終幕・終れ終りて交ざり合い破れり No.5 隣国は気づき始める
魔法大陸・『魔王領・オリエント・メイス・実務室』
「ま、魔王代理・アイリス様。魔王領南部で軍事演習を行っていた。ギルフォード・サイウォール様より緊急の通達が来ました」
「‥‥‥‥‥聞かせて下さい」
「はい‥‥‥《ガリア国境、赤と黒の〖赤黒鱗粉〗舞い。国境内入りし難民、全て行方知れずになり。ガリア国境付近の住民の安否は不明。魔王軍の駐屯地まで一時的、撤退を行い魔王軍側の被害は皆無なり。ガリア帝国は滅びる可能性あり》‥‥‥との事です」
「‥‥‥赤と黒の鱗粉?‥‥‥まさかガリア帝国は禁則地に‥‥‥〖不思議の森〗に手を出したのですか?!彼処は魔王領、魔法中央国、ガリア帝国で決めた不可侵を破ったというのですか?」
「い、いえ、そ、それにつきましては、現在。ギルフォード殿が調べているそうなので、ガリア帝国側の動きが分かるのも時間がかかるとの思われます」
「それでは間に合いません‥‥‥ガリア帝国国内があの〖不思議の国〗と交ざれり変異すれば、この大陸は終わりです。あれは感染していくのです。悪意も、死の衝動も、堕ちていく快楽も‥‥‥‥現在の『死の大地』の様な土地に」
「『死の大地』と同じっ?!そ、それはあらゆる種族が住めない場所になるという事ですか?魔王代理様っ!」
「分かりません。分かりませんが‥‥‥もしギルフォード卿の報告通り。ガリア帝国が滅びる事があれば、次はこの〖魔王領〗が危うくなるでしょう」
「‥‥‥‥そんな」
ギイィィ!!ガチャ‥‥‥‥
「おぉ、やっと見つけたあぁ!!ヤッホーッ!アイリス。会いに来たよーっ!」
魔王軍諜報担当バルトルと魔王代理アイリス・エスフィールが悲観した話を実務室で話しているととある人物が扉を開けて入って来た。金髪碧眼の天真爛漫そうな少女がそこに立っていた。
「‥‥‥‥小さい少女が何故、魔王城に?‥‥‥迷子かい?此処は君の様な小さい娘が入って来てはいけない場所ですよ」
「へー、部下の躾はちゃんとできているんだね。感心、感心。できた娘でママは嬉しいぞよ。アイリスちゃん」
「エヴァンジェリンお母様っ!‥‥‥‥何故、エヴァンジェリンお母様が此処に?」
「は?お母様?‥‥‥‥この少女が‥‥‥魔王代理様のお母様?!」
「可愛い孫娘が見つかったと聴いてね、アイリスちゃんにも久しぶりに会いたくなって、〖魔法族の里〗から魔王領まで遊びに来たんだよ。アイリスちゃんの部下君」
「は、はぁー、そ、そうなのですか‥‥‥」
「そうですか。ユナに会いに来たのですか。エヴァンジェリンお母様‥‥‥‥ユナはまだ帰って来ていません。確か、数日前の手紙では、まだティアマト地方に居ると書いてありまして‥‥‥それから‥‥‥」
「あー、ゆっくりで良いよアイリスちゃん。慌てなーい。慌てなーい‥‥‥‥だいぶ疲れているね。顔にで出るよ‥‥‥‥ちょっとオデコ触らせてね。アイリス‥‥‥‥」
「は、はい‥‥‥エヴァママ‥‥‥‥」
「うんうん‥‥‥‥昔みたいに素直で良いね‥‥‥少し読み取らせてね‥‥‥ほうほう‥‥‥ガリア帝国がね。成る程。成る程‥‥‥‥だいたい分かったね。ありがとう。アイリスちゃん」
「‥‥‥‥はっ?!私は今、何を‥‥‥エヴァンジェリンお母様?!また、私に何かの催眠を?!」
「何が催眠を?!だいっ!疲れを貯め過ぎだぞ。馬鹿娘っ!!全く‥‥‥‥そこの君。ソラリス・ラウス聖国、魔法中央国、ソルム。それとガリア帝国に隣接する諸外国に私名義でこう伝達してきて‥‥‥《一週間程はガリア帝国国内に接触は困難な模様。自国の守りを固める必要あり》とね」
「え、えーっと。魔王代理様。いかが致しますか?」
「‥‥‥‥許可します。至急、ガリア帝国隣国に緊急の伝達をして下さい。これは魔法大陸の存亡の危機なのですから」
「は、はいっ!畏まりました。ではっ!」
「うんうん。偉くなったね。アイリスちゃん。私は嬉しいよ‥‥‥‥それと孫娘にも早く会いたいぞよ。いや、その前に〖不思議の森〗をどうにかしないとねーっ!可愛い我が娘の為にっ!」
ユナ・エスフィールの祖母。〖魔法族の里長 エヴァンジェリン・エスフィール〗
〖魔法中央国・魔術院〗
「〖不思議の森〗とガリア帝国内で魔力の乱れが検出されました。アルベド先生」
「‥‥‥‥理事長も秘書もガラハットも不在だというのなんて事だ。魔法貴族側は何か言ってきたかな?」
