鵺と猫族の少女は木星を穿つ No.10 もう良いのお父様
「‥‥‥‥‥‥ここは何処じゃあ?‥‥‥‥‥ワシは確か‥‥‥‥‥煌々たる【教皇】様に仇なす獣と猫を狩っていた筈じゃったが‥‥‥‥‥」
「父さ‥‥‥‥‥お父様‥‥‥‥お父様!!そろそろ気づいてよ!お父様!」
「ん?誰かの声が聞こえるぞ?懐かしい声じゃ‥‥‥娘の‥‥‥‥メルラの声に似ておる」
「似てるじゃなくて本人です!アルモシュタラお父様!」
「本人?馬鹿を言うな‥‥‥‥‥ワシの娘は煌々たる‥‥‥‥‥‥‥‥‥【教皇】様に殺されて‥‥‥‥おる‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥心が壊されちゃったのね。可哀想なお父様。ごめんなさい、私が弱いばかりにお父様に悲しい思いをさせてしまった‥‥‥‥‥‥‥‥‥ごめんなさい」
「何故、謝る?‥‥‥‥‥まさか、本当にメ、メルラ?そして何故泣いておる?‥‥‥‥‥‥‥分からぬ。これは夢か?‥‥‥‥‥‥いや、夢など随分と見ておらぬな。神代が終わったあの日から見ていない‥‥‥‥‥‥何も覚えていない‥‥‥‥‥‥」
「あんな光景を見せられたら可笑しくもなってしまうよ。お父様」
「あんな光景じゃと?‥‥‥‥‥あんな光景?‥‥‥‥」
ワシは遠き記憶を思い出そうと思考を遡る。靄がある‥‥‥‥‥見えぬ。
もう一度、思い出そうと考える‥‥‥‥‥何かの〖灯火〗が見える。小さな火の揺らぎに縋る様に思考を近付けていく。
‥‥‥‥‥‥ワシの最愛を‥‥‥‥‥ワシの愛娘を‥‥‥‥大切な孫を‥‥‥‥‥‥笑いながら殺していくあの残忍な者の顔が‥‥‥‥輪郭が浮かび上がっていく。
「神話の神獣君‥‥‥‥‥‥『鵺』てっ言うのね。神話魔法は一時的に『世界』と分断する力があると言われてるから、あの子の技の影響で、お父様とあの男との繋がりが切れたのね‥‥‥‥‥‥‥‥そのせいで、嫌な記憶が蘇るけど頑張って耐えて、お父様」
悲しそうな顔をするメルラ。
「何故、そんな顔をするのだ?それに嫌な記憶だと?」
ワシがそう聞いた瞬間であった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥妻が殺される光景。
スパンッ!
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥孫が殺される光景。
グサッ!
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥愛娘のメルラが殺される光景。
シュパンッ!
「‥‥‥‥‥オ、オ、オ、オォォォオ!!!アアアァァァ!!!ワシの家族ガアァァ!!!最愛の妻が!!孫ガアァァ!!愛娘のメルラがアアアァァァ!!!」
ワシは発狂した。あぁ、全てを思い出す。
あの光景を、あの男の嬉しそうな高笑いを。
「あぁぁ!!メルラ!!!」
「うん!ここに居るよ。お父様‥‥‥‥‥‥」
ワシは更に発狂する。そして、ワシの両手を何者かが優しく握る。
「アガァ?‥‥‥‥‥メ‥‥‥‥‥ルラ?!」
「うん‥‥‥‥‥‥ここに居るよ。お父様‥‥‥‥‥‥全部。思い出したんだね‥‥‥‥‥ごめんなさい。嫌な記憶だったのに‥‥‥‥‥ごめんなさい。辛い思いをさせてしまって」
ワシの両手を愛娘が握ってくれている。
