溟海決戦 淡水は悟り涙を流す No.16 海水と淡水の物語
〖エルドゥ・海上浮上門〗
「黒い鎧と海水の術者が消えましたな‥‥‥」
「凄い闘いだったわね。天候が大荒れよ、ねぇ、ユナー!」
「あ、あぁ‥‥‥‥しかし、あの黒い鎧の者の雷の技、何処かで見てきた気がするのだ‥‥‥‥いや、だがそもそもあやつとの体格が全然違うしの‥‥‥‥」
大軍勢と化して進軍してきた怪物達も突然、現れた〖剣聖〗グレイ・オルタナティブと姫君と呼ばれる少女によってその殆どが、捕らえられ身動きが取れない状態だった。
そして、〖エルドゥ・海上浮上門〗の戦いが落ち着こうとしていた時、二人の少女が突然、落ちてきた。
「ちょっとっ!ウリエルさんっ!翼を負傷していて翔べないって先に言って下さいっ!!」
「す、すみませんっ!私もさっきの闘いでハイになっていたので気づけませんでしたっ!あぁ、落ちる!!!」
「ま、任せて下さいっ!!水魔法〖水防球〗!!」
パシャンっ!!!
一人の少女が水魔法で落下の衝撃を殺し、無事に着地に成功した。
「な、何じゃ?いきなり‥‥‥上から人が‥‥‥‥ん?あやつは‥‥‥もしや‥‥‥」
金髪の少女が落ちてきた二人へと近づいて行く。
「あっ!こらっ!危ないわよ。不用意に近づいちゃ駄目よ。ユナ!!」
「痛たた‥‥‥全身ビショビショです‥‥‥‥」
「ごめんなさい‥‥‥可憐様。私の不注意でこんな事に‥‥‥」
「おいっ!お主‥‥‥もしや可憐ではないか?‥‥‥」
「へ?‥‥‥その声はもしかして?エスフィールさん?が‥‥‥‥何でこんな所に居るんですか?」
「いや‥‥‥‥それはこっちの台詞なんじゃがのう‥‥‥」
『ティアマト地方・海上エリア』
〖造船都市・エヌマ〗上空
パリンッ!パリンッ!
「化物(子供)共の〖真核〗でどうにか身体が焼ききれずに済んだが‥‥‥残りの〖真核〗は三つか‥‥‥」
「流石が神様。しぶといな。焼き焦げた身体も瞬時に元通りとはな‥‥‥だが、海から切り離し、天候舞う空へと追いやった‥‥‥もう後が無いぞ。アプス」
「‥‥‥‥知恵の神〖エア〗と同じ事をお前は言うのかだな。エアは俺が死ぬ原因となった者‥‥‥‥そして、奴は俺の身体を住居としてマルドゥクを産み。奴等は俺を見下しながら俺様を殺した‥‥‥‥そして、俺様の最愛の妻たるティアマトまで殺したのだ‥‥‥‥」
アプスはそう告げるとティアマト地方の海を眺め始めた。
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『地球・原初の海』
「ゴクッ‥‥‥‥ぐっ!何だ?この塩水は‥‥‥こんな不味い水。初めて味わうぞっ!最悪だなこの海は」
「何を言っているのそこのお馬鹿さん。此処は海なのよ。塩の水なのだから不味いに決まっているでしょう」
「‥‥‥誰だお前?淡水の神たる俺様が馬鹿だと?!ふざけるなっ!訂正しろっ!俺様にはアプスという偉大な名前があるんだぞ」
「あら、ごめんなさい。つい本音が出ちゃったわ。私はティアマト。原初の海よ、アプス君」
「‥‥‥‥アプス君だと?」
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「君と過ごす日々は俺様にとってかけがえの無いものになった‥‥‥だから、俺様と共に今後の世界を造ってほしいのだ。必ず幸せにする」
