ケンリョークーニ・ヨワイーノ
『殺人鬼』いや、『隠者』ジャック・ザ・リッパーの暴走から数日が経った。
『オアシス』全特区の治療を終えた俺、夜叉巫女、パーシヴァル卿、ルドルフさんの四人は、現在中央特区の行政機関がある『オアシス・セント』の知事室へと招かれていた。
ちなみにアヤネと委員長には鵺様、ラファエル、クロが護衛に着いて観光してくるとの事。
元々、あの二人は此方の世界に観光目的で来ていたのだ。それを叶えてあげたのは良かった。
あぁ、それから中央特区での一日目の治療終了後、あの二人にはキツーイお仕置きと言うなの拷◯を受けた。
何処から手に入れてきたのか分からないが、自動擽り魔道具で俺が意識を失うまで擽られた。
‥‥‥‥‥‥‥気絶した後、何をされていたのかは謎のままだったが。
(‥‥‥‥‥‥いっぱい楽しめましたので今回は許してあげます。セツ君)
(ハァ、ハァ、ハァ、お仕置きはこれぐらいにしておいてあげるわ!神成君!)
そんな、セリフを残して自分達の部屋へと帰って行ったのだった。
アイツら‥‥‥‥‥俺に何をしたんだ?謎である。
「いや~、今回。皆様のご活躍によりこの大都市下記オアシスは救われましたぞ~」スリスリスリス!!!
目の前には『オアシス』の仮初の統治者である。《ケンリョークーニ・ヨワイーノ》さんが両手を凄い勢いで擦り合わせながら俺達を見ている。
ケンリョークーニ・ヨワイーノって!凄い名前だな。
「ご機嫌伺いはいい、ヨワイーノよ!さっさと用件を済ませろ」
孫。ジャックの遺体を埋葬した後、傷心中と思って心配していたが、どうやら元気そうだな。ルドルフさん‥‥‥‥‥いや、気丈に振る舞って入るだけでそうではないか。
「は、はい!ルドルフ様‥‥‥‥‥えー、本日は都市『オアシス』の全住人に代わり。この都市の知事である。ケンリョークーニ・ヨワイーノが皆様にお礼のご挨拶とささかやながらの献上品がございまして。はい!」スリスリスリススリスリスリス!!!
おぉ、何とも裏がありそうな顔と手の手付きだ。怪それにさっきよりも手の擦りが激しくやってないか?
これはあれだな。上手く俺達に取り入って『オアシス』の警備やらの仕事か冒険者協会に登録させる気だな?
「ヨワイーノさん。一つ質問しても良いですか?」
「は、はい!何でしょうか?えーっとご老人のお名前は?‥‥‥‥」
俺は現在、偽装魔道具で自身を老人の姿に変えている。ヨワイーノさんがそんな反応をするの当たり前か。
「俺の古くからの知り合いのナルカミという。ヨワイーノ」
「ナ、ナルカミ様ですか!そうですか。このヨワイーノ!ナルカミ様のお名前!しかと記憶しましたぞ!」スリスリスリスリ!
さっきまで俺の名前すら覚えてなかったのかよ?コイツ!絶体腹黒いだろう!
「あー、それは良かった。ならば今回の献上品とやらの報酬だがな‥‥‥‥」
「はい!名誉勲章と名誉『オアシス』市民の贈呈、それから名誉冒険者協会への永久登録をさせて頂きます!はい! (ニヤリ!)」スリスリスリスリススリスリスリ!!
突っ込み処満載じゃねえか!名誉しか貰えないのかよ!つうか、金とか魔道具やらをくれよな。
つうか、何だ?名誉冒険者協会の永久登録?
コイツ!俺達を強制的に冒険者協会に組み込もうとしてないか?
「どうでしょうか?皆様?これ程に名誉ある報酬!他地方でもなかなか無いかと! (ニヤニヤ)」スリスリススリ!!!
