勇者の帰還
プロローグ〖勇者の帰還〗
此処は魔王城。勇者と魔王が死闘を繰り広げる最終決戦の舞台にして、現在、その最終決戦真っ只中である。
「フッハッハッハッハ、これで終わりじゃ! 勇者カミナリよ。闇魔法『真円闇航路』」
「それは俺のセリフだ! 開放‥‥我が聖険・聖魔法『光暫剣』!」
二つの闇と光の巨大な魔力がぶつかり合い。
その衝撃で次元の間が生まれ。大きな閃光が周囲を照らし始める。
「なんじゃ? この閃光は?! うわあぁああ!助けててぇぇえ!」
「くっ! 吸い込まれる。くそおおおぉ!!」
爆音、閃光が、治まり魔王城、際奥の間が静かになる。
「あれ勇者様。どこにいらっしゃるのですか?」
「うわあぁああ! なんだいきなり?! これはどこに向かっているんだ? 何処かに送られている? ‥‥そういえば。昔、同じ様な事があったような‥‥まさか戻れているのか? 地球に」
「死ぬ、死んじゃうのじゃぁ! 助けてくれー!」
「あの鎧は確か魔王が着ていた鎧。ていうか、魔王も一緒に飲み込まれたのか。とりあえず、何も見なかったことにしよう。おっと、あの光は‥‥出口か?」
俺と魔王は次元の間をくぐり抜け。出口と思わしき光の中に入っていく。
「‥‥どこだ? ここは? どこかの家か?‥‥何となく見覚えがある部屋だな!」
「死ぬ、死ぬのだ!」
「嘘だろう‥‥この魔王様、一緒について来ちまったよ。どうしよう。おっと、そんなことよりも、まずは周りの状況を確認とな。ここは俺の部屋か?」
俺は周囲を見渡した。
「‥‥もしかして戻ってこれたってことか? やっと地球に?やった。やったぞ! 戻って来たんだ。日本に、我が家に‥‥異世界に飛ばされてから、地球に帰ってこれないとばかり思っていたけど‥‥やっと戻ってこれた」
「‥‥ん? どこじゃここは? なんなのじゃ? 私はさっきまで玉座に居て勇者達と戦ってたはずじゃが?」
「‥‥どうも魔王さん。取り乱しているところ悪いんですけど。もうあちらの世界に帰ってもらっていいですよ‥‥さようなら。魔王さん」
俺は嬉しそうに右手でバイバイのジェスチャーを魔王さんに送った。
「だ、誰じゃ? 貴様は!」
「誰って。さっきまで君と戦っていた魔王討伐の勇者だよ。勇者カミナリ(自分で言ってて恥ずかしいなぁ)」
「貴様が勇者セツナ? 背やガタイがさっきと全然違わないか? しかも、お主は鎧で顔を隠していて。お主が勇者だと分かる訳無かろう」
それもそうだな。それよりも魔王さんが最初に言った。背やガタイがさっきと全然違うとかていう発言の方が凄い気になるな。後で鏡で自分の姿を確認しよう。
「そんなことよりもここはどこなんじゃ? 私をどうすもりじゃ?」
結構。テンパっているな。魔王さん。大丈夫か?
「どうも何も俺は元いた世界。地球に帰ってこれたからもう何も用は無いよ。だからさ。さっさと君が居た世界に帰っていいよ。魔王さん。さようなら。バイバイ」
「なんじゃ、その言い方は。そして、ここはどこなんじゃ?」
「ここは俺の故郷の地球っという世界だよ。魔王さんの感覚だと、この地球が異世界ってことになるな」
「地球‥‥異世界? なんじゃそれは?」
魔王さんはさらに混乱している。
「多分だが勇者である俺の持っていた。聖剣の光の力と魔王さんの闇の魔力が交わって。次元の間に穴が空いたんだよ。そして吸い込まれる形でこちらの世界に戻ってこれた。そんな感じ。」
「次元の間‥‥吸い込まれる‥‥異世界‥‥」
魔王さんは目をグルングルン回している。
そして、しばらくすると魔王さんは意識を失い。近くにあった俺の部屋のベッドに倒れ。動かなくなった。
「魔王さん。ちょっと大丈夫か? おーい! 魔王さん」
1時間後、魔王さんが目を覚ましたしてくれた。
「‥‥‥‥すまぬ、意識が飛んでいた。それからいきなり取り乱してすまなかったのう。突然、起きた事で少々びっくりしてしまった」
「あれで少々?」
「な、なんじゃ。その目は‥‥‥」
「いや、別に」
「改めて、私は『魔王領』で現魔王をしている。ユナ・エスフィールである!よろしく頼む」
「‥‥‥可愛いお名前ですね」
「う、うるさい。ム、ムカついた! 闇魔法『闇斬』くらえ!‥‥‥あれ? 闇魔法『闇斬』! 『真円闇航路』!‥‥あれ?」
「あー、エスフィールさんが寝てる間に色々と試したけど。こちらの世界だと魔法使えなかったよ。いやーびっくりしたわ(笑)」
「魔法が使えない? え? 嘘じゃろ?」
魔王さんは驚いた顔をしている。
「いやー俺もびっくりしたよ。あー、でも魔法の袋は開けたよ。ほら。人が使う魔法は使えなくても物に付与されてる魔道具は使えるみたいなんだ。世界不思議発見」
