厄災は三方より来る
『ロマ・テレシア』・大聖堂
赤色の髪の信徒と一人の龍族の巫女が死白色の聖職衣装を身に纏い、大聖堂の祭壇で向き合って何かを話している。
「ヤシャ様も大変だよね。いきなりこんな訳の分からない所に連れて来られて、こんな変な服まで着させれて」
「‥‥‥‥‥‥えっと?それはどういう事ですか?‥‥‥‥夜叉に何を言いたいのですか?火星・リルマーズ殿」
「言葉通りだよ。それと私の事はリルって呼んでってずっと言ってるでしょう?ずっと話しかけてるのに無視され続けて。やっと話す様になったと思ったら、他人行儀だしさー!歳もそんなに離れて無いんだからもっと仲良くしようよ!ヤシャ様ー!」
「て、敵の者と戯れるなどしたくありませぬ」
「敵?敵って‥‥‥‥何か嫌な言い方じゃない?‥‥‥‥‥まあ、さっきヤシャ様から聞いた話しだと、無理やり連れて来られたみたいだし、警戒はするよね」
「‥‥‥‥‥あの方は何なのですか?夜叉の仲間に危害を加え、そればかりか夜叉をこのロマ・テレシアまで連れてくるとは‥‥‥‥龍族との契約も護らず。勝手が過ぎまする」
「凄いご立腹だね。夜叉様‥‥‥‥‥まぁ、ロマ様は強引な所があるからね‥‥‥‥一部の腹心とか信徒には凄く優しいんだけどね。最近は‥‥‥‥ラスト様が死んじゃったからかなり荒れてるだよね」
「ラスト様ですか?夜叉の前任とか言う方ですよね?」
「うん。『ラグナログ(神々の黄昏)』のNo.20『審判』の人だったんだけどね。隣の大陸。アルトネ大陸を進行中に『カンナギの姫君』に殺されちゃったんだよ」
「リル殿。カンナギの姫君とは?」
「あっ!名前で呼んでくれるの?嬉しい!‥‥‥うーんとね。何て説明すれば良いのかな‥‥‥‥簡単に言えばアルトネ大陸最強の剣姫‥‥‥‥ううん。魔法世界アリーナでも最強種の一角とか言われてるらしいよ。私もシリウス様。聞いただけだから、あんまり詳しく無いんだけどね」
「最強種の一角ですか‥‥‥‥」
「そうそう。それにそのカンナギの姫君は500年前に大アルカナのNo.一桁の一人を単独で倒してるんだ‥‥‥‥‥だからね。もし、この大陸にそのカンナギの姫君が来ちゃったら大変な事になるんだって」
「は、はぁ、そうなのでありますか‥‥‥‥‥それは大変ですね」
「し、失礼致します!こ、ここに【教皇】様か〖東星〗様はいらっしゃいますか?」
夜叉巫女と火星の会話を遮って、慌てた様子でロマ・テレシア信徒が大聖堂へと入って来た。
「もう、何?せっかく夜叉様が私とお話してくれてるのにー!邪魔しないでくれるかな?信徒君」
「も、申し訳ありません。き、緊急事態の為、直ぐにでも【教皇】様とその神官様方へ報告しなくてはと思いまして」
「緊急事態?何それ?」
「は、はい。ほ、報告致します。新しき『西星』ヤシャ様、火星リルマーズ様。紛争地帯『シルテア』『ヘル・デア』『ゲルオラ』の三つの紛争諸国より、謎の敵対勢力がこの『ロマ・テレシア』へと進入してきました」
「謎の敵対勢力だと‥‥‥‥‥?」
夜叉が後ろを振り向くと血塗れのロマ【教皇】が立っていた。
「‥‥‥‥‥‥‥え?何処から現れてたのですか?」
「ロマ様?いつの間に帰って来たの?」
「黙っていろ。リルマーズ!‥‥‥‥我が信徒よ。報告の続きを述べろ」
「は、はい!【教皇】様。に、西の地より、厄災と豊穣の妖精竜『エスピナ』がと、突然現れ、エンケラ地区に住まうロマ・テレシア信徒を吸収、殺戮しており、その後、『シルテア』の飢饉兵が進行して来ました」
「妖精竜‥‥‥‥‥」「吸収に殺戮?」
「‥‥‥‥‥次の報告をしろ」
「は、はい。東の地『ゲルオラ』より。白き謎のベールと白き獣が現れ、アルカテル地区の信徒達を眠らせ、謎の魔術により。その信徒達は我が国に反旗を翻しております」
「‥‥‥‥‥‥」「白い獣?何それ?」
「最後の報告をしろ」
「‥‥‥‥‥‥『ヘル・デア』からの進行被害が最も酷く。多種多様な種族の者達が水星、金星、土星派閥の信徒意外の者達を次々に殺害し、我が首都・『テレシア』へと進行しています」
「さ、殺害ですか‥‥‥‥」「三つの派閥の信徒意外か殺害って!もしかして、私の派閥の子達も殺されちゃったって事なの?」
「‥‥‥‥‥チッ!人が数日。地下で聖杯の探索をしていたら、何足る様だ!五芒星共とシリウスは何をしている?確か、『ヘル・デア』へと視察に入ったんじゃなかったのか?」
