エドワードのお願い
『ティアマト地方・アレス灯台』
〖臨時宿泊広場の一室〗
〖造船都市・エヌマ〗には日に日に人が増えている。それもありとあらゆる種族の技術者、商人、冒険者達が各地方や各大陸の海を渡ってやって来る。
それもこれもこのティアマト地方でかつてない程の規模の魔道船が造られているという噂が、魔法大陸を超えて魔法世界中に広まっているのだとか。
まぁ、魔道船を造る過程で使われるあらゆる技術を盗もうと他地方や他大陸の奴等が躍起になっているのだろう。
そんな奴等には―女神―ティアマト神自らが忘却魔法で記憶の一部を消去して、大海原に放流するんだとか‥‥‥‥あの見た目、角の生やし娘―女神―様はなんともえげつない事を考えるものだな。
まぁ、魔道船が完成した暁には、瞬時に〖黄金の宝物庫〗の中にしまって、さっさと地球に帰還してしまおう。これ以上、変なトラブルに巻き込まれない為にもな。
なんたって今回の旅の目的は既に達成しているのだ。行方不明になってしまった。俺の相方である魔王様こと〖ユナ・エスフィール〗を探す旅。
それが昨日、ようやく終わったのだ。エスフィールが行方不明になった事を知って以来、俺はエスフィールを必死に捜索していた。
そして、彼女も俺と再会する為に遥々、剣技大陸から海を渡り帰還していたのである。
お互いの努力のかいあって、無事に俺達は再会できたのだった。
そんな出来事から一日経った朝、俺は地球から持ってきた自前のパソコンの液晶とにらめっこしながら魔道船の資料を纏めていた。
カタカタカタカタ‥‥‥‥‥。
「フゥー、まだまだ書く事が多いな。それにあっちに帰る前にやる事が沢山だ‥‥‥」
「頼みがあるのです。神成殿」
「ウィー、神成っ!!ルアが無事に戻ったんだから、かまえー、遊べー、」
「ごわぁっ!ルアか‥‥‥‥シエルさんに遊んでもらえよ。今は忙しんだぞ。それと後、数日したら地球に帰るんだから準備しておけよ。ルア」
「ウィー、シエルママは馬鹿息子の教育中ー、帰る準備は了解したー」
「馬鹿息子?‥‥‥‥あぁ、グレイの事か‥‥‥‥そういえば。何でグレイがティアマト地方に居るんだ?アイツ。確かセシリアを追いかけてヘファイストス地方に向かった筈だよな?‥‥‥‥」
「ウィー、シエルママ、言ってた。馬鹿息子は究極の方向音痴だから再度ちゃんとした教育が必要だって」
「再度ちゃんとした教育?なんじゃそりゃあ?」
◇◇◇◇◇
〖アレス灯台広場〗
「‥‥‥‥グレイ君。貴方、〖剣聖〗の仕事をほっポリだして、何を好き勝手遊んでいるのですか?」
「‥‥‥‥母上殿。ち、違うのです‥‥‥これは運命の君と出会う為の大切な試練の旅でありまして」
「‥‥‥‥ママ。ママです。私と二人で居る時は、シエルママと呼びなさい。グレイ君」
「くっ!いや、それは‥母上殿‥‥‥こ、こんな人集りの中でママなど‥‥‥」ゴツンっ!
「‥‥‥‥良いから呼びなさい。グレイ」
「‥‥‥‥あぃ‥‥‥シエルママ殿」
「‥‥‥はい。大変宜しいですよ。グレイ君」
◇◇◇◇◇
「あのもしもし‥‥‥神成殿」
「‥‥‥シエルさんが駄目なら。アナスタシア、ティアマト、ユグドラシル様達。〖穀潰しロリ神組〗に遊んでもらってくれ、ルア。アイツ等‥‥‥あの方達は〖天界〗なら万能なんだろうけど。地上じゃあ、仕事の一つもろくにこなせないニート達だからな。確か、そこら辺の海岸で暇を持て余してた筈だぞ」
「ウィウィー、分かったっ!アナスタシアの所に行ってくりゅーっ!」
ルアはそう叫ぶと。勢い良く外へと飛び出して行った。
「おう。気をつけて行ってこいよー‥‥‥良し。これで静かになったな」
「‥‥‥いや、もしもし神成氏。僕がさっきからずっと居るのですが?」
‥‥‥さっきから誰かの声が聴こえる気がするな。
「あっ!此処に居たんですね?ご主人様っ!探したんですよっ!」
「今度はウリエルか‥‥‥何か用事か?君は確かアルマや可憐ちゃんと‥‥‥ソフィアさんの友達達と一緒海で遊んでたんじゃないのか?」
「はいっ!遊んでました。そして、思い出も作りました。では〖同化〗しましょう。直ぐしましょう。ご主人様‥‥‥私、もうご主人様の中じゃないと疲れが取れなくて満足できない身体になってしまってるんてすから!!」
