瓦解
心が重い。
身体も重い。
一瞬にしての蹂躙。
数分にも満たない悪辣な場面をこの眼に焼き付けたからだ。
「‥‥‥‥‥‥アフロディーテ‥‥‥‥お前!!!俺に何をした?‥‥‥‥‥‥身体の中の魔力が上手く練れないぞ?!」
「はい!マスターを御守りする為、昨夜、私の魔法でマスターの魔力濃度を操作致しました」
「なんだと?‥‥‥‥‥‥‥‥まさか、アヤネと委員長に酒を飲ませたのも」
「はい、私の判断です。彼女達には私を救って頂いた恩があります。幻術を掛けたうえで、御二人には安全な宝物庫の中へ入って頂きました」
「だから、泥酔するまで飲む様に仕向けたのか?」
「はい、マスター。全てはマスターとあの少女二人を救う為に行いました」
「そのせいで‥‥‥‥‥そのせいで夜叉巫女が!皆が犠牲になったんだぞ!」
「‥‥‥‥‥‥‥すみません、マスター‥‥‥‥‥ですがこれは全ては貴方を護る為なのです」
‥‥‥‥‥‥‥神々は時に無慈悲な選択をする。
このアフロディーテもその一人なのだろう。
いや、彼女は彼女のなりに俺を大切に思い、護ろうとしてくれたのだろう。
訂正しよう。神々は余りにも不器用なのだろう。
「ギャ‥‥‥‥ギ‥‥‥‥ヤ‥‥‥‥ギャ、‥‥‥ジャ‥‥‥ヤ‥‥‥‥ジャ‥‥‥‥」
「ク、クロ?そうだ!今は言い合いをしてるばかりじゃない。クロを、皆を助けないと」
俺とアフロディーテが言い合いをしている間に瀕死の状態だったクロが微かに意識を取り戻した。
「くそっ!クロ、今、治してやるからな!蘇生魔法『創竜生廊』」
俺はクロに向かって蘇生魔法をかける。竜種ようの蘇生技を。
「ヤ‥‥‥ジャ‥‥‥‥ヤ‥‥‥‥ジャ‥‥‥‥‥ヤシャ‥‥‥夜叉‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥間一髪か?何とか失った身体も再生できたが、ダメージを喰らいすぎている。休ませないと」
「では、このウリエルがその竜さんを介抱しましょう。神成様」
「ウリエルがか?‥‥‥‥‥‥‥分かった。それじゃあ、クロを夜叉巫女の部屋に連れていってやってくれ!頼む!」
「了解しました、神成様。では、アフロディーテ様。失礼します」シュン!
「えぇ、また会いましょう。ウリエル」
「クロはこれで何とかなるか‥‥‥‥‥ガブリエル!君はパーシヴァル卿を探して、俺の元へ連れてきてくれ!今ならまだ〖賢者の石の雫〗で腕を再生させられる!俺はリップを探す!」
「はい!お任せを!!主君!!行って来ます!」
ガブリエルはそう言うと倒壊した大時計塔へと飛んで行った。
「マスター!私はどうすれば?」
アフロディーテが少し気まずそうに俺に質問する。
‥‥‥‥‥‥‥俺のさっきの言い様に困惑しているのだろう。
あぁ、そうか。彼女にもちゃんとした感情があるのだ。
愛の女神〖アフロディーテ〗。ギリシャ神話では色々な人や神々に愛された存在。
それを俺は無慈悲や理不尽等と勝手に決めつけてしまっている。
それはまるで愚かな行いというものだ。
「ルドルフさんの捜索を頼みたいけど‥‥‥‥‥‥アフロディーテは神話結界の完成させてくれ!結界が完成し、準備が済み次第。運河を渡って《ヘスティア地方》へ向かおう」
「は、はい!分かりました。マスター!急ぎ行動します」
「あぁ、頑張ってくれ‥‥‥‥‥それと八つ当たりしてごめん。アフロディーテ」
「え?何ですか?マス‥‥‥‥」
「転移魔法『七転移』」シュン!
「‥‥‥‥‥てっ!いないじゃないですか!マスター!!」
瓦礫と化した〖展望台〗
「まるで廃墟だ‥‥‥‥‥あの死白色の男の力なのか?いったい何をしたら、ここまで一瞬で何もかも破壊できるんだ?展望台に残ってた人達は‥‥‥‥‥‥駄目だ。リップ以外の魔力を感じない!リップ!何処に入る!助けに来たぞ!!!」
「‥‥‥ゼ、ゼヅナ‥‥‥‥‥こ、こだよ‥‥‥ぼぐは‥‥‥‥死‥‥‥ぬ?」
「リップ!!良かった!無事‥‥‥‥‥つっ!」
リップは展望台であったてあろう筈の瓦礫の上に座っていた。いや、明確にはリップの下半身から下が無かったのだ。
「ゼヅナ‥‥‥‥‥‥夜叉巫女‥‥‥‥は?どご?」
「くっ!いいからもう喋るなよ!リップ、死んじまう!今、蘇生魔法と《賢者の石の雫》で治してやるからもう少しだけ頑張れ」
「うぅぅ、ぼぐの下半身‥‥‥‥‥なぐなったんだから無理だよ‥‥‥‥‥ゲホッ!」
リップは大量の血反吐を口から吐いてしまった。
「‥‥‥‥‥‥神代・回帰‥‥‥‥‥『生来・絆』‥‥‥‥生きろ!生きてくれ!‥‥‥‥‥リップ‥‥‥‥‥‥よし‥‥‥‥よし‥‥‥‥‥よしっ!次に《賢者の石の雫》を使って復活させた身体に活力と気力を与えて‥‥‥いいぞ!‥‥‥‥流石はルドルフさんの孫。ドワーフの血が入って入るからか?頑丈な身体で良かった!リップ!」
蘇生魔法の神代・回帰『生来・絆』と
「がはっ?!ぼ、僕はいったい?どうなってる?」
「‥‥‥‥‥あぁ、助かって良かった‥‥‥‥‥生きて残ってくてありがとう。リップ」
俺は安堵し力が抜けてしまい、その場で倒れ込んでしまった。




