セカンドの襲来
翌朝〖名無しの森〗
「朝、起きたら森中に潜んでいた怪物達の屍があっちこっちに‥‥やりすぎだろう。アルベルト」
「何? 何故、ワシだと分かった? カミよ」
「いや、夜、別行動してたのはお前しかいなかっただろう。それなのに返り血一つ浴びてないなんで‥‥アルベルト。お前、草原の時の攻撃、手加減してたろう? 本当はもっと‥‥」
「王は孤高で秘密主義だ。それ以上聞くな。カミ、それにお前達にはもう二度と剣は向けん。実力は昨日で計り終えているかな‥‥それに討ち漏らしが一匹来たようだ」
アルベルトは森の奥を指さしながらそう告げた。
「討ち漏らし‥‥?! 何か来る?」
「あぁ、ワシの討ち漏らし‥‥ワシで片付けよう」
「ゴギイイイイ!」ドガァン!
森の木々を折りながらこちらへと向かって来る。
その姿は巨大な猪だった。
だが、身体全体はおぞましい姿だ。身体には人の手足がそこら中に生え、皮膚から生える体毛は脂ぎっていて、気持ち悪い艶を帯びていた。
「昨晩、子分達を殺し回っていたのはどっちだ? 返答次第ではどちらも殺してやる」
〖複合獣・セカンド〗
「ほう。これは珍しい、複合体に単一の自我があるとはな。貴様、相当な我の強さを持っているな。面白い」
アルベルトは背中に背負っていた赤色の剣を抜いた。
「その剣の血は‥‥お前か? 俺様の子分達を全て殺したふざけた奴は? いったい一晩で何万もの命を奪ったと思っている?」
「何を馬鹿な事を言っている。化物が、貴様等は元の場所で一人一人がその十倍、百倍の命を殺し来た大罪人。でなければ、〖アグナの回廊〗からも棄てられれ、この歪な世界〖アグナの廃棄炉〗に落とされはしなかろうに。異物共よ」
俺は静かにアルベルトと猪の化物との会話を聴いていた。
〖アグナの廃棄炉〗だと? まさかこの世界は〖アグナの回廊〗の一部って事か?
じゃあ、あの草原もこの森も全てはアグナの回廊から漏れでた魔力で構築されている?
だとしたら、あの〖ウプサラの聖樹〗もアグナの回廊から漏れ出た魔力残滓で構築されているとしたら、説明がつく‥‥ここは罪深き者達が創りあけだ、廃棄と妄想の世界という事か?
この世界に対しての疑問が尽きない。できれば、あの喋る猪化物を無力化して、知っている事を吐かせたいが。それは現状だと難しいか。
「お前‥‥今なんと言った? 俺様達が棄てられたと言ったのか? 俺様達を異物と言ったのか?」
「なんだ? そう言って何が悪い? 実際本当の事だろう? 剣技大陸の伝説的な妖精殺しの〖セカ〗よ。よもや、こんな場所で遭遇するとはな」
「‥‥お前、剣技大陸の者か? お前が殺した子分達の中には剣技大陸から棄てられた奴等もいるんだぞ?」
「ハハハ‥‥だから畜生共に同情し、生かせと? 何を生ぬるい事をほざくか、妖精殺し。自身達が犯した罪を棚にあげ、自身達が殺した命を気にかけず、自身達の事しか頭にないとは‥‥むしずが走るわ。咎人よ」
「‥‥お前は‥‥お前には俺様達の何を知っている?! 上からの物言いは何なんだ? 貴様! 火剣魔法〖火獣の群れ〗」
「グルル!」「ギャギギャギ!」「シャシャ!」「ギチギチギチギチ!」
妖精殺し〖セカ〗の身体から血みどろの獣達が現れ、俺達へと襲いかかる。
「来るぞ! アルベルト。本当に加勢しなくて良いんだな?」
「ああ、良い。それにカミには体力を温存しておいてもらわなくてはならんからな‥‥舞え。和国が誇る最上大業物十工の一つ。名刀〖嶺花の水刀〗よ‥‥カンナギ剣術〖五月雨〗」
朱色の桜吹雪がカンナギ・アルベルトを中心に舞い上がり、俺達に襲いかかる獣達へと向かい、切り刻む。
「‥‥まるで日本の円舞だ。しかし、アルベルトの奴、今、和国の最上大業物十工の一つとか言ったのか? あれが〖雷牙の大太刀〗と同じ十工の一つ〖嶺花の水刀〗‥‥」
赤色。朱色。臼赤色と多種多様な〖赤〗で染められている刀だった。その〖色〗はその時々で色の輝きを変え、その刀を見る者の眼を離させない様な、そんな異質な魅力を漂わせる刀だな。
「‥‥俺様の攻撃が切り刻まれた?」
「おいおい、何をボケッとしている? 次の攻撃に備えなくて良いのか? 〖桜花の吹雪〗」
〖嶺花の水刀〗から大量の花吹雪が顕れる。
「‥‥ギギギ! 水剣魔法〖処突〗」
「ハハハ。何も考えず飛び込んで来る奴がどこにいるか? それだから我が父に捕まり、妖精狩りの罪で処刑されるのだ。妖精殺しの〖セカ〗」
「我が父だと? お前のその眼の色‥‥まさか‥‥ラビリス家の、あの男の子供か?」
「正解だ。剣技大陸の恥じよ‥‥細切れに成るまで切り刻まれよ。〖楼閣・桜吹雪〗」
「ゴギイイイイ?! 俺様の技か消し飛んだ? それだけじゃない?! 俺様の身体が分解されていく? こ、この攻撃は?‥‥俺様を、俺を確実に殺‥‥」
妖精殺しの〖セカ〗は最後の言葉を言い終える前に、細切れの肉塊へと変貌した。
キンッ!
「‥‥終わったな。では、再び北の〖運命回廊の館〗を目指し、旅立つとしようか。カミよ」
そして、アルベルトは何も無かったかの様に俺へと話しかけ、前へと歩き始めた。