ピカーンッ!とっ!光るとウリエルは光の球体になり、俺の身体の中へと入って来た。
「いや、待てっ!何でいきなりって‥‥‥ウリエルの奴、疲れて寝ちまった‥‥‥まぁ、あっちに帰るまで、まだ数日あるし。帰り際にでも起こしてやるか‥‥‥」
「‥‥‥そろそろ僕のターンで宜しいですかな?神成氏」
‥‥‥‥また何かの声が聴こえた気がした。
コンコン‥‥‥ウリエルに続きまた新たな訪問者が現れたけど。今度はちゃんとノックをしてくれている。しかもかなりの控え目な。
「入るぞ。神成」「‥‥‥失礼します」「こんにちは。〖担い手〗さん」「おぉっ!英雄殿。こんな所に居たのだな」
「なんだ。アダマスのオッサン達か‥‥‥」
アダマスのオッサンとティアマト地方の王様達がぞろぞろと入って来た。この部屋は狭いのに止めて欲しいものだ。
「‥‥‥何か様か?アダマスのオッサン」
「‥‥‥貴様。何で俺の顔を見た瞬間。嫌そうな顔をするんだ?」
「‥‥‥あんたが居ると嫌なトラブルしか起こらないからだ」
「張り倒すぞ。小僧っ!」
「消し炭にしてやるよ。オッサン」
バチバチっと!俺とアダマスのオッサンのいつものやり取りが繰り広げられる。
「‥‥‥‥あのお父様に煽るなんて、何て凄いっ!」
アダマスのオッサンの隣に居る。病弱そうな女の子が目を輝かせて俺を見つめている。
なんだこの病弱美少女は?‥‥‥‥こ、これ以上、女の子のトラブルは起こらないでくれ。
「貴様、俺の最愛の息子に何て目を向けている?」
「は?息子っ?この病弱な女の子が、アダマスのオッサンの息子だと?‥‥‥この子が息子を?!!!」
「アルク・ダイヤ・アダマスです。〖担い手〗さん。以後、よろしくお願いします」
「れ、礼儀だたしいだと?あの傍若無人アダマス王の子供が礼儀だたしいだと?そして、メチャクチャ可愛いだと?、」
「黙れっ!小僧!!!そして、俺の最愛の息子を変な目で見るなっ!こ鋼鐵魔法〖砂金劭〗」
「ちょっ!オッサン。こんな狭い場所で魔法を撃つなよっ!聖魔法〖守聖〗」
ドガアアアンン!!!!
「「「「「ギャアアアアア!!!!」」」」」
アダマスのオッサンが切れて魔法を放ったせいで宿泊広場の一部が吹っ飛んだ。
◇◇◇◇◇
「‥‥‥‥息子の事でカッとなって済まなかった」
「いや、俺もあんたの息子を変な目で見て悪かったよ‥‥‥オッサン」
「あぁ、次、同じ様な事をすればお前の顔面を殴るがな‥‥‥それとさっき言った様に、俺と新体制になったティアマト地方の支持者である〖深海〗〖海底〗〖海上〗の各国々の王族達は、暫くの間この〖造船都市・エヌマ〗に滞在するからな。〖―女神―ティアマト〗神に伝え、新たな〖加護〗を付けて頂ける様に言っておいてくれ」
「あぁ、分かった。ティアマト神にはそう伝えておくよ」
「感謝するぞ。小僧‥‥‥それとアルクも身体の療養の為。暫くは魔道船の中で生活させるが良いんだな?」
「ん?あぁ、良いぞ。部屋ならユグドラシル地方から来た、ドワーフ達が造りまくって空いてるからな」
「ドワーフさん達の造った部屋で暮らせるのですか?‥‥‥ありがとうございます。〖担い手〗さん」
‥‥‥とても眩しい裏表の無い笑顔だった。
「おいっ!クソガキ。変な事は起こすなよ」
アダマスのオッサンのドスの効いた声が聴こえてきた。
「‥‥‥最早、存在すら認識されてませんな。僕は‥‥‥」
◇◇◇◇◇
「フゥー、だいたいのやる事は終わったか?‥‥‥‥それで?なんだよ。エドワード。数年振りに会ったかと思ったら、頼み事って?」
「‥‥‥‥やっと会話をしてくれる気になったのですかな?神成氏」
「そのしつこさに根負けしただけだわ‥‥‥‥」
俺の仕事中ずっと話しかけていたコイツは剣技大陸から来た〖治癒師・エドワード・ユグドラ〗と言う魔剣学園の生徒の一人だ。
金髪に端正な顔立ち。そして、胡散臭い笑みを浮かべる腹黒男だ。
数年前、俺が魔法大陸の北東側を一人で旅をしている時に知り合ったんだが‥‥‥‥会うのは本当に久しぶりである。
「それで何の様だ?剣技大陸の〖神ノ使徒〗様」
「いや、もう元ですよ。魔法大陸の〖神ノ使徒〗様」
は?元?コイツ。今、元って?言ったのか?
