聖剣の道標~『神気・雷(らい)』
①『聖剣の道標』
『双星の大洞窟』を抜けたこの先にあるのは『聖剣の道標』と呼ばれている。
何でも『セルビア』国の創立者である。エルフ王『オーディン』の愛剣である。かの、『7の秘宝』の1つである『エクスカリバー』を称えて付けられた道だという。
「『聖剣の道標』だとよおぉ!!元勇者様よおぉ!!!」
当然の様にヒスイが俺を弄ってくる。彼女との契約は既に終わっているのだ。『エクスカリバー』が何処で何をしてようが関係がない。
「ニャン、ニャン!言ってやるニャヨ!黒騎士。!セツニャが可愛そうニャロウ?長年使ってた愛剣に逃げられたんニャからニャア。悲しいニャア。セツニャ」
それに乗じて、こないだ、散々、懲らしめた筈のセシリアが便乗してくる。ヒスイへの言い方もアホ騎士から黒騎士に変わっており。セシリアとヒスイの関係が以前よりも改善したことが良く分かる。
「‥‥‥‥あら、よっと!!パッチン!!(指パッチン)」
「ぐがあぁぁぁ!!!!いつものやつがぁぁぁぁ!!効くぜえぇぇ!!!」
「ギニャアアアア!!!痺れるのニャア!!!!でも、これでまた美味しいご飯が食べれるニャアアァ!!」
「‥‥‥‥‥今日も綺麗に発光しておるな。2人とも」
「これで今日の電力には困りませんね。ご主人様」
最近では、見慣れた日々の日常になりつつあるのが、人間の怖いところである。
『双星の大洞窟』から聖剣の道標を通り、『セルビア』国まで着くのにだいたい普通の人族では1週間位かかるらしい。俺達の様な冒険に慣れているものなら、だいたい5日位で『セルビア』の関所まで着くことも出きるだろ。
ユグドラ街道の時は道端の左右が、巨木が立ち並び。通る者を魔物や盗賊等から守っていたが、聖剣の道標の場合は、道の左右に多種多様な花が咲き誇り。木々と花が咲く不思議な森が続いている。
これは『双星の大洞窟』で仲良くなったメルさんが懇切丁寧に俺に教えてくれた事だ。
メルさんに聖剣の道標について真剣に聞いているよこで、エスフィールの鋭い眼光は今でも思い出すと胃が引き締まる思いだ。
そんな訳で、俺達、パーティーはゆっくりではあるが確実に『セルビア』国へと着実に近づいているのだった。
「しかし、『双星の大洞窟』を抜けた瞬間から明らかに雰囲気が変わったよな。なんというかメルヘンぽい感じか?」
「それは、私も感じていたぞ!セツナ」
エスフィールが左右に咲き誇る、色とりどりの花を見ながら俺に言ってくる。
「でも、確か、エスフィールの故郷。『魔法族の里』と『セルビア』って隣国どうしなんだろう?小さい頃に来たこととか無いのか?」
「いや、それは地図上の話であろう。その間には『幻獣の楽園』があってだな。私達はそれよって幻獣達に守られておるのじゃ」
「幻獣達に守られている?どういうことなんだ?」
「私達、魔法族はエルフ達とは、古代からお互いを尊重し助け合って来た。だが、妖精達は別じゃ。魔神イフリート様やウンディーネ様等の知性が高く。エウロペ大陸でも名が轟いておる上位妖精は別としてな、一般妖精は少しやっかいでな。気に入った子供なんぞを自分の住みかに連れて帰り。飽きるまで一緒に遊ぶという。困った特性を持っておる」
「あぁ、地球でもそう言うと伝記はよくあるな。神隠しとか」
「まぁ、あ奴等、一般妖精も悪気あってやっておらんからなんとも言いがたいがのう。そういうこともあってな『魔法族の里』と『セルビア』の丁度、真ん中にある『幻獣の楽園』のラベルのような‥‥‥ヒポグリフやノーム、ケンタウロス等の幻獣達に一般妖精の監視をお願いしておるんじゃ」
「へぇ、それで良く、上位妖精達は納得するんだな」
「そもそも、一般妖精と上位妖精では妖精としての格が違うのだ」
「格?」
「うむ、上位妖精は神級クラスの方々だ。エウロペ大陸‥‥‥いや、アリーナ世界の危機と知るや、現地まで赴き問題を解決してくれる。逆に人類が悪を働けば天罰を与える方々でもある。おい、それと契約が出きるような方々では無いのだ」
エスフィールは俺の魔法の袋を凝視している。
「やらんぞ!エスフィール」
「いらぬわ!全く、私には『武神鎧』があるしのう」
エスフィールはそう言うとまた一般精霊についての説明を再開してくれた。