‥‥‥‥‥‥落ち着く‥‥‥‥‥‥。
「あ‥‥‥‥‥あぁ、全ては現実だったんだな。そして、ワシは全てを忘れさせられていた‥‥‥‥‥‥‥あの男によって」
「‥‥‥‥‥‥‥うん」
「‥‥‥‥‥‥あぁ、罪の無い沢山の人を手にかけてしまったよ。メルラ」
「‥‥‥‥‥‥‥うん」
「‥‥‥‥‥‥取り返しが付かない事を沢山してしまったよ。メルラ」
「‥‥‥‥‥‥うん。分かってるよ、ずっと見ていたから。止めてって、ずっと傍で言ってたんだよ」
「‥‥‥‥‥‥そうか‥‥‥‥‥ワシは沢山の罪を犯したのだな」
「うん‥‥‥‥‥それも今日で終わり。もう良いの、もう良いんだよ。お父様‥‥‥‥‥お父様はもう苦しまなくて良いの。後の事はあの獣さん達に任せよう」
「そうか‥‥‥‥‥‥ワシはもう死ぬのか‥‥‥‥‥‥‥‥‥あ奴らにも迷惑をかけた。いや、『ゲルオラ』の民全てにか‥‥‥‥‥‥‥‥彼方に行ったら、潔く罰は受けよう、だが、最後にあの男から借りた物を返さなくてはな」
「返す?」
「そうだ‥‥‥‥‥‥木星は『光る者』なり。ここに称号を返還する‥‥‥‥‥‥‥時期は●●●●の時‥‥‥‥‥‥
『ゲルオラ』干からびの地
「とする。済まないが迷惑をかけたな。神獣達よ」
「ニャア‥‥‥‥‥そんな事よりオニャエ、腹に穴が空いてるニャゾ」
「‥‥‥‥‥‥いきなり、話し始めたと思ったら、真面目に話し始めやがった」
「‥‥‥‥‥全てを思い出したのだ。神獣よ。お前にはこれを渡しておく」
「あん?何だ?‥‥‥‥‥緑色の水晶か?」
「それを『ロマ・テレシア』の旧教会に見せれば『ロマ』の旧信徒達が動いてくれるだろう‥‥‥‥ゴフッ!」
「お、おい!それ以上、喋るんじゃねえよ!マジで死ぬぞ」
「‥‥‥‥‥‥いや、このまま逝くつもりだ。今回は迷惑をかけたな‥‥‥‥では、最後に木星魔法『木星・瀑布』」
「何ニャア?」
「すげぇ、魔力濃度な塊。何をする気だ?爺さん」
「‥‥‥‥‥‥時が来ればいずれ分かる。これはその時まで『ロマ・テレシア』上空に残しておく‥‥‥‥‥‥お前達‥‥‥‥‥いや、『ゲルオラ』の民には申し訳ない事をしてしまったよ‥‥‥‥‥‥‥あの男への恩讐は違う形で返す事にする。ではな、神獣・『鵺』殿。猫族の娘さん。迷惑をかけた。去らば‥‥‥‥‥」
木星アルモシュタラ・イオラベルの身体が霧散する。
まるでそれは気体の様に薄れ、儚く散っていくのだった。
‥‥‥‥‥‥‥‥。
「もう良いの?お父様」
「‥‥‥‥‥‥‥‥あぁ、全て思い出した。正気にも戻れた。あの男への置き土産も幾つか残した。愛娘にもまた会うこともできた‥‥‥‥‥‥全てもう良い‥‥‥‥‥大丈夫だ。メルラ‥‥‥‥‥‥後は彼方で罪を受けよう」
「そう。なら、行こう!あっちでウルシアお母様と孫のラルフがずっと待っているわ」
「そうか‥‥‥‥‥‥神代が終わってからずっと‥‥‥‥‥ずっと‥‥‥待っていてくれたのか‥‥‥‥‥そうか‥‥‥‥あぁ、ありがとう。ウルシア、ラルフ」
ワシは泣きながら、愛娘と手を繋ぎ、登って逝く。
沢山の悲劇を生んだ。沢山の被害者を出した。沢山の罪を犯したのだ。
全て受け入れよう。
ただ、今は愛娘との時間を噛み締めながら逝きたいのだ‥‥‥‥‥‥‥
木星・アルモシュタラ・イオラベル
逝く。
鵺と猫族の少女は木星を穿つ 編
終