「‥‥‥‥何?それが貴方の全力の告白なの?‥‥‥んー、まぁ、此処には私と貴方しかいないし。仕方ないわね‥‥‥‥承諾しましょう。私のアプス君」
「‥‥‥‥あ、あぁ、承諾してくれてありがとう。ティアマト。俺様は君を全力で愛そう」
「それじゃあ、私も貴方を全力で拒否するわね」
「‥‥‥‥‥今、何と言った?」
「プッ!冗談よ。私の旦那様‥‥‥」
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「‥‥‥‥まさかティアマトと俺様の間に子供ができるとはな‥‥‥‥」
「〖魔水球〗って言うのよ。この中に貴方の〖淡水〗と私の〖海水〗の権能を混ぜ合わせると新たな神子が産まれるとあの方は言っていたわ」
「それを信じて本当に権能を混ぜるとは思っていなかったぞ‥‥‥‥そして、産まれたのがラフムとラハムか」
「ダー、ダー、ダー、」「キャッ!キャッ!」
「私とアプス君の子供達。可愛いわね‥‥‥‥どんどん〖魔水球〗で産んであげましょうっ!」
「いや、どんどん産むな。神子故、直ぐに自我を持ち自立するとはいえ。産み過ぎれば世界のバランスが可笑しな事にだな。ティアマト‥‥‥‥」
「とりあえず。11の〖魔水球〗に権能を注いでいたわ。アプス君」
「‥‥‥この馬鹿者!!俺様の話を聞いていたのか?」
ポコッ!
「あっ!私の頭を軽く叩くなんて。暫く別居するわよっ!」
「‥‥‥‥俺様が悪かった。お詫びに君のお願いを何でも聞こう」
「今、何でも言ったの?なら、私達が産んだ沢山の子供達が平和に暮らせる世界が欲しいの」
「子供達が平和に暮らせるか‥‥‥‥そうか。ならばそれを叶えてやろう。最愛の妻・ティアマトよ‥‥‥‥」
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「あの神子共。産んでやった恩など忘れて、俺様達に文句を言うとは‥‥‥‥」
「反抗的になっているだけよ。私達が優しく接してあげていれば、何れ分かり合えるわ。アプス君‥‥‥必ずね」
「必ずか‥‥‥‥そうか。君の言葉ならば信じよう。ティアマトが信じるなら、俺様も神子の奴等を信じるとしよう」
「フフフ、ありがとう。私の大切なアプス君‥‥‥‥」
▼
「我々の騒ぎに耐えきれず。謀略を持って神子達を排除しようとして、逆にこちらの謀略で死ぬ事になるとはな。アプス」
「‥‥‥‥エアッ!!貴様アアアア!!!俺様の身体に何をした?!!!」
「お前を土台として、原初の海に勝つ為の神を造ろう‥‥‥そして、その子と共にお前が死ぬ所を見ていてやる」
「‥‥‥‥相変わらず。意味が分からん歪んだ考えを持っている‥‥‥覚えていろ。どんな形であれ、必ずお前達に復讐を果たしてやるからなっ!」
「それは無理だ。アプス‥‥‥‥なんせ、我が子供。マルドゥクが必ず、お前の妻たる原初の海‥‥‥‥ティアマト神を殺すのだからな。フハハハハッ!!」
「貴様っ!貴様という奴は!!貴様等、新時代の神子共はどこまで歪んでいるのだっ!!」
‥‥‥‥そして、俺様は奴の子〖マルドゥク〗が意思を持つと同時に殺され、精神は何処かの狭間を彷徨っていたのだ。
△
(此処にいたのね。アプス君‥‥‥‥私はあの方との契約で〖天界〗に行くけど‥‥‥魔法世界の方に転生体の私を残していくわ。だから‥‥‥‥貴方は新しい世界でちゃんと幸せになってほしい‥‥‥お願い。アプス君)
シュンッ!