「元って?‥‥‥エドワード。お前、使徒の座から降りたのか?」
「‥‥‥‥神成氏は失ったのですかな?‥‥‥あれ?でも、確か、数日前の闘いで使ってませんだしたかな?」
‥‥‥‥俺とエドワードはお互いの目を数秒間じーっと見つめ合い。お互いに何かを悟り。この話はこれ以上しない事をアイコンタクトで確認し合った。
「‥‥‥‥‥お互い隠したい事はあるか。しかし、そっちの‥‥‥‥魔剣学園側の要求はアダルマとソフィアちゃ‥‥‥ソフィアさんに頼まれて殆んど叶えてやったんだぞ」
「ほうほう。そうなのですかな?」
‥‥‥‥コイツ。アダルマから色々と聞いている筈なのに知らない振りを決め込む気か?
「学生達の衣食住の確保。ティアマト神の〖加護〗。学園側の勉強が遅れない為に、〖剣技話〗を話せる人材の派遣。学生が暇な時は魔道船の中で働いて貰って技能を身に付けて貰える様にクエスト形式でバイトの求人もドワーフ達に依頼している」
「いやー、流石は神成氏。仕事が早くて助かりますぞ」
「オマケに魔剣学園には無利子で多額の金まで急いで用意したんだ。それを使って早く剣技大陸に帰れば良いじゃないか」
「はい。それはそうなんですか‥‥‥今、現在ですな。剣技大陸への渡航が不可能なのですよ。神成氏」
「は?不可能だって?いやいや、俺の方は普通に剣神から許可が降りたとレヴィアタンとティアマト神は言っていたぞ」
「‥‥‥‥ではこれは剣技大陸の者達が〖剣神〗様から与えられた試練ですな」
「試練?‥‥‥何、言ったんだ?大陸間を渡航するのにそんなに話、聴いたこと無いぞ。だいたいは各大陸の祭壇に莫大な供物を捧げれば、魔法世界の海洋の渡航は可能の筈だろう?」
「それが無理だから。困っているのですよ。神成氏。その祭壇に供物を捧げられないから困っているのです‥‥‥‥だから転移魔法で一度戻らねばなりません。剣技大陸港都市〖アステルマルカル〗の海底にある遺跡。〖海洋遺跡〗へと‥‥‥」
「‥‥‥‥無理だな。幾ら転移魔法といっても、俺、一人ならともかく。大人数を一気に転移させる何て不可能に近い‥‥‥‥諦めて、あっちの剣技大陸の人達が何かしらの対策をしてくれるまでは下手な事はしない方が身の為だぞ」
「おや?宜しいのですかな?剣技大陸・カンナギ王国の貴族であるソフィア嬢に手を出した事を流布されても?」
「‥‥‥‥俺はされた側だぞ。(飲ませる物を間違えたけどな)‥‥‥つうか、あの娘は何なんだ?エドワード」
「何だとは?何ですかな?」
「‥‥‥‥彼女に〖魔力〗も〖神気〗も〖神秘〗も無力化された。いや、それ以前に人としての知も力もソフィアさんには通用しなかった‥‥‥‥お前ら剣技大陸の民は何を隠しているんだ?」
「‥‥‥‥今は答えられませんな」
「‥‥‥そうかい。まぁ、それは良いが。渡航の話は駄目だ。これは良い悪いとかの話じゃない‥‥‥君の友人として、転移魔法で渡航を許可する事はできない」
「フム‥‥‥‥ならば〖ロウトルの転移迷宮〗へと連れて行って頂きたいですな。神成殿」
「‥‥‥‥お前。何でその名を知ってる?」
「此方での留学中。色々と調べました‥‥‥魔術師・マーリン殿の弟子である神成氏ならば場所をご存じですな?姫君や僕が探している〖迷宮〗。二つ目になりますか‥‥‥‥転移魔法陣の考案者〖ロウトル・シグア〗が残したという。魔法世界のあらゆる場所に転移が可能とされる迷宮。〖ロウトルの迷宮〗‥‥‥‥案内していただけるなら。約束しますよ。〖神々の黄昏〗の一人を確実に葬ると‥‥‥‥」
エドワードはそう言うと不適な笑みを浮かべるのだった‥‥‥‥。
〖不死議の國と終国の六騎士〗編
開幕‥‥‥‥。