「だが、一般妖精は上位妖精と違い。知能はそれ程、高くない。それに数が多い事でも有名じゃな。その為、幻獣達、エルフ、上位妖精がそれぞれの里に監視者を置いておる。一般精霊がイタズラ‥‥‥悪さが出来ぬように監視しておるのじゃ」
「イタズラ?」
「あぁ、一般妖精の知能は子供位しかないのだ。だから、外部の人族や死の国の者達が侵入し、いらぬ、いれ慈恵を一般精霊に吹き込めば。それを一般精霊達は遊びと思って楽しむだろうな‥‥‥‥それが人殺しや○○であってもな」
「‥‥‥‥そうか、じゃあ、今回の魔竜の件は?外部の国の奴の仕業か?」
「それは、今の所は分からぬ。ただ、これまで旅してきた『始まりの大森林』や『双星の大洞窟』とは異なり。警戒感を強めに持って行動しなければ、いくら私やセツナでも最悪死ぬかもしれないということじゃ。だからお主も『セルビア』に入国したら気持ちを引き締めよ。よいな!!」
エスフィールがいつにもなく真剣な眼差しで俺に言ってきた。
「わかった。気をつける」
「うむ、それでよい。それでよい」
そして俺達は日が暮れるまで歩き、ユグドラ街道同様に数十キロ先々にある宿泊地に付き泊まることにした。
「おい、見てみろよぉ!!カミナリ!!!生エルフの姉ちゃんだぞ!!えらいベッピンさんだな!おい!!」
「ふんニャア!!」
セシリアがヒスイを蹴りあげる。
「あぁ、肌も綺麗だし。何というか大人の色気たっぷりだな。」
「またか、貴様!おらぁ!!」
エスフィールが手刀で俺の腹部をぶっ叩く。
「男共よ。ここから先は、エルフの統治のエリアになってくる。エルフは叡知に飛び、温厚だが、高貴な方達じゃあ。けっして失礼の無いようにしろ」
「ヒスイ、エルフの国楽しみだな」
「あぁ、間違いねえ!!久しぶりに遊ぶとするか?」
「おらニャアーーー!!!」「話を、聞いていたのか?セツナ!!!」
その日の宿泊地では男性2人の断末魔が夜遅くまで響いたという。
②サーシャとアリス姫とエリス様
『ソウレイ高原』(魔法中央国から『セルビア』へと入るルート)
『冷夏のイゾルテ』
「いや~サーシャちゃん!!一面に広がる『ナイヤの花畑』めっちゃくちゃ綺麗だったね!!」
『双璧の魔女・サーシャ』
「‥‥‥‥うん、綺麗だった‥‥‥」
『蒼穹のトリスタン』
「何を言っているだい、イゾルテ?‥‥‥君の美貌の方がナイヤの花達よりも100倍以上に美しいよ。マイハニー!!」
「まぁ、トリスタンたら~!!もう!!」
イゾルテは頬を赤らめ、トリスタンの胸元へ飛び込む。
「‥‥‥(イラッ)‥‥‥はぁ。‥‥‥いつもこう‥‥‥」
サーシャは2人の愛の劇場をここ数日の旅で嫌というほど見せられてきたのである。
「‥‥‥師匠は人選を間違えた‥‥‥‥師匠のアホ‥‥‥」
『魔法中央国』魔術院・理事長室
「ハックション!!‥‥?誰か私が美人だとか噂してるのかな?」
場面戻り
「サーシャ殿。後、数日でエルフの国『セルビア』へと着きますが、騒ぎを起こして、我々が『魔法中央国 』から来た者と悟られぬように気をつけましょう。バレてしまっては騒ぎになりかねませんからね。最悪の場合は投獄もありえます」
「‥‥‥わかった。‥‥‥まかせるね‥‥トリスタン‥‥」
「はい、お任せ下さい!サーシャ殿。このトリスタン。蒼穹の名に懸けて!」
トリスタンは笑顔で答える。
(‥‥‥‥苦手‥‥‥すごい‥‥‥苦手、トリスタン‥‥眩しい‥‥)
サーシャは心の中でトリスタンのテンションの高さに嫌気がさした。
「そういえば、さっき、泊まった宿場の方に聞いたんだけど。知ってる?サーシャちゃん、トリス」
「なんだい?マイハニー!!」
「『始まりの大森林』のルートで通る『双星の大洞窟』で上位精霊が出たらしいのよ!!マイ・トリス」
(‥‥マイ・トリス?‥‥‥変なあだ名。)
「そ、そうなのかい?上位精霊とはねえ。僕だったら直ぐに君を抱えて退散するねえ~!何故かって?君の命が一番大事だからだよ~!マイハニー!!」
「まぁ~!マイ・トリス!!私~嬉しいわ~!」
「‥‥なぜ、歌い出すの?」
「なぜですって?サーシャちゃん!そ・れ・は・ね!そこに私のトリスタンがい~る~か~ら~よ~!!」
「ららら~!ららら~!ららら~!」
イゾルテが歌い出したとたん。トリスタンもそれに合わせて歌いだす。