「そ、それは‥‥‥‥まだ報告が上がって来ておらず‥‥‥‥」
「そうか、ならば死ね。役立たずの信徒よ」
ロマ【教皇】の右手が信徒の喉元へと向けられる。
「ちょっと!ロマ様。ここは大聖堂だよ!そんな事したら何が起こるか分からないよ!」
火星・リルマーズのその一言で、ロマ【教皇】の身体の動きが止まる。
「チッ!そうだったな‥‥‥‥ここは『封印の地』。穢れが出れば地下の奴等が元に戻ってしまうか‥‥‥‥もういい、下がれ、無能な信徒よ。何か分かればまた報告‥‥‥‥」
「で、伝令!伝令であります。水星様。金星」様。土星様がヘル・デア反乱後、行方不明に。木星様は『ゲルオラ』の地にて死亡。『東星』シ、シリウス様もヘル・デア反乱時に何者かに殺害されたとの事です」
「なっ?アルモシュタラさんとシリウス様が?‥‥‥‥‥死んだ?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥今なんと言った?シリウスが‥‥‥‥あのシリウスが戦死だと?!どういう事だ!それは!!!」
「ヒ、ヒィィ!!わ、私は伝令係からの連絡お伝えしようとしましてえぇ!!」
「クソッ!何が起きてやがる‥‥‥‥‥無闇の闇よ!」
(おっと。使わせないよ!【教皇】)
誰もいない筈の大聖堂の祭壇から突然、少年の声が聴こえてきた。
「そのムカつく声は‥‥‥‥‥ロキか?!」
「正解!良く分かつたね。【教皇】」
「‥‥‥‥何しに来やがった?今はお前と話している時間はねえんだよ。失せろ!ロキ!」
「君に無くても僕には十分な理由があるんだよ。ロマ【教皇】」
「十分な理由だと?‥‥‥‥こんな時に何だ?」
「ペナルティを伝えに来たんだよだよ。上からのね。君はNo.20『審判』に続き。No.17『星』まで失った‥‥‥‥‥無闇の部屋は使わせない。そして、今回の進行を自力で乗り越えられなければ、更なるペナルティを与える‥‥‥‥‥それが『ラグナログ(神々の黄昏)』の判断だよ。ロマ【教皇】。後は‥‥‥分かるね?」
「‥‥‥‥‥‥あの方が下した試練なのか?」
「まぁ、そんなところかな。アルカナNo.の補充は用意な事じゃないんだ。君は合計三つも任されていたのにね‥‥‥‥‥情けない人だね‥‥‥‥君ってさ!【教皇】」
「テ、テメェ!!!!!」
「キレている余裕があるなら、さっさと準備した方が良いよ‥‥‥‥僕の片割れの占いだと‥‥‥‥猶予は後‥‥‥‥‥三日しかないんだからね‥‥‥‥それじゃあ、報告も済んだし、無闇の部屋へのパスも回収できた‥‥‥‥‥それじゃあね。【教皇】‥‥‥‥‥良い報告を待ってるよ。バイバイ~」
シュン‥‥‥‥‥‥。
「き、消えた?」「何?あの子?いきなり現れたと思ったら‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥無能な伝令よ。神官達に伝えろ。〖プロキオン〗と〖リゲル〗を『死の大地』から呼び戻せとな」
「は、はい!分かりました。【教皇】様」
「ちょ、ちょっと待ってよ!ロマ様。あの人達をこのロマ・テレシアに入れるの?嘘でしょう?そんな事したら、それこそ収集が着かなくなるよ」
「ラスト(審判)もシリウス(星)ももう居ねえんだ。仕方ねえだろう。火星。貴様は東の地へと迎い、白き獣の対処をしろ。『西星』は大聖堂で俺とこの祭壇にいろ。そうすれば奴は来るからな」
「はぁ?何を勝手に‥‥‥‥」「そ、そうだよ!もっとちゃんと作戦を‥‥‥‥」
「黙って従え。リルマーズ・アルカディア!これは俺様の命令だ。無能な伝令よ。〖プロキオン〗は東のエンケラ地区の鎮圧に回せ、〖リゲル〗は俺様の元ペット共の対処に当たらせろ。良いか!早急にやらせろ!」
「は、はい!全ては【教皇】様の思うがままに!」
「はぁ~、何で、このリルが動かなくちゃいけないのかな?はぁ~、また、後でね。ヤシャ様!じゃあねぇ~」
伝令の信徒と火星・リルマーズは揃って大聖堂を後にした。
「‥‥‥‥‥‥あの時、あの偽物爺を殺さなかった事でこんな事になるとはな‥‥‥‥‥だが、全ては偽物爺を殺せばどうにでもなる事だ。〖二凶星〗も戻る様に言った‥‥‥‥‥シリウスよ‥‥‥‥お前の仇は俺様が必ず取ってやる!来るな早く来い!偽物野郎!!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥セツナ殿」
夜叉巫女はその一言だけ呟き、大聖堂の天井を静かに見上げるのだった。