焚き火の夜に無属性と孤高の王は
《奴等は障害となる邪魔者をここへと招いた‥‥要は世界の禁忌とされる〖時代干渉〗に手を出した馬鹿者達がいて、それによって集められた》
パチパチ‥‥バキン‥‥
昼頃に聞いたアルベルトの声が脳内でリフレインする。
焚き火にくべていた木枝が割れる音が静寂な空間に響き渡る。
俺達はアルベルトが知る情報をあらかた聞いた後、最初にこの世界に着いた場所。つまり草原を北へと移動し、今は森の中で夜営をしていた。
「アルベルト君はどこかに行ってしまったのね」
俺の隣で座っている、スカサハが俺に話しかけて来る。
「ん? あぁ、何でめ王は孤独を好むとか言って、飛び出して行ったな。まぁ、居場所は礼の腕輪である程度は分かるから、昼の時の様な襲撃はされないと思うよ」
「‥‥そ、それは本当ですか? あ、あの人‥‥凄く怖いんですよ。殺意の塊みたいな人ですよ。私は魔法も使えない〖魔法族の里〗の落ちこぼれなのに‥‥」
アイリスが俺のフードの中に隠れている。〖黑衣〗で作ったフードの為、伸縮自在の万能な空間と化している。
そして、ある種の異空間も造れる。ド●えもんの四次○ポケットならぬ、三・五次元ポケットになっているのだ。
‥‥しかし、アイリスが魔法を使えないというのは、可笑しな話だ。数ヶ月前にエスフィール達と旅をした最終目的地である、魔王領で、大人のアイリスさんと会った時の彼女は普通にエスフィールの魔法を消していた‥‥ん? 消していた?
「いや‥‥ちょっと待て。まさか、アイリスは普通の魔法が使えないだけで、属性無し‥‥無属性魔法が使えるんじゃないのか?」
「‥‥はい? 無属性魔法?‥‥何ですか? それ?」
アイリスは泣き顔で俺に聞いてきた。
「盲点‥‥そんな事があるのかしら? 無属性魔法何て、魔法大陸の七聖―女神―の歴史の中で一度も聞いたことがないわ」
「いや、地球のゲームや漫画では良く使われる属性だ。そうか‥‥無属性なら、他の魔法も使えないのも分かるし、大人のアイリスさんがエスフィールの魔法を消した事にも納得がいく。無属性魔法は他者の魔法や魔法の能力の無効なんだ‥‥だから、アイリスは普通の魔法が使えないんじゃないのか?」
「私の力は‥‥他者の魔法を無効にするですか?」
「あぁ‥‥少し待っててくれ。確か、タブレットにゲーム内の無属性魔法の設定について詳しく書かれた論文があったんだ」
「タブレット?」
「設定? 論文‥‥というのはなんですか?」
スカサハとアイリスが頭に疑問符を浮かべているが、今はそれどころじゃない‥‥俺が知らない未知の魔法が目の前に‥‥無属性魔法の使い手かもしれない娘がいるんだ。
是非ともその力を開花させてあげたいじゃないか! そして、あばよくば俺、自身の新たとして取り入れたい。
この新たな力、黑‥‥『黑衣の網』を使えば、アイリスの無属性魔法を分析して、俺の未使用の魔力回路に付与すれば再現可能なんじゃないだろか?
新たな力の渇望と未知の探求で興奮が収まりきらない、。アイリスにアドバイスしながら、俺もちゃっかり無属性魔法を研究して、技術を盗み見て覚えさせてもらおう。
「変顔‥‥カミ君。今、凄く邪悪な顔をしているわ。まさか、アイリスの無属性魔法を盗もうとしているのかしら?」
「へ?私の魔法を盗む?」
スカサハはジト目で俺に質問してきた。
「な、何を言ってんだ。スカサハ、他人の魔法何て盗めるわけないだろう。そんな話、聞いた事ないぞ」
「可能‥‥できるわ。死の大地の奥地ではね」
「死の大地の奥地? そんな場所に生物が生息できる場所なんてあるのか? 」
「えぇ、〖七聖の聖域〗と言う場所があるわ。それに今は滅んでしまったけど、スリアの民‥‥に取り付いた〖魔の者〗達なら可能だったでしょう?」
「‥‥スリアの〖魔の者〗」
(イヒヒヒヒ!)