そして『ソウレイ高原』の鳥達、獣達、果ては、道端を行く旅人や行商人までが一緒になって歌い出す。
「いいねえ~みんな!乗ってきたね~!さぁ~みんな輪になって~ららら~!!ららら~!!ららら~!!」
「素敵よ~トリスタン~ららら~ららら~ららら~!!」
「チュンチュン」「ワンワンワン」「いや~!楽しいねえ~!!ららら~!!ららら~!」
人が人を、動物が動物を呼び。『ソウレイ高原』の大地はお祭り騒ぎになる。
「‥‥‥‥トリスタン‥‥‥イゾルテ‥‥‥騒ぎをお、起こさないで‥‥‥‥」
サーシャは膨れ上がった騒ぎをただ呆然と眺め。
「ららら~ららら~ららら~」
「ららら~ららら~ららら~」
「ららら~ららら~ららら~」
皆が楽しそうに歌い騒ぎのお祭り騒ぎ、その結果。
『ソウレイ高原』エルフ領
独房
「国内が不安定な時にばか騒ぎをしおって!!少しそこで頭を冷やしていろ。『魔法中央国』の魔法使い達よ!!」
サーシャ
トリスタン
イゾルテは騒ぎを起こした挙げ句に『魔法中央国』の魔法使いとバレ牢屋にぶちこまれた。
「‥‥‥‥トリスタンとイゾルテの馬鹿‥‥‥‥」
「面目ないららら~!!」
「悲しまないでマイ・トリス~」
(‥‥‥もういや‥‥‥この二人‥‥‥兄弟子助けて‥‥)
サーシャは心の中で親愛なる兄弟子にSOS信号を発信したが受信されることは無かった。)
場面変わり『魔法中央国』市場
「‥‥‥はぁ~!!カミナリ様の魔力を一瞬だけ感じ取って、いてもたってもられずにガリア帝国を抜けて来たのに一文無し。私ってドジなんだから~!」
髪は赤髪で整った顔立ちをしている少女が『魔法中央国』町市場を一文無しの素寒貧の状態で、下を見てさ迷い歩いていた。
「これから、どうしよう。って!きゃあ!」
ドン!
「きゃあ!」
顔が下を向いていて前を歩く女性に気づかずにお互いぶつかり。二人して転んでしまった。
「ご、ごめんなさい。わ、ワザとじゃないんです。ごめんなさい」
「い、いえ!私の方こそ、考え事をしていてごめんなさい‥‥‥あれ?ガリア帝国の姫様?」
「‥‥‥そういう貴女は、勇者様のパーティーメンバーの聖女様?ど、どうして『魔法中央国』に聖女様が?」
「そ、それは、こちらのセリフです。姫様!!ガリア帝国の姫君が他国に、しかも1人でいるなって他の者にバレたら‥‥‥大変な事になりますよ」
「そ、それを言ったら聖女様もですよね?の『七聖教会本部・大聖堂』はよろしいのですか?確か、聞いた所によると教会・大聖堂で伝説のフェンリルを召喚して暴れに暴れ、脱走したとか?エウロペ大陸はその話題で持ちきりですよ」
「そ、それは噂話に尾ひれがつきまっくっています。フェンリルは威嚇で出てきてもらっただけで暴れたのは私、自身です」
「うわぁ、噂以上にヤバイじゃない!!」
「って!何で引いているんですか姫様!!しかも、敬語じゃなくなってますし」
「いや、もういいかなって、お姫様モード疲れるし。行く宛ないし、一文無しだし、どうしよう」
「うわぁ、エウロペ大陸1の大国『ガリア帝国』のお姫様が、無一文!うわぁ!」
「ちょっと聖女・エリス!侮辱がすぎるよ。養いなさい!」
「はぁ?何で私が姫様を?」
「‥‥‥だって他に頼る人いないし。勇者様はどこにいるか分からないし。追われてるし」
「‥‥‥私も同じです。頼る人はいませんし。セツナ様はどこにいるか分かりませんし。追われています」
「ちょっと、待って。聖女・エリスも勇者様を探しているの?」
「へ?姫様もですか?」
「えぇ、ちょっと、その貸している物を返してもらおうと思って。」
「‥‥‥‥‥怪しいですが、そうですか、奇遇ですね。姫様、私もセツナ様に借りているものを貸してもらうために、セツナ様を探してました」
「そ、そうなんだ。目的が一緒なんだ~、‥‥‥じゃあ、一緒にいて私を養って。お願い」
「嫌です。さようなら、姫様!!」
「ま、待って、ご、ごめんなさい。上から目線でごめんなさい。み、見捨てないで~」
ガリア帝国の姫君が涙を流しながら訴えた。
「わ、分かりました。分かりましたから。こ、ここじゃ、目立つから泣き止んで下さい。姫様」
「うん、わかった」
速攻で泣き止んだ。
