男の娘『リップ』
『オアシス・サウス』
テキスト市場
「さぁ、今日はなんと大量入荷!安いよ!安いよ!サンドワームの線骨肉だぁ!安いよ!安いよ!買った!買った!」
「シルバースコーピオンの上質な甲殻と両爪はいかが?今朝方、大量に手に入れたぁ~!貴重なシルバースコーピオンの素材達だぁ~!」
「なら、此方はサンド・ホエールの外皮を!」
「ならなら、人面スフィンクスの魔法羽根はいかが?」
「いやー!久しぶりの新鮮素材の大量入荷だぁ!野生アヌビスの新玉!貴重品だよ!どうだい!お客様!!」
「‥‥‥いや、それ‥‥‥‥今朝方、俺達が市場で買い取ってもらったもんですよね?」
セツ君は困った顔で市場の露天亭主と雑談しています。
そして、私は未だにセツ君(元彼)←ここ大事ですわ。のスマホを隅から隅々までチェックしていますわ。
「痴女‥‥‥‥アヤネ様よう!そんなにそのスマーホ?をずっと見てないで。せっかく知らない土地に来たんだ。観光を楽しまないとだな」
「そ、それは分かっていますが‥‥‥鵺さん。これは乙女の闘いなんです!」
「何と闘うんだよ!何と‥‥‥アヤネ様はあれだろう?カミナリ様の元恋人だったんだろう?和国時代にカミナリ様と一緒に入る時、色々と話は聞いてたぜ」
「は、はい!後、少しで元の鞘に戻る予定です」キランッ!
「‥‥‥‥そう思うなら、もっと落ち着きを持つんだぜ!アヤネ様。最近、行動を見てるとなんだか必死になってるように見えるぜ。昔、聞いていた頭が切れて、落ち着いた人とはとても思えないぞ」
「わ、私が落ち着いていというんですか?兎さん」
「誰が兎さんだ!ミー、ミー!」
「いえ、見た目からして可愛い、可愛い兎さんですわ」
ナデナデ。
「ふぁ~、気持ち良い~、ミー、ミー!‥‥‥じゃなくてだな、悩みがあるなら聞いてやるから話してみな!俺は契約者仲間での『念話』がかのうだからな」
「『念話』ですか?」
「アヤネ様の脳内に直接語りかける。そうすれば俺達内だけで意志疎通ができるようになるぜ」
「私達だけでですか?それは凄い」
「よし!いくぜ!‥‥‥雷火の法『念廊』‥‥‥」
(どうだい?俺の声が聞こえるかい?アヤネ様)
(す、凄いですわ。頭の中で鵺様の声が)
(おぉ、成功したな!‥‥‥‥なら、早速、話を聞かせてくれ)
(うぅぅ、でもですね)
(安心しな、この『念廊』を使っての会話は後に漏らす事は雷火の法の術式で定められている。だから、俺がうっかりとカミナリ様に話すことは絶対に無いからな)
(定められているですか?)
(あぁ、俺の真の主。七原龍『月詠の姫』様との誓いでな)
(『月詠の姫』様?その方は何方なのですか?)
(姫様かい?そうだな!列島大陸の北を統べるお方だな‥‥‥‥そうだな。雰囲気は‥‥‥アヤネ様に少し似ている人だな)
(私に?その『月詠の姫』様がですか)
(あぁ、恋にバグって酷い目に合うところとかな!天使達とのバブみか?あれは傑作だっ‥‥‥‥)
スチャン!
私は懐から護身用の短剣を取り出しました。
(‥‥‥‥というのは冗談で。そろそろ話、聞こうか!)
