ONとOFF
『ガザード砂漠』
避暑地デザーサンド・湖のビーチ
私と恵は夜のデザーサンドのビーチの畔の景色をじっと見つめていました。
「セツ君とグレイさんの試合を観ましたけど‥‥‥‥」
「人の領域を越えてるわよね。しかも、神成君はこっちの世界に来てからなんだかんだでイキイキしてるし」
「私達も魔法の修行次第ではあんな事ができるようになるのでしょうか?」
「そうね‥‥‥‥でも、私、魔法の修行をするのが少し怖いかも」
恵はそう言うと少し暗い表情になり。
「怖いですか?」
「うん‥‥‥‥アヤネは『ガルクド』の崩壊した映像は誰かに観せてもらった?」
「映像?いいえ。あの時はラファエル様との特訓でそれどころではありませんでしたから」
「私も眠らされていたし、それが神成君、なりの配慮だったのかもね‥‥‥‥私ね。アヤネ、神成君達が『悪魔の淑女』って人を倒した後の変わり果てた『ガルクド』の姿をミカエルさんに観せてもらったのよ」
「そうなんのですか?その映像には何が?」
「破壊され尽くした建物とそれに埋まってる盗賊らしき人達の死体‥‥‥‥あれを観た瞬間、あまりにも生々し過ぎて吐いちゃったの」
「吐いた‥‥‥ですか」
「うん。それに建物が崩壊したのは彼‥‥‥‥神成君がやったって聞いた時は凄い驚いちゃったわ、盗賊‥‥‥悪い人達とはいえ、彼は建物を破壊すると同時に人まで巻き込んで殺してしまったなんてってね」
「‥‥‥‥ですが、それは私達を守る為の行動だったのでは?あのまま、その『悪魔の淑女』たしかシルクロ旅団ですか?その組織が私達に危害を加えない為に」
「殺られる前に殺ったって事よね‥‥‥‥それはそうなんだけとね‥‥‥‥うん、分かってはいるんだけど。もし、このまま、私達が強くなって。神成君がやったことを私もやる時が来るかもしれないと思うと少し怖いのよね」
「それは!‥‥‥‥なんとなく分かりますわ。力を持つ人は変わって行くものですからね‥‥‥‥」
私がその様に恵に言うと。
「なら?地球に帰るかい?アヤネ、その方が君達の精神的疲労も無くなるぞ」
「へ?この声は?」
「せ、セツ君?!」
上半身裸で男性用の水着を着たセツ君が音も立てずにいきなり現れましたわ。
「な、何でいきなり。現れるのよ!驚くじゃない!ていうか?何時から居たのよ?!」
「悪いとは思うが『ガルクド』の話辺りからだな」
「つっ!‥‥‥‥そう」
恵がそう言って、気まずそうな表情を浮かべました。
「‥‥‥‥二人の会話を盗み聞きしたみたいになって悪かったな」
「いいえ、大丈夫ですわ」
「え、えぇ、私もよ!そ、そんな事より。神成君、何でアヤネに対していきなり『帰るかい?』なんて、発言したわけ?どうしたのよ?突然」
「言ったとおりだよ。『ガルクド』でもそうだったが。この先の旅でもああいった事は、必ずと言っていいほどにまた、起こり得るさ。それこそ、敵‥‥‥俺達に危害を加えようとする奴らを相手に、何も危害を加えないで!攻撃しないで!なんて無理な話だしな」
「‥‥‥‥それを見たくないのであればちに帰るかいって、事ですかセツ君」
「まぁ、そうだな‥‥‥‥俺はアリーナの世界。魔法世界に来たら、いつも『心のスイッチ』みたいなものを切り替えてる」
「『心のスイッチ』?何よ?その変な名前は」
恵が不思議そうな顔でセツ君に聞くと。
「『魔法世界を絶対に生き残ろうとする様な覚悟』みたいなものだな」
「生き残るですか?」
「あぁ、俺の前に立ち塞がる障害。敵や魔獣をとかかな?そいつらが、俺や仲間達に危害を加えようとするものなら、俺はどんな手を使ってでもそいつらを倒す!俺はそう決めてエウロペ大陸を旅してきたんだ」
「‥‥‥‥‥そう、だから『ガルクド』でも容赦なく、私達の障害になるであろう盗賊の人達と建物を攻撃したのね」
「そうだ。だから、そういう場面を見たくないのであれば‥‥‥‥『転移門・開錠』」
ガゴン‥‥‥‥‥
「これは?」
「あの時の?‥‥‥」
「あぁ、何時でも帰してあげるぞ。その代わり、今後は此方の世界に連れて行ってあげる事は難しくなるけどね」
「そ、そんな!」
「‥‥‥‥それぐらい此方の世界は厳しく、残酷で、理不尽て事なんでしょう?中途半端な優しさは命取りになるってことね?神成君」
「まぁ、そんな感じだな‥‥‥‥君達は優しい。だから、いざ、敵を目の前にした時、倒すことに躊躇ったら思わぬ反撃にあう。それだけは気をつけておいてくれてって話だな」
「‥‥‥‥はい」
「‥‥‥‥だから、『ガルクド』ではああしたのね‥‥‥まだ、納得は上手くできないけど‥‥‥分かったわ」
「よし!暗い話はもう終わりにして、俺はもう行くよ。せっかくのカップルの時間を奪う訳にもいかないからな!いやー、ごめん、ごめん、邪魔者は直ぐに退散ッと‥‥‥」
‥‥‥‥は?今、なんと仰いました?この朴念仁。
「‥‥‥‥は?今、なんと仰いました?この朴念仁は?」
はっ!あまりにも衝撃的過ぎて、心の声が漏れてしまいましたわ。
「誰が?誰のカップルですって?神成君」
恵も額に青筋を立て始めました。
「ん?いや、アヤネと委員長が付き合い始めたんだろう?いやー、おめでとう。最近は色々な多様性だからな!うん‥‥‥‥美少女同士お似合いだよ。俺も今後はアルディスと仲良く‥‥‥‥」
「お似‥‥‥?」
「合い‥‥‥?」
私、ぶちギレそうになってきましたわ。
「フンッ!」
バコンッ!