「(この、姫様はぁ!ランスロットさんはどの様な教育を姫様にしているんでしょうか?まったく)」
「しかし、これからどうしようか聖女・エリス様」
「エリスだけで構いませんよ。姫様」
「ほ、本当?じゃあ、私のこともアリスって呼んで!エリス」
「畏まりました。アリス姫様。これからよろしくお願いいたします」
「‥‥‥ねぇ、ワザとやってるの?エリス」
「エリスとアリスでは少し発音が似ているので嫌です」
「それだけ?別にいいじゃない。ねえ、ねえ、エリス~!!」
姫は聖女に抱きついた。
「本当にこれからどうしましょうか、アリス姫様」
「本当そうよね~」
「エリス様。少しよろしいですか?」
どこからともなく声がする。
「な、なに?このイケメン声は?」
「フェンリル、どうしたのですか?」
「はい、お話中に申し訳ない。お二人共、行く宛がないのでしたら一度。我輩の故郷『神獣の楽園』へいかませんか?あそこならば人族も用意に近づけませんし。人ですが魔法族と呼ばれ者の里『魔法族の里』も隣の国にありますので事情を話せば力になってくれるかもしません」
「『神獣の楽園』ですか‥‥‥確か、ユグドラシル地方の?」
「はい、あそこでしたら。我輩の力も最大限。使える為、最悪の場合。お二人をそれぞれの故郷へ送り返す事も可能になります。かの地は、他の地方よりも魔力濃度が濃くなってますので」
「‥‥‥‥‥なるほど。色々、合点がいきました。アリス姫様。とのことですが、いかが致しますか?」
「神獣、魔法使い、ユグドラシル地方、冒険、ロマン‥‥‥」
アリス姫の目がらんらんと輝いている。
「聖女・エリス!そ、それでい、行きましょう。いざ、冒険の旅へ」
「エリス様。この方は本当にあのガリア帝国の姫様で間違いないですか?」
「ええ、間違いないです」
そして、ガリア帝国の姫様と七聖教会本部・シスターエリスの奇妙な旅が始まった。
③紹介状
宿場でセツナとヒスイを粛清してから5日経った。
私達、新魔王パーティーは、『セルビア』国の入国管理会館で入国手続きの申請が下りるのを待合室で待っていた。
「しかし、なんだか皆慌ただしいな?例の魔竜のせいか?」
セツナがに入国管理会館で働くエルフ達を見て呟いた。
「いや~!違うぜ、カミナリ!何でも俺らとは違うルートで入国して来た奴等が、いきなり歌い出したかと思えばよお!輪を作りお祭り騒ぎで集まりだしたんだとよ!」
「『セルビア』国内って妖精の反乱やらで今、ピリピリしてるんだよな?」
「あぁ、そんでその騒ぎの中心にいた奴等がこれまた驚きでなぁ。昔、エルフ達と戦争して、今じゃ関係が覚めきってやがる『魔法中央国』の魔法使い共ときてやがる」
「ん?『魔法中央国』の魔法使い?」
セツナが何かに気づいたのか、思案し始めた。
「あぁ、とんだ、アホ共だぜぇ!!わざわざ、内乱中の国まで来て、歌って、騒いで、牢屋にぶちこまれてるとわなぁ!!『魔法中央国』の奴等っていうのは皆、ああなのか!カミナリ?」
「‥‥‥‥‥あぁ、あそこの学校、魔術院の理事長からして、頭のネジが外れてるのばっかりだな」
「そりゃあ、牢屋にもぶちこまれる筈だぜぇ!!ハッハッハ!!」
ヒスイが大声で笑いだした。
「‥‥‥まさかなぁ。ははは」
「おっと、忘れるとこだったにゃあ」
窓際のソファーで日光浴を堪能してい寝たいたセシリアが突然、起き上がった。
「どうしたのじゃ?セシリア」
「ンニャア、エスフィール‥‥‥言いづらいにゃあ。メイエス!ウニャ、ウニャ!やっぱり、こっちニャア」
どうやら私の名前のエスフィールよりも偽名で使ってっていたメイエス呼びの方が呼びやすいらしく。今後もメイエスと呼ぶらしい。
「ウニャア~、忘れるとこだったニャア。パパとママからエルフの女王に渡すように言われていた、紹介状をここのニャつらに見せるのをニャア~」
「あぁ、ガルドさんが言ってた奴か?」
セツナがセシリアに失礼した。
「そうニャア~!ちょっくら偉そうにゃ奴に見せてくるニャア~」
セシリアはそう言うと待合室から出ていった。
数分後。ドガン、バタン、と物凄い勢いで待合室の扉が開いた。
「み、皆様、御待たせして大変申し訳ありません。先ほど、来賓室への御案内が完了しましたので、どうぞ此方に御越しください」
「らしいニャア~!」
