担い手とレオン
砂漠の都『アヌビス』
宝石魔道具店『セルケト』
「着いたな。ここがヘファイストス地方でも有名な宝石と魔道具の店。せるけとか」
「‥‥‥‥ねぇ?神成君何で?宝石店に来たの?も、もしかして!!」
委員長が目をキラキラさせながら俺を見つめている。
「あ、あぁ、委員長の為の魔道具を買いに来たんだ」
「ほああああ!!わ、私の為に?魔道具を買ってくれるうぅぅ?私の為に指輪を?!」
「‥‥‥‥何故そんな声を出す?そして‥‥‥」
何故に指輪と限定すると言い方が止めておこう。いくら、勘違いおバカの俺でも彼女達の俺に対する反応をずっと見ていれば分かる。
いつまでも委員長やアヤネに対して、曖昧な態度を取るのも男としてどうなのだろうと。デザーサンドでの一件以来、ずっと考えていた。
「そうだな。指輪、買いに行こうか。委員長」
俺は委員長の右手を取り、優しく手を引いた。
「う、うん!ありがとう!神成君!」
そんな、委員長は俺にいきなり抱きついてきた。
あの『鬼の神無月』の異名を持つ少女は、本当に天真爛漫な美少女になってしまったのだ。
ムニッ!
ん?ムニッ?‥‥‥‥そういえば。現在、この子は下着を着けていなかったんだったな。つうか、以前より成長してないか?委員長のお胸。
「お、おい、あんまり激しく動くなよ。委員長、履いてないの周りにバレるぞ」
「何?そんなに周りにバレるのが心配?神成君?ねぇ?私の事心配してくれるの?ねぇ?」
こ、この変態属性娘があぁ!!こないだの事があってから、俺が二人に逆らえない事を良いことに好き放題やりやがって!たくっ!
「い、いいから店の中に入るぞ!委員長。履いてないのバレないように俺からあまり離れるなよ」
「了解よ!神成赤ちゃん。ヨシヨシ」
「こ、こいつ~!」
俺と委員長は変なやり取りをしながら店の中に入った。
その瞬間。
「何?貴様、この魔石類の価値を分からぬと申すか?」
「いえ、ダンナ。うちのような小さな宝石魔道具店では魔石の原石等の買い取る為の資金が無くてですね。換金するのでしたら、『オアシス』か現在、発展中の『ガルクドウルク』でないと買い取りはつかないと思われまして‥‥‥‥はい」
「何?ここは砂漠の都と名高い『アヌビス』なのだろう?何とかいたせ」
「いえ、その様な事を申されましても‥‥‥はい」
店中に響き渡る声で、顔に変な仮面を付けた中年の男性が店の店長らしき人と口論していた。
「霊‥‥‥ゴホンッ!レオン様。店の主人が困っております。ここは一度、別の場所へ行き対策を立てましょう」
「お父様。何故、国から出る前に旅費がちゃんとあるか確認しなかったのですか?」
仮面男性の両隣には、別の仮面を着けた青年らしき人と‥‥‥‥何処かで一度会ったことがあるような無いような‥‥‥‥多分、気のせいだろう。仮面を着けた赤髪の女性が仮面男性を諌めていた。
「だがな。スカサハよ!ここで資金を調達しなければ、今日も橋の下で野宿なのだぞ!」
「ですからお父様。何故、国から出る前に旅費があることを確認しなかったのですか?レオンお父様」
「うっ!それはだな。我が娘よ」
「それは、早く旧友のラインバッハ殿に会いたいからですな?レオン様」
「‥‥‥‥それよりも今は旅費だ!亭主よ。なんならばこの魔道具を着けてやるぞ」
「い、いえ、高貴そうなダンナさん。どれだけ貴重な物をお出し頂いても私どもには買い取り資金が無くてですね」
「くっ!それでは我が可愛い娘を野ざらしにする気か?」
俺と委員長が入店してから数分。そんなやり取りがずっと続いていた。
「‥‥‥揉め事かしらね?旅費がどうとか言ってけど」
「あんまり、じろじろ見るなよ、委員長。巻き込まれるぞ。そんな事より、何か気になった物があったら遠慮無く言ってくれよ」
「んー‥‥‥なら、この高そうな『紅の指輪』ってやつとかダメかな?」
「『紅の指輪』か!いいな」
「うん!凄く綺麗だったから気になっちゃって‥‥‥」