「魔法が使えない?なんで?嘘?」
「エスフィールさん。大丈夫かい?」
「嘘じゃろう? 魔法使えなかったら。私、どうやって、帰ればいいのだ? しかも勇者と二人っきり。殺される。私、殺されるのだ」
「いや、殺さないけど。というか俺も魔法使えなくなってるかね。エスフィールさんを攻撃する事もできなくなってるよ。(『神気』は使えるがな)」
「くっ、そんな事言って我を陥れおうとしているな! 甘く見るな私は魔王だぞ。」
「よし。ならば出ていけ魔王様よ」
「‥‥それは嫌じゃ」
勇者 セツナ視点
魔王が倒れた後、勇者セツナこと。俺は今の状況を頭の中で色々整理していた。
魔王との最終決戦。両者の大技が炸裂し。次元の間が生まれ。俺は生まれ故郷の地球に帰ってきたのだ。
周りを確認して見る。
自分が幼少の頃に過ごしていた部屋の中にいる。そして驚いた事にあちらの世界に飛ばされて四年~五年位経っていた筈だが。それが何でか分からないんだが、あちらの世界に飛ばされた時と同じ年齢の14才のままだ。
そして次に、現在の日付も確認してたが。これも異世界に飛ばされた時の日付だった。
次元の間の影響で時間が巻き戻ったのか? 全くわからない。だが、わからないなら仕方がない若返ったと思って感謝しよう、ありがとう神様!
次にあちらの世界で使われていた魔法も試したが。これはこっちの世界(地球)では、使えなくなっていた。
勇者として召還され、死ぬ気で修行をし、手に入れた魔法の力だったが魔力の概念が無いこっちの世界では発動すらできないみたいだ。
お次は、持ち物チェックと、聖剣エクスカリバーはあちらの世界に置いてきてしまったようだ。今は何処にもない。魔法の袋は腰に着けていたので一緒にこちらの世界に飛ばされていた。
この魔法の袋には、あちらの世界にいた時に、外部からの干渉遮断用の魔法というものを付与していたので、もしかしたら中身のアイテムは使えるかもしれないと考えた。中のアイテムを取り出す。
収納魔法で魔法の袋の中は、物の大きさ、生物関係なく無尽蔵に収納できる用になっている優れた魔道具だ。
とりあえず、ポーションを一本取り出して飲んで見ることにした。
致命傷でも飲めば立ち所に全科回復する優れものポーションで。『魔術院』時代。妹弟子のサーシャとの協同研究で作った特製のポーションであったりもする。
あちらの世界では。魔法があったお陰で色々な事を修行の合間に研究できた。
‥‥‥‥なるほど、魔法の袋の中のアイテムは普通にまだ使えるのか。これは嬉しい。こちらの世界で困った時にでも使おう。
そして、最後にぶっ倒れた魔王さんの様子を確認する事にした。
着ている頭の鎧を外す。見た目は今の俺と余り年が変わらなさそうな金髪の可愛らし少女だ。
この少女が、あの魔王さんだとはとても思えない位に可愛い。確かあちらの世界では、仮面みたいなのを着けていて魔王の素顔なんて見えなかったな。
ただ、どれだけ可愛いかろうと精神年齢的に18才位の俺には、中学生位の女の子にしか写らなかった。‥‥起きたらさっさとあちらの世界に帰って頂こうか。
そして、ただいま素晴らしき現代社会よ。
そして、さようなら理不尽な異世界よ! もう二度行きたくない理不尽な世界よ。
とっそんな事を考えながらいると眠っていた魔王さんが起き上がるようだ。
魔王さん事。ユナ・エスフィールにこちらの世界(地球)に飛ばされてからの事、魔王エスフィールが倒れている間に状況を整理したこと等を丁寧に説明した。
「なるほど。ここは勇者セツナが生まれ育った世界なのか。そして私は一緒に次元の間に呑まれて。着いてきてしまったと。そしてこの世界では、魔法が使えず、あちらにも帰れないだと?!」
「そうなるね。今の状況を理解できたみたいだし。そろそろ家から出てもらってもよろしいか?(四年ぶりにゴーチュウブ君を見るのだ。さらばファンタジー。お帰りゴーチュウブ君)」
「‥‥お主には人の心が無いのか? 何もわからない私に出ていけとかよく普通に言えるな? お主、本当に勇者か?」
「もう元勇者だよ。そもそもあっちで勇者なんてやってたのもこっちの世界に戻る方法を探す為だけで。嫌々やってただけなんでね。そういう訳でさようなら魔王エスフィール殿。去るがいい!!」
「おい、鬼畜勇者。誰のせいで私がこんな世界に飛ばされたと思っている?」
「君が勝手に大技撃つのが悪いんじゃないか? あんなの喰らったら普通の冒険者なんて骨も残らないぞ」
「うるさい。うるさーい。お主が、馬鹿デカイ光魔法を撃ってきたからこちらも対応しただけじゃ!!そんなことよりも私がこんな状況になり、追い詰められた責任をちゃんと取ってもらうからな勇者セツナよ!」