風貌から見ても、この入国管理会で一番偉そうなエルフがバタバタと現れ、早口に俺達を別館へと案内してくれた。
「おい!どうなってんだ?アインズさんよおう!エルフ共の様子もそうだが、さっきまでとは俺達の扱いの差をひしひしと感じるんだかよう!」
当然の疑問をヒスイがセシリアに尋ねる。
「わっちはただ、パパとママが書いた。2つの紹介状をそこの一番偉いエルフに見せただけニャゾ。そしたら顔色を変えて、ヘコヘコし始めたのニャア。これニャア」
セシリアが私達3人に見えるように紹介状を見せてきた。
セルフィーユ女王陛下へ、娘が其方にお世話になります。どうか、頼みました。『七賢者が1人・ガルド・アインズ』
セルフィーユ、そっちに娘が行くから色々助けてやって。『始まりの大森林・議席レベッカ・アインズ』
と書かれている。
「‥‥‥ガルド殿は現役の七大賢者の1人だったのか。驚いたのう」
「俺は知ってたぜ!」
「俺もだな」
セツナとヒスイがそう答える。
「なるほど。これなら紹介状を見せた後のエルフ達の態度を変わるのも納得だな」
「ニャンでニャア?」
「分からないのかセシリア?」
「?何でそんなビックリした顔をしてるのニャア?みんニャア?」
「き、君、七大賢者といったら死の大地の探索や迷宮踏破の話で有名だろう?外から来た俺でも知っている大英雄だぞ。ガルドさんは」
「へ~、知らなかったニャア。パパは凄いのニャア~」
セシリアは呑気にしっぽをゆらゆら揺らす。
「‥‥‥おい、カミナリ!余りアインズさんに言ってやるなよ!コイツはまだ若い、これからだ!それに昔、一緒に旅をしていたんだろう?何でそん時に勉強を教えてやらなかったんだ?」
「‥‥‥教えようとする旅に脱兎の如く逃げられていた」
「‥‥‥そうか、すまねえ!」
「ニャ、何ニャ、2人ともわっちを見て諦めた様な顔をしてニャア」
「いや、何でも。」「右に同じだ。だが、まだ間に合う、これからは俺がみっちりと勉強を教えてやるぜ!アインズさんよう!感謝しな!」
「‥‥‥最悪にニャア~!」
そんな、やり取りをしている間に先ほどとは、まるで違う来賓用の部屋へと案内され。高級そうなソファーに座らされたテーブルにはユグドラシル地方で有名な焼き菓子が綺麗に並べられていた。
「食っていいのかニャア~?」
「セシリア、ステイじゃ、まだ食うな」
「フシャ~ニャアでニャ!メイエス」
「先ほどの身分の高そうなエルフ殿が挨拶してから手を着けよ。あちらに失礼だからな」
「マナーも勉強しような!アインズさんよう?」
「‥‥‥‥覚えてろニャア、アホ騎士」
その瞬間、先ほどの一番偉いとみられたエルフよりも若い女性のエルフが扉を静かに開けて来賓室へ入ってきた。
「この度は、此方の手違いで時間をかけてしまい大変失礼したしました。七大賢者ガルド様の娘にしてユグドラシル地方を代表する騎士。拳王姫セシリア殿」
その女性エルフはセシリアに深々とお辞儀し謝りの言葉を述べた。
「ウニャ~!よきに計らえニャア~!」
「あらよっと(パチン)」
「ギニャアアア~!!こちらこそ、紹介状を出すのが遅れて悪かったニャア~!!謝るのニャア~!!ごめんなさいニャア~!!エルフの人~!」
「まぁ、流石は、名だ高き拳王姫セシリア殿。寛大な心に我ら、入国管理館、エルフ一同感謝致します」
そう言って、また、女性エルフは今度は俺達、全員にお辞儀をした。
④『セルビア』の真実
『聖剣の道標』最終地点『セルビア』入国管理館・来賓室
「自己紹介がまだでしたね。私はこの入国管理館の管理、運営を任されてる館長のクリス・メイナーと申します」
流石はエルフ。挨拶一つとっても絵になる。私は心の中でそう思い。隣のセツナを見るが美人エルフだと言うのにいまいち反応が薄い。
「ご丁寧にありがとうございます。俺はカミナリ セツと申します」
「私は彼の従者のメイエスです」
「俺はヒスイだあ!よろしい頼む」
それぞれ、自己紹介をそつなくこなしテーブルに置かれた。『セルビア』自慢の焼き菓子を私とセシリアは堪能する。
それから何故、私が偽名のメイエスと名乗ったかというと。セツナが自身を元勇者とは言わなかったからだ。
セツナには何か考えがあるのか知らないが、念のため。私も本当の名前は伏せることにした。