(はい!ありがとうございます。鵺様)
一方その頃。
「ニャー、ニャー、相談してみよ。神無月」
「わ、私は‥‥‥‥」
「心配するな。誰にも言わん。それに他の者には聴こえないように『言下』の結界を我と神無月の周りに敷いてある」
「『言下』の結界」
「我は神龍の祖先。悩みがあるなら打ち明けろ。ニャー、ニャー、」
‥‥‥‥‥‥『アリーナ』世界の古来より、神々に仕える『神獣』『神龍』達は悩める人々の苦悩を聴き、手を差し伸べたと数多の文献。古文書には記された入る。
「あの二人‥‥‥‥静かになったって事は」
「クロと鵺殿に何かの相談中でしょうか?」
「‥‥‥‥分からん。神獣や神龍達の祝詞や願いを邪魔する事は何人も許されないからな」
「‥‥‥‥そうですね。それは神話の時代からの約束ごとでしたね」
「アヤネと委員長には‥‥‥‥‥後で謝んないとな‥‥‥色々な事に巻き込んで悩ませてで負担ばかりかけてるからな‥‥‥‥」
「‥‥‥‥はい」
「オーイ!お客さん!2人で話してないでくれよ!そのアヌビスの骨髄を売ってくれるのか?売ってくれないのか?どっちなんだよ?」
人が色々と考えているのに五月蝿い商売人である。『オアシス』での情報収集の為に、ヘファイストス地方の旅の途中で手に入れた珍しい素材をちらつかせた入ると、
寄ってくるわ、寄ってくる!加工職人や行商人の人の群れ。詳しく話を聴いていると近年の『モニュメント荒野』や『モンスターズ・サンド』での魔獣討伐も困難を極めていたとの事。
そんなおりに俺達が大量の加工素材を市場に流した事によってオアシス・サウスでは久々の活気に沸いているとの事。
「オーイ!ダンナよう!どうなんだい?なぁ!」
「あー、なら『今季』のあの場所へのは入り方を知っていたら譲ってやるよ!それかあの場所の案内人がいたなら手を上げてくれ!」
あの場所とは、勿論、『鍛冶屋の里』の事である。あの場所へ行くには、入り方を知っている者に入り方を聞くか、案内人に接触し、交渉を行ったうえでやっと通ることが許可される場所。それがオアシス・ウエス『鍛冶屋の里』なのである。
そして、結果は。
シーン‥‥‥‥
誰も反応しなかったのであった。それもそうだろ、このオアシス・サウスは素材と金が集まる場所。部外者の人達だ。そりゃあ、知らなくて当然である。
「誰も反応無しと‥‥‥‥では皆さん。貴重な素材は諦めてもらって、夜叉巫女。『案内人』に渡す為の資金もできたし。そろそろ、オアシス・ウエスの方へ移動を‥‥‥」
俺が夜叉巫女にそう伝えると。
「待ってくれ!!!」
俺達をぐるっと囲む業者達の中から1人の少女?が飛び出してきた。赤髪で、容姿は整っている。まさにまんごとなき乙女だ。
「ん?何だ?女の子か?」
「だ、誰が女だ!俺はリップ!正真正銘の男の子だっつうの!!」
「‥‥‥‥男の子ねぇ?男の娘の間違いでは?」
「お、お前え!なんだか分からないが俺の事を馬鹿にしてるな?!」
「あぁ、馬鹿にしてる」
「何だと?」
「何を浮気してるですか?!フンッ!」
バチーン!
「ブホッ!」
「まーた!変なフラグを立てて!フン‥‥‥駄目だわ!叩けない」
「いや、叩くなよ。クソー!アヤネ!何でビンタするだよ!」
「新たなフラグが建ちそうでしたので‥‥‥って?男の娘?ですか?」
「お前もか?ビンタ女!俺は男の子だつうの!‥‥‥おい!クソガキ!」
男の娘のリップが俺に勢い良く話しかける。
「何だ?女男リップよ」
「女男?くっ!そんな事よりもその貴重な素材達を俺に寄越せ!」
「‥‥‥何だと?クソガキ」
俺は男の娘リップの言い方に少しイラッとした。
「お、おいっ!止めろ!止めろおお!!その魔力に満ちた右手で俺の綺麗な顔面を殴ろうとするなぁ!!」
「フンッ!ではサラバだ!男の娘リップよ」
「イヤだ!ちょっと待ってくれ!!知ってる!例の場所を知ってるから、その貴重な素材達を俺に買わせてくれ!頼む!」
ビリビリビリビリ!!
男の娘リップはそう言って、俺の被っていたコートを力強く破ったのだった。