「責任? なんでだ。魔王レベルなら異次元に干渉できる魔道具を複数持っているものではないのか?それであちらの世界に帰ればいいだけだろう?」
「そんな便利アイテムを、魔王である私が、持ち歩くわけなかろう!アホなのか勇者よ!」
「(アホは君だろ) 何で貴重な魔道具を持って無いんだよ? 魔王クラスなら色々持っているハズだろう?」
「魔王軍の活動の為に売ったのじゃ!」
「おい、今、なんて言った?」
「魔王軍の活動の為にほぼ売ったのじゃ! 魔王軍の幹部達に渡した。奴ら金に困っておったからな」
「……なんだと? (それでかやたらあっちで戦っていた魔王の幹部や魔物が強かったのは。このアホ魔王が、レジェンドアイテムをあっちこっちにばら撒いてやがッた)」
「そういう訳で私が持っているのはこの魔王の鎧位なものじゃ! わかったか鬼畜勇者よ! だからさっさと責任を取って私を養い、あっちの世界に帰らせよ!」
「やなこった! 今まで戦っていた奴らが強かったのは貴様のせいだと? あっちに居た時、そのせいでどれだけ死にかけたと思っている? 俺じゃ、無かったら普通の奴なら死んでるぞ」
「勇者の強さなら問題無かろ。それに最後には私の居る魔王城の際奥の間までたどり着いた猛者だろう? だから責任を取って私をこの小屋におけ」
「誰の家が小屋だと? 俺の住んでいる家をバカにする気か?(イライラ)」
「私が住んでいた魔王城にくらべれば小屋レベルの家じゃなぁ(笑)」
「(この魔王がぁ(怒)、‥‥いかん。いかんやっとこっちに帰ってこれたんだ。こんなことで怒っていても時間の無駄無駄と) とりあえず、色々と君が残念魔王なのは分かった。しばらくの間は居ていいよ。働いて1人で生活が送れるようになったら出てって行くということで」
さっさと独立して出ていってもらおう。
「働く? 一人で生活? 何でじゃ? 嫌じゃ、働きたくないのじゃ」
‥‥その時、俺の怒りの沸点が、頂点に達した。
あちらの世界には魔法という概念が存在した。召還魔法というものもあり、その召還魔法であちらの世界事、異世界・アリーナに召還された勇者事、俺、神成セツナであったりする。
突然、呼ばれ。流されるままに剣と魔法の修行をし、一年という長い旅の末、魔王城にたどり着き、魔王との最終決戦後、なぜかこちらの世界、地球に戻って来ることができた。(魔王のおまけ付き。)
あちらの世界の生活水準は中世ヨーロッパレベル位だった為、あちらでの生活は現代っ子である俺には、キツイものだった。不便、とにかく不便だった。電気が無い、乗り物は馬、恐ろしい魔物の数々……
だが、それもさっきまでの話、こっちに帰って来た事だし、これからは平和に暮らして行こう。
そう決めた矢先、一緒に次元の間を超えて着いて来た魔王ユナ・エスフィールの態度にぶちギレそうになっている。
こんなのがラスボスだったと思うと勇者の時に頑張っていたのが、馬鹿らしくなってくるな。
だが、魔王ユナ・エスフィールがこっちに来てしまったのは、俺のせいでもあるため、この魔王があちらの世界に帰れるまでの間はこの家で面倒を見ることにした。
幸い、家の両親は母が海外勤めで、父は都内のホテルで暮らしている為、家には現在、俺しか普段住んでいなかったからか、部屋は空いているし。家族は当分帰ってこないだろう。
それに勇者パーティーの時に夜営では。女の子である僧侶と魔法使い等の子達とは寝食を共にしていたが如何わしい事は何も起きなかった為。
この魔王と一緒に住んでいてもあちらからちょっかいをかけて来なければ何も起きるまい。
年齢を聞くと俺の現在の年齢とほぼ変わらない14才らしく、幼さが残る可愛いらしい金髪の美少女だか、精神年齢が、18~19才の俺には何も響かなかった。
こちらに戻って来て体が若いままだったが、精神年齢だけが、歳を取っている状態。もっと年上の美女が、好みになっている。年上お姉様サイコーである。
そんな事を考えていると先ほどの怒りも治まり、これからどうしていくか話し合う事にした。
「とりあえず、魔王さんが、」
「ユナで良いぞ!魔王、魔王!言われるのも疲れるしのぅ」
「わかった、アホ‥‥ユナ」
「今、アホとか言うつもりだったじゃろう!? キィー!」
しまった! つい本音が出てしまった。疲れているな俺、うん。
「じゃあ、俺の事も勇者では、なくセツナでよろしく」
「この男。くう! もういいわい。セツナのバカ!」
この魔王、いきなり、呼び捨てである、魔王の教育者はどうなっているのかと考える俺であった。
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