小一時間クリスさんと談話した後、不意にセツナが質問した。
「ところでクリスさん。現在の『セルビア』国内は内乱状態にあるというのは本当なんでしょうか?」
クリスさんは、それを聞いた瞬間。先ほどまでの笑顔が消え、辛そうな顔をし始めた。
「‥‥‥拳王姫様のお仲間なら知っていて当然ですね。‥‥‥はい、セツさんが言うように現在、我々の‥‥‥違いますね。我々エルフと妖精の国『セルビア』では、魔竜とそれに付き従う一般妖精によって内乱状態にあり。非常に不安定な状態です」
「そうですか。話に聞いたとおりですか‥‥‥」
「はい‥‥‥皆さんにはまず、この国の『セルビア』の国の成り立ちについてご説明しますね。」
クリスさんはそう言うとソファーから立ち上がり。
『セルビア』国の歴史を話始めた。
「神代の時代。このユグドラシル地方がまだ、戦乱の真っ只中の時でした。1人の英雄が我々エルフと妖精を纏め上げ。1つの大きな国を作りあげたのです。」
「それがかの大英勇にして初代セルビア王『オーディン』ですね。」
「はい、このとおりです。セツさん。その『オーディン』を中心に『セルビア』国内では地上では、エルフが統治し、地下の『キャメロット』では、精霊の王アーサー王とモルガン女王が上位妖精とその他の妖精達を纏めあげてきたのです」
「ん?『キャメロット』とは?‥‥‥‥それに『セルビア』はエルフの国ではないのですか?」
私が気になった事を質問する。
「皆さんが知る。『セルビア』は表向きはエルフが統治する『セルビア』と思われていますが、実際は違うのです。世界樹を守護する地上で暮らす、我々エルフと。地下の理想郷を守護する精霊の国、アルフヘイム(妖精国)、2つの国を合わせた国こそが本当の『セルビア』という国なのです」
「‥‥‥‥2つの国を合わせて『セルビア』国って初めて聞いたぞ」
セツナが独り言の様に言葉を漏らす。
「わ、私もだ!ただで際大きい『セルビア』の国の下に、妖精の国。妖精国がある等、お母様からは教わらなかった」
「それはその筈です。妖精国については他の国々や地域に伝えてありませんので」
「ユグドラシル地方の為ですね?」
「‥‥‥‥‥メイエスさんもなかなか、切れるお方ですね。はい、そのとおりです。他の、人族や死の大地の者達の様に。豊富な資源があるユグドラシル地方を蹂躙させない為、ユグドラシル地方に住む、他の多種族と話あった結果。得秘の力として、妖精国については他国に口外しないことが協定で決まっています」
「なるほどだぜ!長年、人族の奴等がユグドラシル地方に戦争を仕掛けても勝てないわけだ。ユグドラシル地方に侵入したとたん、上位妖精‥‥‥災害レベルの力と戦うんだからな。それに+して獣族、魔法族、幻獣、エルフか‥‥‥‥人族じゃあ。相手にならねえな」
ヒスイが数日前にセツナが言った様なことをこの場で説明した。
「はい、数ヶ月前まではそうでした」
「あの、数ヶ月前とは、いったい?」
セツナが真剣に質問している。さっきからなんだか様子がおかしい。
「はい、丁度、かの、癒しの担い手と言われる勇者様とと、我が『セルビア』国と同盟関係にある魔王領の現魔王様が同時期に行方不明になってから、あの忌々しい魔竜が表れたのです」
「ん?」「へ?」
セツナと私が同時に変な声を上げる。
それを見たクリスさんが心配そうに私達を語りかける。
「セツさん、メイエスさん。お顔が優れないようですが大丈夫ですか?お体が優れないようですでしたら客間へ御案内しますが‥‥‥」
「いえ、だ、大丈夫です」汗タラタラ
「わ、私もじゃ。ご心配ありがとうございます」
「ンニャ?勇者と魔王にゃら、クリスさんの今、目の前にいる‥‥‥‥ギニャアアア!!!ニャアでニャア?今日で何回目ニャア~!」
「黙ってろアホセシリア!!」
セシリアが本当の事を言おうとした瞬間、セツナは『契約の輪』を発動させ、セシリアを黙らせた。
「なるほど。事情はさっきのクリスさんの説明で理解出来ました。ありがとうございます」
この話を早く打ち切りたいのかセツナが次の話題へと移ろうとする。
「いいえ、とんでもありません。はるばる『始まりの大森林』からかの拳王姫セシリア殿が従者を連れて我々エルフと妖精の為に、援軍に来てくださるなんて感動の極みです」
