第二幕・嘘つきが消えた村 No.2 ギャラハットとマルクス
神代時代末期〖アテナ地方・今は無き魔獣国スリア〗
「マルクス様。北部に潜伏していた魔獣国の残党は北の〖死の大地〗へと向かって逃走した様です」
「統率を失った魔獣共は〖ヘファイストス地方のモンスターズ・サンド〗へと群れを成して移動中との事です」
「上位の魔神、魔獣種は〖セルビア国〗〖影の国〗等を筆頭とした国々が我がガリアにも兵の要請を‥‥‥‥」
「『魔王領』『魔法中央国』と我が祖国『ガリア帝国』は不可思議の森を禁則地と定めるとの事が決定した様です」
神代末期と呼ばれるこの神集九煌歴6○○○年某日。私、マルクス・サイローは戦後処理に追われていた。
第何次かは忘れてしまったが数千年いや、今は数百年に一度の周期だろうか?魔法世界の地上に残ったとされる魔神族、上位魔獣、異種交配種達への不毛の地への追いやり。
魔法大陸ならば〖死の大地〗。剣技大陸ならば〖北輝の粛清谷〗。暗黒大陸ならば〖魔窟〗。列島大陸ならば〖星読の谷〗氷雪大陸ならば〖氷巨人の遊び場〗。に追いやられる場所が決められていると皇帝陛下は仰っていたな。
残りの幻想大陸と天空大陸はそもそも特別な使者を介さない限り情報すら限られるので知らないらしいがな。
そして、神代時代から始まっている魔神族や魔獣種達への過剰すぎる弾圧は後世の世の中‥‥‥‥つまり現代に伝わらない様にあらゆる神々が隠蔽する。長き神代時代の数千年の中で起きた魔神族、魔獣種との戦争は霊王や初代ガリア皇帝といった後世にまで名を残す方々の台頭した戦争を除き、伝承や記録から抹消された。
寿命が短いエルフ族、人族、魔族、鬼族、亜人などとは違い。〖天界〗の神々は神話時代から永久に生きる者達。
そんな方々ならば可能なのだろう。神代の魔神に対する大粛清の記憶や記録を現代の者達に知られない為に魔法世界全体の隠蔽を‥‥‥‥だが神々ではない極一分の悠久を生きる者達はちゃんと覚えている。いるが彼等彼女等は話せない。
話す事ができないのだろう。何故ならば〖天上の理〗に縛られ、神代の魔神種への残酷な弾圧の歴史の事など喋る事が叶わないのだから。
‥‥‥‥いや、それでも残るんだ。怨みというものは‥‥‥‥それに彼等は狡猾である。形、意識、魔力、姿を変えて我々、現代の恵まれた土地に生きる我々に対して復讐する為に何かを企んでいるだろう。
特に神代時代に広大な土地をガリア帝国に奪われた〖魔獣国スリア〗に住んでいた魔神と魔獣種達のガリア帝国への怨みというのは計りしれない程と、魔獣国スリアを滅ぼし平定した私、自身が思う事である。
尚、余りある時間で書いているこの文章が現代で一目に付くことは無いと考える。何せ私は今、摩訶不思議な場所をさ迷い罰を受けているのだから‥‥‥‥
《著作・マルクス・サイロー》〖軍内極秘記〗‥‥‥‥
◇◇◇◇◇
「ゴラアアア!!ガリア剣術〖痤流鳥栖〗」
スパンッ!!
「神現魔法(黄橙)〖白盾の園守〗。くっ‥‥‥‥アテナ地方の人族の五感が多種族よりも鋭いか‥‥‥それも神代のガリア人の一太刀が弱いわけなんてないみたいだね」
「‥‥‥‥ガラ青年‥‥‥聞け」
「マルクスさん?意識が戻ったんですか?!良かったっ!」
「‥‥‥‥あの煙を吸う芋虫がサーシャ壌さんに集中し始めたおかげで意識が戻り始めた。そして、色々と思い出し始めたよ。自分のやるべき事を‥‥‥‥ガラ青年。ワシにかかっている身体の洗脳を解ける魔法は無いか?ワシさえ自由になれれば、あんな芋虫など一撃で屠れるのだが?」
「マルクスさん‥‥‥何だか言葉使いまで変わってませんか?」
「ん?あぁ、昔の指揮官時代を思い出してな。嫌な時代を‥‥‥‥‥それよりもこの洗脳はどうにか解けないか?‥‥‥‥今は自分の意識で身体を抑え込んで入られる‥‥‥だから今のうちに対策を‥‥‥」
「対策‥‥‥そうは言っても僕は攻撃魔法と剣術が主体の円卓の騎士‥‥‥こんな時に回復特化のアグラヴェイン卿かガウェイン卿が居てくれれば良かったですがね」
「‥‥‥‥〖セルビア国〗の騎士か。では先にあのふざけた芋虫を倒すしかないか‥‥‥ガアァア!!この怨念の煙は‥‥‥どれ程まで強いんのだ?ガ、ガリア剣術〖神狩切り〗」
「この一撃は不味いっ!聖魔法〖聖霊の守領域〗」
ズバアアアンン!!!!
神代を生きたガリア人のフィジカルが織り成す一刀両断‥‥‥‥辛くもギャラハットは素早く聖魔法の結界を張り、村の内側は守られた。だが、その一撃は村の外にある森林の大木を容赦なく切り落とした。
「‥‥‥‥何て威力だい。これがガリア軍人の力なのかい?‥‥‥‥」
「グガアア‥‥‥あえて殺さず。外皮も使わぬのは意識を持たせた状態で祖国が沈むのを間近で見せる為か‥‥‥‥はたまた、怨みあるガリア帝国の民の身体に入りたくないという意思の現れか分からんが‥‥‥‥最初に多種族に悪意を持って危害を加えたのはお前達ではないかっ!魔精女王よっ!」
「魔精女王?‥‥‥それはいったい誰の事を‥‥‥‥」
ギャラハットが荒ぶるマルクスに疑問を投げ掛けようとした瞬間だった。
ボッ!
「ギャアアアアア!!!俺の身体が燃える!!!煙がっ!身体がっ!‥‥‥‥俺の水煙管‥‥‥‥燃え‥‥る」バタンッ‥‥‥‥‥カラン‥‥‥‥
「‥‥‥ガラ先生。マルクス‥‥‥終わった‥‥‥行こう。〖ブラックハート〗に‥‥‥‥」
ギャラハットは彼女を見て少し驚く。燃え盛る村の広場で悠然と立ち。燃えるキャタピラーを無表情で見つめていた。次代の魔女がそこに居た。