消えた神秘
〖異界・不死議の国〗
〖弄びの泉〗
この世界の空は多種多様な色合いで不気味な夜空。快晴の空。夕暮れの時。土砂降りの雨が降り注ぎ。霧が濃霧の生む。場所、場所で多様な空が広がっている。
地上も変だ。森が暗い。海岸が暗い。町が暗い。此処に住んでいる者達も暗い。唯一、明るいのは〖女王〗とその壊れた仲間達のみが幸せな日々をのうのうと送っているのだった。
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「どうにか泉に呑まれる前に脱出できたが‥‥‥‥この泉。何か封印されてたのか?なんで〖魔術院〗の結界が張ってあったんだ?‥‥‥いや、そのお陰で、俺が保険でかけていた結界が反応し、助かったんだがな‥‥‥」
油断していた‥‥‥まさか転移した先が〖異界〗とはな‥‥‥‥気持ちを切り替えないと死ぬ事になる。
「セツナ様。大丈夫ですか?勝手に隠れて付いてきてしまった事、怒ってらっしゃいますか?」
ソフィアさんが今にも泣きそうな表情で俺を見つめている。おっと‥‥‥気持ちを戦闘モードに切り替えたせいで俺が怒ってる様に見えてしまったのか。
「いや、怒ってないよ‥‥‥‥ただ気持ちを切り替えただかだから気にしないでくれ」
俺は彼女にそう言って、今できる精一杯の笑顔を向ける。しかし、まさかソフィアさんが〖黄金の宝物庫〗の中に隠れていたとはな。これも監視のつもりなのか?魔法世界の創造主様の‥‥‥‥いや考えすぎか。今、この〖異界〗から早く脱出する手立て考える方が優先だ。
「切り替える?ですか?え~と。それはどういう事でしょうか?セツナ様」
精一杯の笑顔が良かったのだろうか?ソフィアさんの表情が明るくなった様な気がした。
「〖異界〗に‥‥‥不思議の国に再び来てしまったんだ‥‥‥だから余り俺から離れないでいてくれ。ソフィアさん」
「はいっ!分かりました~!」ガシッ!
と言いながら俺の背中に両手を回し、抱き付いて来た‥‥‥‥こんな状況をレイカさんやカグラさんに見られたらまた、軽蔑されるな。エスフィールは‥‥‥以前は俺が女の子と一緒に居ると機嫌が悪くなっていたくせに、最近はそれがないんだよな‥‥‥‥俺と再開してからは何故か微動だにしない。ロウトルの転移迷宮に行く前の五日間だって‥‥‥‥
(なんじゃ?海底の娘と仲良くなったのか?‥‥‥‥ならば、その者の名前を教えよ‥‥‥)
(今度はソフィアにまで手を出したのか?見境無いアホウか?セツナは。まぁ、権力者の娘に目を付けるのは良いことじゃな。良い事じゃ、良い事じゃ。フム。魔王領は重こ‥‥‥‥‥)
(手記の情報が纏まったのう‥‥‥しかし、多いのう‥‥‥だが最後は全ての者を実力で捩じ伏せて私が必ず勝つのだ)
なんて事を言っていたが俺は深くツッコミを入れなかった。俺は此方の世界でやるべき事を終えたら、本当に大人しく地球へと帰るつもりでいるし、此方の世界に不要に干渉しないと決めている。
今は〖神々の黄昏〗の連中が魔法世界の驚異となっているから。戦いの日々に明け暮れているにすぎないのだから。
だから平和になった世界に別世界の異物がのさばって良いわけ無いんだ。だから全てが終わり、地球での学生生活が終わったらたった一人で旅にでも出ようと思う画策している。その後はアルディスやソフィアさんやウリエル達の責任をちゃんと取るつもりだ。いや、それ以前に旅の事でエスフィールが許してくれるかは分からないけどさ。
おっと。話がそれにそれてしまって申し訳ない。話をこの不可思議な世界に戻そうか。
‥‥‥‥おそらくこの〖異界〗にもその一人が居る。‥‥‥‥だんだんと思い出してきたんだ。昔、ガリア帝国の王女であるアリス王女と共にこの〖異界〗に迷い込み。なす術無く捕えられ、処刑されそうになった俺達だったが、俺が持っていた黒い衣装を気に入った女王に献上し。それを対価にこの狂った世界から出してもらったんだよな。
その時にあった〖女王〗の雰囲気がこれまで戦った〖神々の黄昏〗の奴等が纏う独特な魔力残滓に似ていたのだ。
「だからアテナ地方は未だに不安定だったのか‥‥‥‥なんでそれを今、思い出してんだ。俺は‥‥‥」
「セツナ様?」
ソフィアさんが再び不安そうな顔になる。また怖い顔になってしまっているんだろうか?申し訳ない無い気持ちではいるが、此処は危険だ。早く安全な場所を確保し、情報も集めてエスフィールと合流しなければならないが‥‥‥‥それよりも早急に確めたい事が幾つかあるのだ。
「‥‥‥‥少し待っててくれ。ソフィアさん‥‥‥‥〖黄金の宝物庫〗よ‥‥‥大蛇を此処へ」
(‥‥‥‥‥)
〖黄金の宝物庫〗が反応しない‥‥‥‥ウリエル。聴こえるか?‥‥‥‥
(‥‥‥‥‥)
俺の精神世界のウリエルも反応しない。
「‥‥‥‥神具や神の大蛇や天使族のウリエル‥‥‥〖神秘〗を纏う者の気配が消えた?なら〖黄金の宝物庫〗の部屋ではない彼処に隠れてた二人も外に弾かれたのか?‥‥‥‥普通の魔道具は?‥‥‥‥〖バルバロッサの魔部屋〗よ」
ズズズ‥‥‥‥ガシャンッ!