「ん?クリスさん援軍とは?」
「はい?セルフィーユ女王陛下からは七大賢者ガルド様からの早馬で娘の拳王姫セシリア殿を援軍に向かわせると伝達がありましたが、知りませんでしたか?」
「なるほど、伝達ねえ~?セシリア!何で俺達に知らせなかった?」
「痺れるニャアア!!わ、わっちもそんなこと知らなかったのニャアア!!わっちは悪くないニャア!!」
「‥‥‥‥それもそうだな。電撃解除」
「‥‥‥死ぬニャア、このまま、セツニャにいつか、殺されるニャア」
「君の身体なら大丈夫だろう。それにそろそろ雷魔法にも慣れてきたから、多分、『神気・雷』が使えると思うぞ」
「ンニャ?『神気・雷』ってなんニャ?セツニャ。」
「ガルドさんから習ってないのか?‥‥‥‥了解、今日の夜にでもやり方教えるよ」
「ナンニャ?それでわっちは雷耐性でも身に付くのかニャア?」
「いや、もっと凄くなる」
「ほう、それは楽しみだニャア」
「お主ら、そろそろ、静かにしろ。クリスさんの説明が途中だぞ。まったく」
私は、さっきからこそこそ話しているセツナとセシリアを注意する。
「ふふふ、いいんですよ。メイエスさん。私も最近、館長としての仕事に追われているので、皆さんとの時間はとても有意義です」
クリスさんの顔をよく見て見ると、かなり疲れているの見てとれる。
その後、しばらくは『セルビア』国の里の様子や世界樹と妖精国の最近の内情等を詳しく聞いた。
「では、現在、エルフの女王、セルフィーユ女王と妖精国の王・アーサー陛下とで魔竜の討伐に動いていると?」
「いえ、現在の妖精国の王。アーサー王は不在でして。変わりにモルガン女王が国を任されています。そして、セルフィーユ女王とモルガン女王はそもそもは実の姉妹なのでどちらの王もそれぞれを心配していて‥‥‥」
「え?エルフなのに妖精国の王代理なのですか?そのモルガン女王という方は?」
「ええ、モルガン女王は『オーディン・セルビア』の家系で、上位妖精とエルフが交わり繁栄してきた家系なのです。その為、王家に産まれてきた姉妹か兄弟の片方は妖精国の女王になるのが『セルビア』国の習わしになっております。」
「なるほど。分かりました」
「では、皆様、今夜は、この入国管理館の客間にお泊まり下さいませ。夕刻の時、また、ご挨拶に来ますのでよろしくお願いいたします。夜には、小さいながらも聖剣の道標に滞在する氏族を集めた懇談会を開きますので楽しみにしていてくださいませ」
クリスさんはそう言うと一礼し、来賓室から立ち去っていった。
⑤『神気・雷』
クリスさんから『セルビア』国内の説明を聞き終えて数時間後。ユナ・エスフィールは、姿が見えなくなった元勇者を探し歩いていた。
「まったく、セツナの奴、客間に案内された途端にいなくなりおって、いったいどこに行ったのだ?」
私は裏庭やその周辺の木々を見て回る。
「む!あそこにおったか、お~い!セツナ~!あそでいったい何をしてるのだ?」
そうセツナに向かって大声で話しかけながらゆっくりと近づく。
「‥‥‥なんだ、エスフィールか。いきなり、声が聞こえたからびっくりしたぞ」
「いや、お主がいきなり客間からいなくなったとヒスイがボヤいていたのでな。気になって探しに来たのだ」
「そうか、俺が心配になって探しに‥‥‥‥おい、やめろ右手で手刀の形を作るな。それ、案外痛いから振り下ろすなよ」
「ならば、もう少し、発言には気をつけよ。5日前の様にはなりたくなかろう?」
「‥‥‥‥確かに、正座石積みはもう、やだな」
セツナがガタガタと震え出し。ポツリとそう言った。
「で?お主は、こんな人がいないところで何をしておったのだ?」
「あぁ、明日で『セルビア』国に入るだろう?その為の準備と対策をタマキと一緒に話し合っていた」
「タマキと?それに準備と対策とはいったい?」
「‥‥‥‥恐らくだが、「セルビア」国の驚異は魔竜だけじゃないと思う。他にも魔竜クラスかそれ以上の存在が蠢いていると俺は思っているよ」
「魔竜以上の存在?それは例えばなんなんじゃ?」
「‥‥‥‥それはこの目で確かめないと分からないよ。だけど、予め対策は打っておける。その為のこれだ」
セツナが言い終えた瞬間。裏庭の開けた場所に魔方陣が表れ、その中から地球で言うドローンというやつか?
