやつは?
「そ、そうですね。ここ数日、私達は働くもせず、ここで喧嘩ばかりしていて、何の役にも立っていませんでしたね。盲点でした」
何が盲点じゃあ。優しく確り者に見えて天然過ぎんか? セレナは。
「‥‥そうか。働いてくれるか。ならば、お主達はこの下の部屋に落とそう‥‥ポチっとな!」
ガコンッ!
「へ?」
ガコンッ!
「はい?」
シュ~!バシャンッ!
アリスとセレナは船主の下にある部屋‥‥ゼリー部屋に落ちた。
「ちょっと!鬼畜魔王。何よこれ?」
「ねっとりと‥‥べっとりします!」
「それは魔力残滓と無害な野生のスライムを組み合わせたスライム魔力炉じゃ、セツナ考案でのう。将来的にはこの船を動かす動力源の一部になる予定じゃ。まぁ、まだまだ実験段階で使い物にならぬがな」
「そ、それと私達をこの中に落とした理由に何の関係があるのよ?」
「アリス御姉様。このヌメヌメ‥‥身体の‥‥シャイッ!な‥‥か‥‥にぃ?!」
「セ、セレナ? だ、大丈夫?」
「そのスライム魔力炉は人や物から魔力を吸い取り、他へと付与する特性がある。お主等はこれから、そのスライム魔力炉に限界まで魔力を吸われる事になるんじゃが‥‥要はその吸い取られる者がどうなっていくかの実験じゃな。では、長い実験の日々になるが姉妹仲良く頑張るんじゃぞ。半日後に迎えに来るからのう。じゃあ」
ガラッ!
「ちょっと! 畜生魔王。どこに行くの‥‥よ?! 」
「ア、アリス御姉様‥‥身体の中に何かが‥‥あぁ! 入って来ます!」
「あ、あの変態魔王!私達に何、やらしてんのよおぉ!!」
「身体中に絡み付いてきて気持ち悪いです! く、擽ったいです!!」
〖魔道船・ユピテル〗甲板
「フゥー、これで少しはあの姉妹も大人しくなるじゃろう。ガリアの皇族だと少し、甘やかし過ぎたのう」
私はそう告げると今日、発行分の魔法新聞を広げ読み始めた。
‥‥やはり連日の様に話題になるか。〖ガリア帝国〗〖魔法中央国〗〖魔王領〗による三国和平同盟。
これにより、ガリア帝国の隣国はガリア国内への進行を断念。ガリア帝国崩壊の危機は一時的に去る事になるか。
魔王領の事はお母様に任せているが、やはりガリア帝国の同盟が一番被害が少なくなるか。
『突如として、起こったガリア帝国内での内戦に救いの手を差しのべたが魔王領の主〖魔王〗であった。魔王はガリア皇族の命を何の見返りも無しに助け、ガリア帝国内の内乱終結と同時に、静かに去ったとされる』
「‥‥ただ単に勝手に転移させられだけじゃがな」
『この魔王の行動に喜んだガリア皇族は、魔王領との敵対関係を急激に軟化させ、時期ガリア帝国皇帝であるガリア帝国のクルス王子を人質として魔王領に向かわせたという』
「いや、あのアホ王子が勝手に魔王領へと、私を探し来ただけなのだが? お母様の手紙にはそう書いてあったがのう。丁重にもてなし、護衛まで付けて返したとも書いてあったぞ」
『これを気にガリア帝国と魔王領は以前より結んでいた同盟関係がより、強固になり。魔法中央国もガリア帝国と百年和平同盟を結んだ事で、隣国は内戦の痛み癒えぬガリア帝国への大規模進行を断念した』
「まぁ、このアテナ地方の三強国による同盟が一番平和に収まるのは間違いないか‥‥後は、セツナ。お主がここへ戻って来てくれれば、全てが丸く収まる。無事に帰還してくるのだぞ。私の勇者様よ‥‥」
私はそう告げて西の空を再び見つめた。