「ワワワ‥‥‥大きな御部屋が現れました~!」
「あぁ、〖神秘〗を纏わない魔道具ならこの世界でも使えるみたいだな‥‥‥‥警戒していて正解だったか‥‥‥先ずは合流。次に女王の城へ。優先すべきは脱出だが‥‥‥‥倒せるか?今の戦力だけで?一度会っているから分かる。多分あの〖女王〗は大アルカナの一桁No.だよな.‥‥‥」
「セツナ様。ご気分が悪いようでしたら、私の膝でお休みになられますか~?」
「いや、大丈夫だよ。ソフィアさん‥‥‥検証は終わった。そろそろこの場所に離れよう‥‥‥‥天雷魔法・〖春雷軌〗」
「へ?はわわわっ!!セツナ様~!いきなりどうされたんですか!!」
俺はそう告げるとソフィアさんをお姫様抱っこし、天雷魔法で〖弄びの泉〗を後にした。
〖正気の者達の村〗
「何だ?アンタ等もいきなり落ちて来たのかい?何年前に?」
「何年前?‥‥‥いや、僕達は数刻前に来たばかりなんですけどね」
「‥‥‥‥‥うん、そう。気づいたらこの村の丘に倒れてたの」
「そりゃあ、難儀だったな‥‥‥‥此処は不思議の森の奥深くにして、〖異界・不思議の国〗ちゅう言われる世界だ‥‥‥‥おっとまだ自己紹介してなかったな。俺は昔、ガリア帝国の軍人だったマルクスと言うもんでな。時たま、堕ちてくる奴等を保護して、この安全な村に匿ってるんだ」
「不思議の森ですか?それって‥‥‥魔王領、魔法中央国、ガリア帝国の三国が協議の末、開拓禁止区域にしていた禁則地ですよね?」
「そうだ‥‥‥そして、異形の奴等の楽園だな。まぁ、奴等の女王はこの世界を〖不死議の國〗と呼ばせている。不思議と死を楽しむ世界。〖不死議の國〗とな」
「‥‥‥‥〖不死議の國〗?‥‥‥それは変。此処は妖精神の世界の一つ‥‥‥‥そんなわけない。そもそも此処は楽しい世界の筈っ!」
「サーシャ?どうしたんだい?いきなり怒りだすなんて」
「‥‥‥‥ガラ先生。この世界は乗っ取られてる‥‥‥‥昔はもっと明るい世界だったもの。〖ティターニア〗の気配が無い‥‥‥昔、迷い込んだ時とは全部違う世界になってる‥‥‥」
「‥‥‥‥‥サーシャ?」
「‥‥‥‥何か知ってるのか?魔術院の嬢ちゃんは?」
〖ハートの城・牢獄〗
暗き拷問部屋に吊るされるは前女王〖ティターニア〗。身体中に刺し傷と拷問の後。背中の羽根の片方は無惨に切り刻まれ。衰弱しきっていた。
そして、それを見やるは頭には黄金の王冠を乗せ赤と黒色のドレスを纏った。不気味な雰囲気の少女が一人。恍惚の笑みを浮かべてティターニアの苦しむ姿を見つめていた。
「‥‥‥‥返して下さい。私の羽根を‥‥‥‥」
「フフフフフフフフフフフ!!駄目よ。駄目。駄目。変わりにこれをあげる」
グサッ!!
「イヤアアアアアア!!!!!」
「フフフフフ‥‥‥‥楽しい拷問」
「ホホホホ。〖女王〗様。お楽しみのところ申し訳ない‥‥‥ご報告が。ホホホホ」
「‥‥‥ハンプティ?何?今は忙しいのよ。前女王と遊んであげているの」
「ホホホホ。それはそれは私も是非、交ざりたいですが‥‥‥今はご報告させて下さいな‥‥‥新しい黒い衣装がやって来ました。それと大量の玩具達も堕ちてきたと白兎が報告を。ホホホホ‥‥‥」
「?!‥‥‥‥フフフフフフフフフ!!それは本当?!フフフフフフフ。それは嬉しい。嬉しい報告ね。こんな馬鹿な女と遊んでいる場合じゃないの」
グサッ!
「イヤアアアアアア!!!お、お腹に鋏が刺ってつ!あああ!!!」
「ホホホホホホホホ!!!素晴らしいっ!鳴き声ですなっ!!私、とても興奮しますぞぉ!!」
「フフフフフフフ。この玩具も飽きてきたわ。狩りを‥‥‥狩りを始めるわ。ハンプティ‥‥‥そして、新しい黒の衣装を纏って出ましょう‥‥‥‥外の世界に‥‥‥不死議の國と交わった狂った世界に変えてあげる。フフフフフフフフ!!!」
〖神々の黄昏が一人。M・G・エレイン
(妖精屍体)」