それが大量に魔方陣から姿を現した。
「な、なんじゃ?この大量の鉄の固まりは?」
「地球のドローンをアリーナに行く前に大量に買って持ってきてたんだ。収納魔法、万々歳だな」
「そのドローンか?何のために使うのじゃ?」
「地球の神を呼ぶ‥‥‥‥。」
その後、セツナから『セルビア』での対策や新たな魔道具を渡され、その説明を受けた。
夕刻頃までセツナとの話し合いを終えた私は裏庭から1人で客間に戻った。その途中、セシリアと入国管理館の通路で出くわした。
「ニャ!メイエス。セツニャのやつはどこにいるかしらにゃいかニャア?」
「セツナの奴か?セツナなら裏庭の方で作業をしておったぞ」
「本当かニャア~、教えてくれてありがとうニャア~、メイエス~」
そして、セシリアは私と入れ替わる形でセツナが入る、裏庭へと向かった。
入国管理館・裏庭
「お~い!セツニャ。さっきのクリスの話の時の『神気・雷』についてわっちに詳しく教えてほしいニャア」
エスフィールと入れ替りで今度はセシリアが現れた。
ちょうど、タマキとの打ち合わせや、『セルビア』国での準備を終えた。実に丁度いいタイミングである。
流石、長年一緒に旅をしただけはある勇者パーティーの1人。面構えが違う。
「お~、セシリア、ナイスタイミング。丁度、俺の方も準備が完了したところだ。‥‥‥あぁ、俺がさっき言っていた。『神気・雷』についてだよな?」
「ウニャ、ンニャ!そうニャア。勿体ぶらないで教えてほしいニャア」
セシリアが目をウルウルさせて言ってきた。張り倒したい。
「‥‥‥OK時間もないし直ぐに始めよう。セシリア、いきなりの質問で悪いが君の一番得意な魔法は風魔法だったよな?」
「ニャア?ナンニャ。いきなり、そうニャア、わっちは風魔法が一番身体に馴染むのニャア」
「それだセシリア!今、君が最後に言ったセリフを、もう一度言ってくれ」
「?だから、風魔法が一番身体に馴染むのニャア。‥‥‥それがどうかしたのかニャア?」
「まだ気づかないか?君は『神気・風』を無意識に使いこなしているんだよ」
「ニャア?『神気・風』にゃあ?初めて聞いたニャゾ?そんな話」
「なるほど、ガルドさんはガルドさん自身がセシリアに教えることよりも、自然に身に付けさせたり。周りを頼る様にさせながらセシリアを成長させる考えか」
俺は1人、ぶつぶつと独り言の様に言った。
「ナンニャ?わっちは『神気・雷』について教えてほしいニャゾ。なのに何で風がでてくるニャヨ?」
「悪い、悪い。ちゃんと説明するよ。君は以前、『始まりの大森林』で俺と戦っただろう?」
「忘れもしないニャア。あの時からわっちの奴隷生活がスタートしたニャア」
「‥‥‥‥全て自業自得だ。話を元に戻すぞ。その時、君は風魔法を身体に纏わせて俺と戦っていたのを覚えているか?」
「んーー、あの時は無意識にやってたからニャア!うっすらとしか覚えてないニャア」
「まぁ、いいさ。今回、教えるのは新しい『神気』の纏技『神気・雷』だ」
「前のわっちとの闘いで最期に使った技かニャア?」
「いや、あれとは別だ、似ているけど。『神気・雷』は『神気』だけ使用する技なんだ」
「どう言うことニャア?」
「簡単にいうと魔力を消費しないで雷攻撃の耐性を得たり。雷魔法を使用した時に雷魔法の威力を底上げしてくれるのが『神気・雷』の効果なんだ。実際、君が無意識に使いこなしている『神気・風』も君が風魔法を使った時、通常の魔法使いよりも数倍の威力の差があるのは君も分かっていたんだろう?」
「全然分からなかったニャア~」
「‥‥‥そうか、ならいい。『神気・雷』を取得する方法は簡単で雷魔法を日々喰らい続け耐えること。そうすることによって体内の気功が開いて、自然と『神気・雷』を使いこなせる様になっていくんだ。『神気・風』のようにね」
「それで日々、雷撃の拷問だったのかにゃあ?」
「愛ある電撃ということだな。良かったなセシリアこれで君もまた、強くなれるじゃないか」
俺はどや顔でセシリアを見て言った。
「‥‥‥もっと別の方法で『神気・雷』を覚えたかったニャア。そして、何でわっちは長年、セツニャとパーティーを組めているのかニャア?疑問だニャア」
「まぁ、説明と雑談はこの辺にして、少し練習しようか。夜には懇談会が始まるしな」
「わかったニャア」
こうして、しばらくの時間、セシリアに『神気・雷』の使い方の手解きをしたが、セシリアはその天賦の才もあってなのか、1時間もしないうちにあっさりと『神気・雷』をマスターしたのだった。




