第五幕・白き姫の眠り、婦人と猫 No.3 夫人と料理人と子豚
〖公爵夫人の家・屋根上〗
「何だい?何だい?アンタ。もしかして〖女王〗様の役立たず兎かい?」
「や、役立たず兎とは酷い言われようですね。あちきは貴女と〖女王〗様が仲良くなれる様に、間に立って協力した筈ですよね?なのに何ですか?その言い方」
「ふんっ!忘れたね。そんな事。それよりも良くも私に攻撃してくれたもんだね。役立たず兎!!これは何だい?〖不死議の國〗に‥‥‥〖女王〗様への裏切り行為かい?」
「裏切りって‥‥‥あちきは〖異界の番人〗のお仕事でいつも中立の立場で取り組んできたのですが‥‥‥‥」
「五月蝿いねぇ。五月蝿いねぇ。本当に五月蝿いね。役立たず兎。世話してやった私に向かって何て口の聞き方だいっ!」
「‥‥‥‥この世界の方達は本当に会話が成立しません。ナルカミのダンナさん。お助けを‥‥‥」
「何、意味わかんない事を言ってんだい?もう良いっ!来なっ!料理人に子豚」
カチャッ!
「えぇ、マダム。食材は何処に?」
〖公爵夫人専属料理人・コーク〗
「ママッ!ママッ!食べ物は何処?何処?」
〖公爵夫人の子供・ピーク〗
「‥‥‥この方達は〖公爵夫人〗のお仲間達ですか。少し不味いですか‥‥‥」
「フゴフゴフゴフゴ!!!」
カチャッ!
「む?何だ?この大きな豚は?!」ドカアアアンン!!!!
「「ニャー、ニャー、ニャー!!!!!」」
「フギイィィ!!!何?何?ママ!!!」
ヒルディスは料理人を何処かへ吹き飛ばし、ベイグルとトリエグルは子豚の首根っこを掴むと屋上から落とした。
「あああぁぁ!!!料理人!!子豚ちゃん!!何処に行くんだい!!!」
「‥‥‥‥そうでも無さそうです。じゃあ、あちきはナルカミのダンナさんのお願いどおり〖公爵夫人〗を対応しましょう‥‥‥‥命が握られていますしね。白兎の時止まり(レプス・テンプス)=〖赤狼の時〗」
ヘンリーの持つ懐中時計が二進する。そんな懐中時計が赤く光り輝き、その赤い光から一匹の赤色狼が現れ、公爵夫人の右足へと噛み付いた。
「ウオオオオォォ!!!!」
「ああぁぁ!!!何だい?何だい?この犬ッころは?狂夫人の遊び(クレイジーマダム)・〖癇癪の夫人〗オラァ!!!!喰らいな!!!」
突如として〖公爵夫人〗の顔が巨大化し、ヘンリーが出現させた赤色狼に噛み付いた。
「‥‥‥‥本性を現すのが早すぎませんか?マダム」
「黙りな。役立たず兎。お前の剥製にして、〖女王〗様の前に差し出してやるよ!!オホホホ!!!」
「‥‥‥‥嫌な。趣味してますね。本当に」
〖少し離れた調理場〗
カチャッ!カチャッ!