「そうそう、その宝石魔道具は火魔法の威力を少し上げてくれるんだ。それに火妖精の加護も付与されている。なかなか目の付け所が良いな!委員長は」
「‥‥‥‥私はこの宝石の指輪が綺麗だったから選んだだけよ。この魔道具オタクさん」
委員長は何故か、少し機嫌が悪くなった。
「‥‥‥そうだな。それとこの赤眼の腕輪とサラマンダーの原石も買っておこう。うん!そうしよう」
「ちょ、ちょっと待って!全部でいくらするのよ?」
「ん?軽く五千万ギル位だが?」
「そ、そんなに高そうな物ばっかり買って大丈夫なの?お金無くなっちゃうわよ」
「あぁ、平気だ。金ならガリアの貴族の裏金を‥‥‥ゴホンッ!ゴホンッ!‥‥‥たんまりあるから心配しないでくれ、ついでに宝石の装飾が着いた下着も売ってたから買ってやるよ。そして、直ぐに履けよ」
「は、履かないわよ!そんな宝石の下着なんて」
「‥‥‥‥嫌がってても無理やり履かせるからな。そんな白いワンピースじゃ、いつ中見が周りにバレてもおかしくないからな。うん」
「イ、イヤよ!私は今のこん状態が一番興奮して‥‥‥‥」
「つっ!大声出すな!店の人達に聴こえるだろうが!‥‥‥‥って!いつの間にか注目を集めてしまっている」
「‥‥‥‥え?」
「レオン様。あの者達、あの様な高価な品を次々と買おうとして取ります。もしや、それなりの資金を持っておるのでは?」
「何?資金だと?」
「あら?あのお顔は‥‥‥‥」
先程、店の主人と口論していた3人が俺達の方へと向かってくる。
不味い、トラブルの予感しかしない、まだ、買い物も済ませて無いのになんてこった。
「か、神成君。あの人達、こっちに来るわよ」
「‥‥‥‥俺から離れるなよ。委員長」
「う、うん!分かったわ」
ガタンッ!
うわぁ、近くで見ると結構でかいな。レオン様とか言われているこの男。
「お話し中で申し訳ありません。少年少女様方、私は此方の霊‥‥‥レオン様に御使いしております。デールと申すもの」
「は、はぁ、そうですか。俺達に何か様でしょうか?デールさん」
「はい。実は此方のレオン様から貴方様方にお伝えしたい事があるとの事でして」
「お伝えしたい事?」
「うむ!我は霊‥‥‥ゴホンッ!ゴホンッ!レオンと言うものだ。宜しく頼む」
「はぁ、宜しくお願いします」
不味い、この流れは非常に不味い。また、変な事に巻き込まれるぞ。
「実はだな。我々は今、旅をしていてな」
「旅ですか?」
「あぁ、そうだ。だが旅の途中のこんな時に旅費が底を尽きてしまってな。困っていたのだ」
はい、来ました。トラブルフラグ‥‥‥‥
「物は相談なのだがな。この魔石の原石や古代魔道具を貴殿等で買い取ってくれないか?」
ん?買い取ってくれないか?だって?店でも買い取りはできないような物を俺達に売ろうとしているのか。
‥‥‥‥どれどれ、どんな代物なのか見てみるか。
「えーっと、どんなのがあるんですか?」
「うむ!これなのだかな」
レオンさんはそう言って近くのテーブルに旅費にする為の品々を並べ始めた。
「ん?‥‥‥‥これは?!死の大地にしかない魔石の原石?それにこれは俺でも手に入れられなかった『高楼の火箱』!!!他のも見たこと無いような物ばかりじゃないですか?」
「どうだ?少年少女よ?この品々を買い取ってくれるだろうか?」
「これだけの品々なら‥‥‥」
俺は紙とペンを魔法の袋から取り出し、スラスラと数字を書き出す。
「ね、ねぇ、神成君。そんな‥‥‥‥大丈夫なの?そんな額出して?!」
隣の委員長が驚愕の声を漏らす。
「これでどうでしょうか?レオンさん。この品々だと足りない気がしますが」
「うむ!どれどれ‥‥‥‥こ、これは?!大臣!!これを見てみろ!!!」
「レ、レオン様。今の私は召使いのただのデールです」
「そんな事はどうでもよい!早く見てみろ!」
「わ、分かりました。レオン様‥‥‥ではでは‥‥‥‥一、十、百、千、万、億ギル?‥‥‥‥億?億?とは何ぞや‥‥‥」バタリッ!