「‥‥‥今の声はティアマトか?俺様は確か‥‥‥‥身体を大地に変えられ、マルドゥクが率いる新しき神共の進行を受け敗れた筈だが‥‥‥‥(記憶が曖昧だ。頭が回らん。記憶が弄られているのか?)」
「ほう。こんな〖冥界〗との境目に人の形をした何かが漂流した来るとはな。珍しいものだ」
「いや、何を言ってるのよっ!イケメンが裸なんだからここは興奮する所でしょう。〖代理人〗ちゃんっ!」
△△
「魔法大陸の各所に進行しろっ!行けっ!子供共よっ!」
「父上の為に‥‥‥‥」
「ガハハハハッ!!殺して回ろう!!」
(彼方の世界で殺された筈の怪物達まで来るとはな。これはティアマトが地球に復讐する為の力として俺様に託したのだな‥‥‥‥見ていろ。ティアマト。俺様は必ず地球への復讐をやり遂げてやる)
△△△
「何?貴方?‥‥‥‥此処は聖域よ。貴方みたいな得体の知れない存在が来てはいけない場所なの」
「‥‥‥‥此方の世界のティアマトが居ると聴いて来てみれば‥‥‥転生後か‥‥‥ならばお前は我が妻とは別物だな」
「何?何を変な事を言っているのよ?」
「だが、器としては使えよう‥‥‥眠れ‥‥‥そして、俺様が次元を越える為の糧となれ。魔法世界の―女神―ティアマトよ。〖正義〗よ‥‥‥」
「嫌っ!何?止めてぇぇ!!!」
△△△△
〖無闇の部屋〗
「なんと?―女神―ティアマトを手中に納めただと?それは本当か?アプス」
「俺が嘘を言う為に〖無闇〗まで来るとも思うか?〖代理人〗約束通り。今後、ティアマト地方は好きに使わせてもらうぞ‥‥‥俺様の願いの為にな」
「‥‥‥‥あぁ、それで良い。お前が〖神々の黄昏〗の〖正義〗として存在していれば、ティアマト地方は力を失っていくからな」
「そうか。ならば俺様は逆に力を付けるとしよう‥‥‥」
△△△△△
「ティアマト神殿‥‥‥いや、〖方舟〗が遂に完成した。子供(怪物)達よ‥‥‥帰還の時は近い。全てに備えよ」
「「「「「「「「「「「はい。全ては海水と淡水が混ざりし為に、母たるティアマト神と父たるアプス神の再開を!!!我等、家族の再開の時っ!!!!」」」」」」」」」」」
◇◇◇◇◇
「そう全てはエアとマルドゥクを初めとする神子共と地球に復讐する為に行動して来た‥‥‥‥今更、お前ごときの邪魔で全てが台無しにされてたまるか‥‥‥‥大アルカナ‥‥‥‥〖正義〗と〖世界〗を放棄し‥‥‥‥〖淡水〗の〖権能〗の神化の糧とする‥‥‥‥原初・回帰‥‥‥‥〖創造神話〗」
アプスの身体から二つの輝きが解き放たれ、宙を舞った。一つは俺が着けていた腕輪の魔道具に、一つは俺腰に着けていた魔法の袋(黄金の宝物庫)の中にまるで新しい主を探す様に真っ直ぐに向かって来た。
そして、二つの輝きを失ったアプスはというと‥‥‥‥
「‥‥‥‥まさか、自分から大アルカナを棄てるとは思わなかったぞ。〖神・アプス〗‥‥‥可笑しくなったか?」
「可笑しくなったか‥‥‥‥だと?何を言う。これで俺様にかかるこの世界での枷は外れた‥‥‥これで地球に居た頃の〖原初の神〗たる力が使えるぞ。小僧っ!!!!!」
「無理やり回帰したのか?そんな事すれば、一時的に力は増すがお前の身体は持たなくなるぞ‥‥‥」
「戯言はもう十分だ‥‥‥この姿を持ってお前を今度こそ殺すっ!!!黒衣の小僧よっ!」
『創造水神・アプス・ナブ』回帰‥‥‥‥‥。