「ぐがぁ?!い、いきなり何するんだ?委員長」
「ヤァー!」
バシンッ!
「グゲェ!ア、アヤネまで何しやがる?!」
「「誰がお似合いのカップルですって?私達付き合ってなんて無いですわ!」わよ!」
「‥‥‥‥二人が付き合ってないだと?」
「そうです!」
「そうよ!」
「いや、数日前に好きだの、愛してるだの、お互いに言い合ってたじゃないか?」
「あ、あれは!」
「ただの練習よ!お馬鹿!!」
「練習?なんの?」
「つっ!!この!本当にお馬鹿さんですね!何ですか?その中性的な女の子みたいなイケメン顔は?それにその上半身の綺麗な筋肉、さっきから誘ってるんですか?このドストライクは?」
「あー、真面目に話してたのがもう台無しだわ‥‥‥‥あー、ムカつくわ!何よ?その変な勘違いは‥‥‥ねえ?何なの?天然なの?ねえ?お馬鹿!!」
恵はそう言うとセツ君のズボン型の水着を力強く掴みました。
「お、おい!止めろ!俺の水着を掴むな!破れるだろう?!つうか、なんつう力で引っ張ってるんだよ!」
激しく抵抗するセツ君。
「五月蝿い。お馬鹿さん!‥‥‥‥本当に綺麗な顔してるわね。オマケに色々凄いわ」
ビリッ!ビリッ!ビリッ!
「つっ!お、おい!本当に切れる!誰も来ないからって好き放題に‥‥‥‥」
ズバアン!!
「‥‥‥‥」
「「‥‥‥‥」」
一瞬の間が静寂を包み。私と恵はセツ君の身体全体を眺めていました。
「‥‥‥‥凄いですね」ガシッ!
「‥‥‥‥凄いわね」ガシッ!
「な、何だ?君達のこの力は?お、おい!止めろ!押し倒すな?!つうか、力強すぎだろ!間違えた事は謝るから!‥‥‥‥何してんだ?!お、おい!止めろ!お前ら!!!うわあああ!!!」
私達は万力の力をもって、セツ君を拘束しました。
数刻後。
「つまり、ミカエルさんにさやラファエルさんの加護も使えば、私達も神成君達みたいに多少は闘えるって事?あっ!ちゃんと手は動かしなさい!」
「くっ!‥‥‥‥そうだよ!さっきの試合をさの時は浮かない顔を二人でしてたから気になったてたんだ。うっ!‥‥‥」
「フフフ、はーい!セツ君。可愛いですね~、ヨシヨシ、反応が赤ちゃんみたいですわ~、フフフ」
「ぐぅ!や、止めろアヤネ‥‥‥‥そ、それに君達は俺の魔力や天使達の能力も多少は行使できる様にしてあるんだ‥‥‥‥うぐぅ‥‥‥はぁ、はぁ、相談してくれれば君達。専用の魔道具だって用意するよ‥‥‥あっ!」
「‥‥‥相変わらず。口では厳しい事を言うくせに配慮はガチガチにするんだから。あっちもだけど‥‥‥‥本当に女の子みたいな顔よね?可愛いわよ、神成君‥‥‥」
「お、おい!本当に勘違いした事は謝る!だから‥‥‥」
「だから?」
「何ですか?セツ君」
「う、うわあああ!!!!!」
その後は、私と恵それと、セツ君の3人で魔法の修行についての話し合いと、セツ君の勘違いの御祓を平行して行い、デザーサンドでの夜を楽しんだのでした。