デールさんは億まで数えて終えたとたんにその場で意識を失った。
「あまりの桁に驚いて、昇天していますわ。お父様」
「まぁ、我々の国の2ヶ月分の国家予算に匹敵する額だからな。無理もあるまい」
「はい‥‥‥」
仮面の親子?はデールさんを見ながら、ひそひそ話をし始めた。
「あ、あの?これでは足りませんでしたか?‥‥‥では他にも」
「い、いや、これで良い。これで良いぞ!少年よ。これで今回の旅費は十分足りるぞ」
「‥‥‥感謝します。救国の担い手殿」
「それじゃあ、お金の方は何処か広い場所で‥‥‥」
「いや!ここで良い!店長よ!!!」
レオンさんは覇気のある声で怯えていた店長に話しかける。
「は、はい!!ダンナさん!!何でしょうか?」
「この少年少女達と取引をする。店の密室を貸してくれぬか?ん?」
「は、はい!惜しいたします!だから、殺さないで下さい!!取り引きができなかったからって、止めてください!!ダンナさん!!!」
レオンさんに心底、ビビる店長。なんだか可哀想になってきたな、あの人。
「よし!感謝するぞ。店長よ」
「は、はひぃぃ!!」
「では、店の密室へと向かおう。少年少女よ、そこで換金を頼む」
「‥‥‥‥了解です。レオンさん」
‥‥‥‥この人、俺の装備を見ただけで俺がどれだけの魔道具と金を収納しているか見抜いたのか?
それに常に魔法の袋『黄金の宝物庫』と背中の『ロンギヌス』をチラチラと意識していたよな?
何者なんだ?この人。
『セルケト・密室』
ドンジャラ、ドンジャラ!!ドン!ドン!ドンジャラ!!
次々に魔法の袋『黄金の宝物庫』から出てくるギル(お金)の数々。
「ウオオォオ!!なんなんのだ?!この量の金は?『メビウス』」
シュオン!!
レオンさんが『メビウス』と唱えた瞬間。密室を埋め尽くす金が一瞬にして消えた。
「これは?‥‥‥‥異空間か何かの魔法ですか?」
「ぬ?あぁ、そんなものだ、少年。それにしても本当に紙に書かれた金額を出してくるとはな。驚いたぞ!感謝する。少年よ」
「それは‥‥‥‥良かったです。レオンさん。後、これを各国にある都市部の『ライトニング商会』か『ライン財団』の支店に見せれば、何かしら旅の手助けをしてくれと思うので受け取って下さい」
俺はそう言って。レオンさんにあるカードを一枚渡した。
「これは‥‥‥魔力札か?少年」
「は、はい。何か困ったら、ナルカミの知人だと受付の人に伝えて下さい。そうすれば、宿泊場や旅路等のサポートをしてくれると思います」
「成る程。分かったぞ、では、ありがたく受け取っておく。何から何まで感謝するぞ。少年!もし、北の大地に来た時には手助けしよう」
「北の大地ですか?」
(何だ?ユグドラシル地方かアテナ地方の北方の事か?)
