溟海決戦 淡水は悟り涙を流す No.12 キシャルと緊那羅
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〖緊那羅〗
半人半馬の姿と伝えられている。音楽の神としての側面も持つとされる。
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『ティアマト地方』〖深海エリア・キシュ〗
「さっきの爆発は何?ここは何処?私は死んだの?」
シュンッ!
「ホホウ。海の中、しかも深海に空洞とは‥‥‥地上の光が此処まで届いている。何と興味深い謎多きを場所でありますな。この魔法世界っ!このティアマト地方と言われる場所はっ!」
「五月蝿い人が現れた。馬と鳥の半面を付けているなんて変な姿‥‥‥」
「そして、目の前には先程まで闘っていた小さき娘ですか。成る程、成る程。主が放った雷撃から私を逃がす為に転移させたという事ですか。成る程。成る程。では、小さき娘さん。殺し合いの続きを再開しますか?」
「そう。それがお爺様の願い私は彼の事を何も知らないけれど。私の心の奥底で眠る記憶が叫んでいる。彼方の世界の成功者達を殺せってね。〖キシャル・エンキ〗・〖地神の気まぐれ(アシャル・イド)〗」
汚泥水の短剣がキシャルの右手に造られる。キシャルはその汚泥短剣を近くを泳いでいた深海の海獣に投げた。するとその海獣は緊那羅に向かって一心不乱に突っ込んで行く。
「リュアラアアアアアア!!!!!!」
「ホホウ。〖操り技法〗ですか。これはこれは珍しいお力を使うのですね。では、私もこの海獣と似た者を操りましょう。〖歌楽の相〗・〖疑神の操り・鳥の絵〗」
緊那羅は懐から一つの笛を取り出した。そして、奏でると緊那羅の影から無数の金の小鳥が現れた。
「「「「「チチチチッ!!!!」」」」」
「‥‥‥‥あの海獣を喰らってあげなさい。子供達」
「「「「「チチチチ‥‥‥‥‥ヂアアアア!!!!!!」」」」」
緊那羅が喚び出した小さき小鳥達の嘴が鋭利に歪み。キシャルが操る海獣に向かい、襲い、頬張る。
「ジュアアアアアアア?!!!!」
海獣は断末魔の雄叫びをあげると同時に骨だけ残して絶命した。小鳥達の貪欲な食欲による啄みによって全ての肉を喰われながら絶命してしまった。
「酷い殺し方をするのね。最低‥‥‥‥それでも神聖を帯びる者の闘い方かしら?」
「いやいや。貴女こそ何とも酷い方では無いですかな?私が先程、屠った海獣の子‥‥‥‥私と接触した瞬間、あの子の身体の内側から、無数の短剣が身体の内側から出現する様に仕込んでおりましたね。少し先の未来で見させて頂きましたよ。この海域一帯の生物を滅ぼそうとしていた死の短剣を」
「そう。貴方って未来視の眼を持っているのね。知らない場所に喚ばれたから、少しこの世界の生物に悪戯しようと思っていたのだけど‥‥‥‥上手くいかないものね」
「喚ばれた別世界での必要以上の干渉は〖天上の理〗の中で禁じられています。それを破ろうとするとは、貴女‥‥‥‥色々と不味い思考をお持ちみたいですね」
「私はこの何も知らない世界にただ喚ばれた者。泥人形の身体だもの、こんなどうでもいい世界がどうなろうと私の知ったことではないの‥‥‥そもそも、私の本来の姿だってこんな幼い姿じゃない、本来の私はもっと‥‥‥‥」
「ホホウ。ならば、貴女が此方で〖厄災〗になる前に在るべき場所に還してあげましょう。〖歌楽の相〗・〖甄陀羅〗」
緊那羅の影から馬と鳥の仮面を付けた楽団が現れる。
「楽神・緊那羅様。御呼びでしょうか?」
「ホホウ。お久しぶりですね。カイラス殿‥‥‥‥目の前の落とし神子。想像異常の厄になりかけております。堕ちる前に在るべき所に還します。演奏の準備をして下さい」
「目の前の?‥‥‥‥あぁ、これは不味い方ですね。無理矢理の喚び出しで本来の心を崩しておられます。救済しなくてはですね。緊那羅様。」
「然り。私は演奏終了まであの方を止めておきますので」
「‥‥‥‥畏まりました。主殿」
「長い話し合いは終わった?‥‥‥‥何で私、貴方達の会話が終わるまで大人しくしていたのかしら?‥‥‥いや、そもそも何で私は今、此処に入るのかしら?何時もならアヌと一緒に過ごしていて‥‥‥私はあの子と‥‥‥あれ?私はこの世界をお爺様の為に‥‥‥壊す?」
「‥‥‥‥先程、泥人形の身体と申していましたね。その程度の肉体で、この高純度の魔力漂う世界に居ては神狂いになるのも頷けます。堕ちる前に還してあげましょう。〖歌楽の相〗・〖大樹緊那羅〗」
緊那羅の身体が牛の仮面と鳥の仮面を付けた二人に別れる。牛の仮面の緊那羅は剣を。鳥の仮面の緊那羅は樹木を操る。
「あぁ、心が踊る?‥‥‥お爺様の為に‥‥‥私は喚ばれ‥‥‥お婆様の幸せの為に‥‥‥力を‥‥‥何で振るわないといけないの?〖キシャル・エンキ〗・〖気が狂う地の堕ち(アシュル・ムア)〗」
ジジジ‥‥‥‥ガキンッ!!
「主の闘いが始まりました。皆さん。演奏を開始します」
「「「「「了!!!!!」」」」」
八部衆・緊那羅と本来、地球では地神と崇められる、心が壊れかけたキシャルの闘いは苛烈を極めた。一刻の激しい撃ち合いの末。緊那羅の楽団の音色が完成する。
「し、し、しつこい。攻撃は止めて。私はもう助からない‥‥‥お爺様に喚ばれたせいで壊れる‥‥‥の」
「ホホウ。いやいや、なんとか間に合いましたよ‥‥‥‥キシャル殿‥‥‥‥本来の貴女と〖天界〗でお会いできる事を願います。では、去らばですな‥‥‥神明・開示‥‥‥〖真陀羅楽団〗」
深海エリアに牛と鳥の仮面を付けた楽団による美麗な音色が響き渡る。
その音色を聴きながら、キシャルは本来の場所へと戻って行く。
「‥‥‥‥私は‥‥‥‥あれ?何でこんな場所に?元の場所に‥‥‥‥〖天界〗に帰らないと」
「ホホウ。無事に正気を取り戻しましたな。良かった。良かった」
「‥‥‥‥貴方は?‥‥‥‥あぁ、そう。迷惑をかけましたか‥‥‥‥ごめんなさい。ごめんなさい‥‥‥私はこの世界に迷惑をかけてしまってごめんなさい‥‥‥この償いはいずれ必ずします」
「ホホウ。ではその償いは私の契約者が困った時にでもお願いいたします。私ももうじき消える事になるでしょうから‥‥‥」
「貴方の契約者?‥‥‥分かりました。そうさせて頂きます‥‥‥ありがとう」
キシャルはそう言い残すと涙を浮かべながら〖天界〗へと還って行くのだった。
「‥‥‥‥〖権能〗の破壊による暴走。なんとか食い止められましたか。後の事は〖灰神楽〗様方に任せると致しますかな‥‥‥‥ホホウ」