「最高級の食材がみずから来るとは、今日は女王様の晴れの〖御茶会〗。貴様を調理し、〖御茶会〗のメニューの一つに加えてやる。狂料理人〖狂乱調理〗」
「フゴフゴ‥‥‥‥‥〖火突の猪(ケン・ヒルディス〗」
魔法大陸が誇る至宝。七つの秘宝が一つ〖炎の首飾り(ブリーシンガメン)〗には意思がある。
本来ならば〖剣聖・グレイ・オルタナティブ〗に使われるべき至宝の彼等が、今の主から離れたくないと願い、居続けたいという意思がある。
自分達がこれからも共に過ごしたいと願う主がいるのだ。
そんな彼等は、自身達が絶大な信頼をおく主にに対して敵対するものに決して容赦しない。
それは未知の〖異界〗の世界でも決して変わらない。
「オオオオ!!!何だ?この火の塊は?何故、消せぬ?!!」
「フゴフゴ‥‥‥〖大地の突進〗」
「ゴガア?!!!」
ヒルディスと対峙する前に料理人は逃げるべきだった‥‥‥‥目の前で容赦なく攻撃を繰り出してくる聖猪の獰猛さと強さに最初に気がつくべきだったのだ。
「がああああ!!!!この猪風情があああぁぁ!!!!」
〖壊れた子供部屋〗
「わーい。可愛い猫さんが二匹も僕の所に来てくる何て嬉しいなぁ!‥‥‥‥直ぐに壊れないでよ。お前ら?」
「ニャーニャー(ウルサイブタ)」
「ニャニャー(ソレニクサイヨ)」
「あっ?!何が五月蝿くて臭いって?クソ猫共。僕は豚だ。お前らの言葉だって分かるんだからなっ!!」
「ニャ、ニャ、ニャー(ソレニヒンモナシ)」
「ニャンニャン(ナラ、スグニシトメヨウ)」
「決めた。お前らは死ぬまで僕が踏んづけてやるよ。狂った子豚〖泥鰌なぶ‥‥‥‥」
「〖収穫される生命〗」
「た‥‥の?」‥‥‥ボトッ!
その出来事は一瞬だった。ベイグルとトリエグルが放った爪による斬撃で騒がしい子豚の首から上が壊れた子供部屋の床へと落ちたのだった。
「ニャーニャー(コレデシズカニナル)」
「ニャンニャンニャン(コノコブタハヨワスギ)」
場面代わり再び〖公爵夫人の家・屋根上〗
「白兎の時止まり(レプス・テンプス)〖緑の人形よ〗‥‥‥更にニ進」
カチッコチッカチッコチッ!
懐中時計から緑色の人形が数体現れ、〖公爵夫人〗に襲いかかる。
「何だい?何だい?本当にっ!!次から次へと‥‥‥鬱陶しいよ!!!狂夫人の遊び(クレイジーマダム)〖血みどろ男爵〗!!」
「オオオオオオオオ!!!!」
「‥‥‥‥ダルシア男爵?」
「そう。私のコレクションの一体だよ。役立たず兎!!ゲヒヒヒ!!!死にな!!!」
〖公爵夫人〗がそう叫び、ヘンリーに直接詰め寄ろうとした時だった。
「フゴフゴ!!」
ドサッ!
「「ニャーニャー!!!」」
ドチャッ!
首だけになった料理人と子豚の顔が〖公爵夫人〗の入る目の前に置かれたのは‥‥‥
「あっ?何だい?その汚い頭は?それにアンタらは‥‥‥‥おいっ!ちょっと待ちな。アンタらが捨てたそれ‥‥‥‥私の愛人とその子供だろうがあぁぁ!!!!」
「‥‥‥‥‥貴女と〖女王〗が恐ろしい実験と拷問で産み出した怪物達の間違いでしょう。成る程。成る程。確かにこれはナルカミのダンナさんに付いた方が特かもしれません」
「ああああああ??!!!今、何つった?役立たず兎!!!おいっ!!!!」
「本性が隠しきれなくなってますよ。マダム‥‥‥‥終わりにします。白兎の時止まり(レプス・テンプス)〖嘆きの人魚は沈む〗‥‥更に針を二進‥‥‥‥」
ズズズズズズ‥‥‥‥‥‥
「ララララ‥‥‥‥」
「何だい?何だい?!!〖ブルーミーティア〗の五月蝿い人魚が何で此処に?や、止めろ!!!私をそんな変な場所に引きずり込むな‥‥‥‥止めっ!!ああああア!!!!」トプンッ!
「●●●●の泉でその命が消えるまでさ迷っていて下さい。マダム‥‥‥‥‥そして、そろそろ返して頂きますね。この〖不思議の国〗を‥‥‥」カチッ!
ヘンリーはそう言うと手に持っていた懐中時計の針を元の位置に戻した。