「はい‥‥‥〖魔術院〗の魔法研究資料と検体を魔法中央国の首都に移せと騒いでおります」
「ふんっ!どうせ魔術院研究成果を独占したいだけだろう。魂胆が見え見えだ。王族は‥‥‥魔術帝様はなんと言っている?」
「《騒ぐ馬鹿共は放っておけ。だが〖魔術院〗の全ての生徒は必ず守り生き残らせよ》との事です」
「流石が魔術帝様。見えている‥‥‥〖魔術院〗の全生徒は北のリリーフの街へと避難させる。最悪の場合。ソラリス・ラウス聖国の〖アスフ〗まで行く事を頭に入れて行動してくれ」
「了解しまった。アルベト先生」
「‥‥‥‥全く。ガリア国内のあの赤い空は何だ?いったい今、何が起ころうとしているのですか?マーリン理事長」
〖ソラリス・ラウス聖国・大聖堂〗
「‥‥‥‥信徒達はソロモン山脈へと一時的に避難させなさい。それとこの以上事態を現在、フレイヤ地方にいるセハル司教へと連絡するのです」
「直ぐに手配致します‥‥‥‥司祭様」
傭兵と観光の国〖ソルム〗
「ハハハッ!!乗り込めっ!乗り込めっ!戦争だぜっ!異変が起きてるガリア帝国に乗り込むぞっ!てめえ等っ!」
「「「「オオォォォ!!!略奪、略奪っ!!!ウォッ!ウォッ!ウォッ!ウォッ!ウォッ!」」」」
フレイヤ地方とガリア帝国境目〖ブルーレヴィア〗
「赤の嬢王様。いかが致しますか?ガリア帝国内は明らかに異常事態が起きています。このまま一気にレッドローズ、アダマス、イグニッションの同盟軍で、ガリア帝国の副首都であるブルーグラスに全軍で雪崩れ込み。制圧しますか?」
「逆ですよ‥‥‥‥マルドル」
「は?逆ですと?」
「現ガリア帝国領内への進軍はせず、フレイヤ地方側の砦と駐屯地まで引き上げます」
「な、何故ですか?い、今がブルーグラスを落とす絶好の機会ではありませんかっ!」
「これは罠ですよ‥‥‥‥フレイヤ同盟軍がガリア国内に入れば全滅します‥‥‥きっとあの仮面の方もそう判断する筈です‥‥‥あの赤と黒の雪の様な鱗粉は消して関わっていけないものだと私の直感が言ってあるのです。マルドル」
「‥‥‥‥赤の嬢王様の直感。つまり本当に全滅するということですか‥‥畏まりました。フレイヤ同盟軍の方々にはその様にお伝え致します」
「えぇ、ありがとう。マルドル」
魔法大陸で最も広大な国土を誇るガリア帝国の周りには大小様々な国々がある。正しき判断ができる者達と古き真の歴史を知る者達はガリア帝国に〖触れず〗を選んだ者達は命を繋げた。
そして、その逆の者達。無知、欲望、暴走、戦争を仕掛けてガリア帝国内に侵入した〖触れる〗を選んだ者達は‥‥‥‥〖餌〗となり、魔に身体を差し出す事を選んだのだ。
〖ブラックハート東 狂喜の処刑場〗
「アリス御姉様。何故、勇者様と一緒におられたのですか?確か、アリス御姉様と勇者様の婚姻は破棄されたのですよね?」
「ちょ、ちょっと。こんな状況で何、聞いてきてるのよ。今は乱戦中だし、あの変な卵男との戦いに集中してよね。セレナ」
「とぼけないで下さいっ!勇者様が行方不明になった後は心配していなかったくせにっ!い、一緒に行動してるなんて、油断していました。ゆ、勇者様とはどこまでいったのですが?」
「はっ?ど、どこまでって‥‥‥‥‥」
(‥‥‥こ、これ‥‥‥欲しいの‥‥‥‥ちょ、頂戴。勇者‥‥‥私もあげるから)
(何、言ってんだ。駄目だつうの。つうかそろそろ俺を解放しろ。アリスッ!!‥‥‥‥や、止めろっ!‥‥‥‥‥離れろっ!駄目だってっ!!)
「‥‥‥‥ちょ、ちょっと言えないかな‥‥‥エヘヘへ」
「何で嬉しそうなんですか?‥‥‥‥ま、まさか抱っこしてもらったり、頭を撫ででもらったりしてたんですか?‥‥‥‥羨ましい!!」
「‥‥‥‥発想が可愛いわね。セレナは‥‥‥‥初々しいわね」
「ホホホホ‥‥‥‥邪魔だ貴様等!!!これではガリアの皇族を殺せぬ。ホホホホホホホホ!!」
「お前に」
「あの娘等の」
「再会を」
「邪魔する」
「権利は」
「ないない」
「邪悪な者よっ!」
「「「「「「「〖虹色の束縛〗」」」」」」」
「ぐがぁ?!〖色〗に押しつぶられる?ホホホホホホホホ!!!!可笑しな攻撃ばかりやってくれるなぁ!!ドワーフ共はっ!‥‥‥‥だが、それももうすぐ終わる‥‥‥‥この〖異界〗も終わる。外界の憎きガリアもな‥‥‥‥我が身体が終わる時、全てが始まるのだ。ホホホホホホホホホホホホ!!イヒヒヒヒヒ!!!!!」