「うむ、ではそろそろ、我々は行くとしよう。また、何処かで会おうぞ!少年少女よ。去らば、行くぞ。デール、スカサハ!」
「は、はい!さようなら、レオンさん」
「お、お達者で~」
俺と委員長はビビりながら、レオンさんに手を振った。
「‥‥‥‥?あれ?スカサハさん?どうしました?」
レオンさんの娘さん。スカサハさんが俺の顔をジーッと見つめてくる。
「‥‥‥‥ごめんなさい。『セルビア』で施してあげた『魔除けの加護』が歪んでしまっているようね。」
「『魔除けの加護』?」
「えぇ‥‥‥‥あぁ、でもあの黒騎士の子が『破邪の式』でサポートしてくれていたのね‥‥‥そう、『恋人』『死神』『悪魔』を葬ったのね。それでこんなに歪んでいるのね」
「あ、あのスカサハさん?」
「貴方は私の命の恩人です‥‥‥『運命力』を歪ませ足りするものですか‥‥‥‥神明魔法‥‥‥‥『シャドー・ケルト』‥‥‥‥『摩天・殲滅』」
シュン!
スカサハさんがそう唱えると俺の首元が一瞬だけ光った。
「うわぁ、何だ?付与術か?」
「‥‥‥‥これで歪みも消えたわ。それに‥‥‥コホン!あっちも立つ筈‥‥‥です。コホン!」
スカサハさんは赤面しながらゴニョゴニョ言っている。
「スカサハさん。大丈夫ですか?」
「え、えぇ、今回はお父様を助けて頂いてありがとうございます。それに以前は私の命も」
「スカサハさんの命?」
「‥‥‥‥私と黒騎士君の加護があればある程度の災難は切り抜けられるでしょう。それでも。もし何か起こった時には、海の神が納める地『ティアマト』地方に行くことをお勧めします」
「ティアマト地方ですか?それにさっきから何の話を」
「‥‥‥‥これ以上、語ると未来が歪みますね。それではお二人共、良い旅を!今回も本当にありがとうございました。では」
シュン!
「は?スカサハさんが‥‥‥‥消えた?」
「神成君。レオンさんも、いつの間にか居なくなっちゃったわ」
「まるで『心霊族』みたいな人達だったな‥‥‥‥まさかな‥‥気のせいだろう。うん」
俺は意識をボーッとさせながら、そんな事を考えていた。なんだか頭が上手く働かないのは気のせいなのだろうか?
『アヌビス』露店市場
「ふぅー、あの少年少女のお陰で旅路の希望がたったな」
「それは良かったのですが、お父様。彼が持っていた『黄金の宝物庫』と『ロンギヌス』の回収は宜しいのですか?」
「ん?あぁ、今回は良い。それに我々が真に欲する7の秘宝は『ユグドラの盾』だ。あの二つは本当の鍵ではないからな。我はユグドラシル様に謁見したいのだよ。スカサハ」
「成る程です。了解しました、お父様」
「あぁ、それにどうだ?あの少年はスカサハ?ん?」
「‥‥‥ど、どうだ?とは何でしょうか?お父様」
「スカサハも良い年頃だ!だから、婿をそろそろと‥‥‥‥見合いの話もきていてだな。我が可愛い娘。スカサハよ」
「そのお話しはまた今度、ゆっくりしましょう。お父様」
「そうか‥‥‥‥では、今日はあの少年に教えてもらったライン財団の所に行ってみよう。行くぞ!大臣、スカサハ」
「はっ!私は何を?!は、はい!霊王様」
「‥‥‥了解です。お父様」
『影の国』の訪問者。3人は『アヌビス』の街の中へと静かに消えて行ったのだった。