「‥‥‥‥‥では、今回の報酬は貴様の『オアシス』知事解任だな」
さっきから静かにヨワイーノさんの話を聞いていたルドルフさんがおもむろに話し始める。
「ル、ルドルフ様?何をいきなり言っておられるやら?私、理解に苦しみますぞ?!」
「‥‥‥‥‥何を惚けている。調べは色々着いているぞ。イシスの民との密約に、魔獣や人攫い達との売買、北の地のブラッド家の関係者をろくに調べもせず、金を受け取り入国させたりしているな」
「は、はい?わ、私はその様なこと一切しておりませんぞ!」
「オマケに夜な夜な『殺人鬼』が行っていた通り魔事件もスルー、自警団の設立も止めたとは‥‥‥‥挙げ句には数日前の大規模な『オアシス』進行を知っていて黙っていたのだろう?どれ程の大金を掴まされたのは分からんが許せん!この馬鹿があぁぁ!!!」
「ハヒッ?!グボゲ!!!」
ドゴオオオオ!!!
ルドルフさんは立ち上がるなり、ヨワイーノさんの顔面を凄い勢いでぶん殴った。
つうか、この人敵と内通してたのかよ。びっくりしたわ。
「貴様が当主を務めるケンリョークーニ家は廃嫡させる。これは神殿と『鍛冶屋の里』からの通達だ。そして、お前達一族の権利、財産、隠し財産等は全てナルカミ達の今回の報酬とする」
「ガバッ!‥‥‥‥そ、そんな!幾らなんでもいきなり過ぎま‥‥‥‥‥」
「黙っておれ!」
ドガアアアンン!!
「ゲボガァ?」
また、殴られた。懲りない人だな。ヨワイーノさんは。
「それからだ。ヨワイーノ。お前とお前の一族には『死の大地』での強制労働が決まった。これはヘファイストス様の神託によるお告げだ。心して聞き入れろ」
「じ、じのだいぢ?‥‥‥‥そんな!そんな場所に行かされては!!じんでじまいまず!!ルドルフざま!」
「あぁ、お前が行ってきた悪行の結果だ。素直に受け止めろ。ちなみに脱走を試みるようならその場で処刑するよう。『鍛冶屋の里』の里長初め、ヘファイストス地方に住む部族の族長達の許可も出ている。生き延びたければこのまま素直に従い、『死の大地』を親族達と共に目指せ」
「ば、ばきゃな!何故、にゃぜ!バレた?‥‥‥‥私の‥‥‥‥財産が!!華麗な‥‥‥‥人生があぁ!!!」
「だから、黙れ!」
ドガアアアンン!!
「べぎゃあ!!!」バキッ!
何やらイヤな音がしたが‥‥‥‥‥顔面の骨逝ったんじゃないだろか?
「連れていけ!」
「「はっ!ルドルフ様」」
ルドルフさんの声を聴いて警備兵数人が中に入ってきて、ヨワイーノさんを縛りあげ、何処かへ連行していった。
「フゥー、これで多少は気が修まったぞ」
ルドルフさんは深く息を吐いた。
「‥‥‥‥‥あの方は『隠者』と繋がっていたのですね」
「驚きました」
「あぁ、他にも数名の貴族や行商人共裏で繋がっていたようだ。最も取引をしていたのは『隠者』ではなく、ブラッドとか言う吸血男だったがな」
「あの蝙蝠男ですか?!それは何とも‥‥‥‥驚きでありまする」
「まぁ、そいつらも今頃、お縄に着いている頃だろう。そして、奴等の財産と権利の全てはナルカミ達に譲渡する事がオアシス議会で決まってな」
「俺達に?‥‥‥‥あぁ、そうすればわざわざ『オアシス』の保有する資産を俺達に譲渡しなくても済むからか。成る程」
「‥‥‥‥‥まぁ、そんな所だ。それにヨワイーノや行商人達の保有していた財産は莫大でな。これが全てナルカミ達の物になるのだ。存外。悪い話ではないだろう?奴の屋敷や使用人も好きにして良いと神殿の方から連絡があったしな」
「ツッコミたい所は色々とあるけど‥‥‥‥‥しばらく、『オアシス』に滞在するし拠点になる場所が手に入った事は嬉しいかな」
「まぁ、ヨワイーノ達の財産譲渡の他にも『オアシス』から少なからず謝礼金は出す予定だ。だから、今回の『殺人鬼』襲来事件の礼金はそれで勘弁してくれ」
「いや、そもそも。礼金とか権利とかは入らなかったんだけど‥‥‥‥まぁ、貰える物があるなら貰っとくよ。ルドルフさん」
「そうか‥‥‥‥それなら安心した」
それから、俺達は暫くの間。報酬や礼金の説明を新知事に推薦されたルドルフさんに説明されたのだった。