俺はスカサハの言葉で、不気味猫の事を思い出していた。確か、アイツはセシリアから念話で聴いた時、ランスロットの身体を乗っ取り、アイツの剣技を使っていたと言っていたな。
「警告‥‥アイリスに無属性魔法のアドバイスをしてあげるのは良いわ。それにカミ君が無属性魔法を覚えるのも良い考えだと私は肯定するけれど、あのアルベルト君にその右耳の耳飾り〖最果ての孤島〗の存在だけは知られては駄目よ。カミ君」
スカサハはそう告げると俺の耳飾りを指差した。
「何でだよ? この中で皆で居れば安全じゃないか?」
「危険‥‥あの人は危ないの。私の見立てでは常に力を求めている様に見えるの。〖最果ての孤島〗は最果てシリーズの一つですもの、その存在を知った彼がそれを欲するかもしれないのよ。だから不用意にその〖最果ての孤島〗の事は喋っては駄目よ」
「‥‥分かった。約束しよう。アルベルトには余りこちらの情報、特に〖最果ての孤島〗については喋らないとな。それと夜はスカサハとアイリスは〖最果ての孤島〗の中で過ごしたくれ、出入口は〖黑衣の布〗で造っておくから、そこから朝は外へと出てくれば、バレないだろうからな」
「了承‥‥それが良いわ。アイリスは私が護衛する。それじゃあ、アイリス‥‥はカミ君が取り出して、七聖語に書き換えた無属性の資料を読みふけっているわね」
「‥‥虚無、無傀儡、消滅、虚構、無闇、凄い、凄いです。こんな自由な魔法理論が存在するなんてビックリしました」
「就寝‥‥それよりも。そろそろ、アルベルト君が戻って来るは、早く〖最果ての孤島〗へと入りましょう。アイリス‥‥ではまた、明日、〖黑黒の布〗からでで来るから、よろしくお願いね。カミ君、おやすみなさい」スゥー‥‥
「こんな貴重な資料、読ませて頂きありがとうございます! カミナリさん」スゥー‥‥
「‥‥あぁ、おやすみ。スカサハ、アイリス」
アイリスには〖虚像の瞳〗を背中辺りに付けた。これで逐一、無属性魔法についての情報が知れる。そうすればそれを解析し、無属性魔法が研究できる。
パチパチ‥‥パキンッ‥‥
「フゥー、今、戻ったぞ‥‥とっ‥‥何だ?カミ、意外誰もいないのか? あの美女と魔法使い娘はどこに行ったんだ?」
スカサハとアイリスが〖最果ての孤島〗に入るのと入れ替わりに、アルベルトが戻って来た。
「アルベルトか。アンタ、いったい今まで何処に居たんだ?」
「‥‥明日、向かう道の探索と掃除だな。イヤー、良い運動になったぞ」
「探索と掃除? なんだそりゃあ。それよりも、ほら! アンタの分の食事、用意しておいたから食べてくれ」
「何?‥‥ワシの分だと? カミが作ってくれたのか? 毒は入っていないだろうな?」
「毒? 何でそんな物を入れる必要がある? アンタとは草原で色々あったけど、その後はこの世界について教えてくれたじゃないか。俺はそれについては感謝してるんだ」
「‥‥感謝か。久しぶりに言われたな。そんな言葉」
アルベルトは森の奥をジーッと悲しそうな眼で見つめている。
「‥‥元の時代から飛ばされる前に何かあったのか?」
「カミよ。王はいつ、いかなる時、どんな時でも孤独なのだ。そして、この世界でもな‥‥いや、たった一人、だけ例外はあるか」
「例外?」
「恋人のレイだ‥‥今はアルゴン側に封印されているがな。少し語り過ぎたな。食事、有り難く頂こう」
粗暴に見えた、このアルベルトには複雑な何かがあるらしい。
そして、次の日の朝、この森〖フルクの森〗に潜伏していた魔獣やキメラ達は全て切り捨てられた後がある死骸となって横たわっていた。