不気味猫
『魔法中央国・不思議の森』
シュン!シュン!シュン!
「‥‥‥フゥー、無事に逃げられたな」
「キャア!!また転移ですか?最近、本当に多いですわ」
「ここは‥‥‥さっきの変な森の中なの?」
「あぁ、ここには強力な『龍脈』があるから、ヘファイストス地方とアテナ地方に転移する為の中間地点にしたんだ。多少のリスクはあるけどここの龍脈の魔力も使って無理やり魔術院まで転移したのさ」
「何その?力業‥‥‥それに多少のリスクってなんなの?」
「いや、それはこの森には色々な」
委員長に不思議の森について説明ようとした瞬間。
「オホホホ、イヒヒヒ、お久しぶり、お久しぶりねぇ~!魔法少年。オホホホ、イヒヒヒ、ようこそ、ようこそだよ~」
「ヤバいな‥‥‥‥見つかったか」
「見つかった?何が?それに何なのあの木の上の枝に寝っ転がってる猫は」
委員長はそう言って、木の上の猫を指差した。その猫の外見はピンク色と茶色の縞模様で、大人の人間位の大きさをしている。三日月型の気持ち悪い笑みを浮かべ、優雅に俺達を見下ろしていた。
「オホホホ、魔法少年。お久しぶりねぇ~、まさか、まさか、また来てくれるなんて思わなかったね~!イヒヒヒ、さぁ、さぁ、不思議の森へ、不思議の国へいざご案内だね~!イヒヒヒ」
不気味猫は愉快そうに俺達を微笑む。
「‥‥‥‥悪いがそんな暇は無いんでな。俺達は忙しいんだよ!不気味猫!お前達の相手をしてる暇は無いんだよ」
「オホホホ、それは、それは悲しいことを言わないでおくれよ。魔法少年。僕達と君の中だろう?オホホホ、今回はあの子は居ないのかい?君はここに来る度に違う女の子を連れてくるんだね。イヒヒヒ、イヒヒヒ」
「‥‥‥‥おい!そんな見え透いた嘘をつく‥‥‥」
「そのお話!どういことですか?セツ君!」
「一発殴らせなさい!神成君。何かムカついてきたわ」
「くそっ!こんな時に怒らないでくれ、二人共!後でちゃんと説明してやる、とりあえず、ここから早く脱出するぞ」
「キャア!」「ちょっと!また、変なところを触って!」
俺はアヤネと委員長を両手に抱える。
「オホホホ、イヒヒヒ、何だか、何だか楽しそうだね~!魔法少年、ではでは逃がさない為の『ラビット』のご登場!イヒヒヒ‥‥‥‥『女王』に会うまで死なないでね~!オホホホ、イヒヒヒ!」
不気味猫は愉快そうに笑い始める。
チクタク、チクタク、チクタク、
何処からともなく時計の針が進む音が聴こえてくる。何処からリズムカルである。
「あー、忙しい、本当に忙しい!!急がねば、急がねば!!『女王』様にお仕置きされる」
「オホホホ、イヒヒヒ!来たわ、来たわ!ラビットのキャスト。ついでに逃げられないように‥‥‥‥パチンッ!」
不気味猫はそう言って自身の尻尾で音を鳴らす。
「イヒヒヒ!来るよ、来るよ!続いてトランプの兵隊達。さぁ、さあ、さあ、『不思議の国』への旅へといざなおうね!オホホホ、イヒヒヒ、フヒヒヒ、楽しい、楽しい、悪夢の旅が始まるよ!少年少女達~、オホホホ」
「エッホ!エッホ!エッホ!侵入者を捕まえろ!俺はダイヤ!」
「『女王』様の為に捕まえろ!エッホ!エッホ!エッホ!私はスペード」
「楽しい!楽しい!狩りの時間!ならば我はクローバーだッ!」
「迷い込んだら出れないぞ!そして、最後はハートだよ!」
現れたのはトランプの形をした異形の兵隊。そして、その上には不気味猫がひたすらに三日月型の笑みを浮かべる。
‥‥‥‥猫の最後の笑みはどす黒笑みで満ちていた。
まるでおとぎ話の悪役の様な表情だ。
「‥‥‥‥悪いが今回はそうはならないよ。チャーシャ猫。」
「フヒヒヒ、オホホホ、イヒヒヒ、だから、逃げられないのね。魔法少年。以前はあの子と共に逃がしたけどねぇ~、逃げられない、逃がさないよ、『女王』様の許可なく。あんな危険な家まで造ってさぁ!‥‥‥‥あー、あー、僕の管理する森で何をしてくれたんだろうね~?オホホホ!」
「だから、ならないって言ってんだろう!魔眼・解『千里眼』」
「オホホホ‥‥‥‥?魔法少年?なんだい?そのおかしい、おかしな色のお目めは?以前、迷って入って来た時には無かったよね~?イヒヒヒ」
「詐欺師の猫に答える義務はないな。じゃあな、不気味猫よ。達者でな」
シュン!シュン!シュン!
「オホホホ、誰が逃がすと思って‥‥‥‥イヒヒヒ、姿が無くなってるね~、フヒヒヒ‥‥‥‥成る程、成る程ねぇ?あの魔法少年も色々変わってるんだね~、これは『女王』に報告するべきかな?しないべきかな?オホホホ」
チクタク、チクタク、チクタク、
「なんだい?お客様は帰られたのかい?チャーシャ猫」
「オホホホ、これは、これは!ラビット君。あぁ、逃げれた!逃げれたよ!イヒヒヒ、あれは?何なんだろうね?目が赤く光ってたね?オホホホ、今度もし彼が来たときには、ほじくり返して観察しないとねぇ~!オホホホ、イヒヒヒ、今度会う時が楽しみだね~!魔法少年!!オホホホ、イヒヒヒ、イヒヒヒ!!!!」
不思議の森の奥底で不気味猫の不気味な笑いが響き渡る。
国は中央魔法国
森は不思議の森
そして、森の奥底を潜ったその先の国の名は『不思議の国』
そこは一度足を踏み入れれば『女王』の許可なしには立ち去れない。摩訶不思議な国。
一瞬の滞在は見つかぬ。
二度目の滞在は見つかり連れて行かれる。
そして、三度目の滞在は‥‥‥‥処刑されるだろう。
世にも恐ろしい場所。それが不思議の女王が管理する人外魔境。『不思議の国』である。
ヘファイストス地方・『ガルクドウルク』神成の部屋
シュン!シュン!シュン!
「フゥー、何とか逃げられたな!‥‥‥まさかあの家の前で待ち伏せてるとはな」
「ウヘヘ、セツ君。イヤらしいです~」
「ちょっと!いつまで、変な所触ってるつもり。神成!!」
何だか、最近は委員長の俺に対する当たりが強い気がしたが‥‥‥‥そういえば、最近は忙しくて委員長とゆっくり会話もしてないな。
「‥‥‥‥最近、委員長と話して無かったな」
「だから、何?それよりも早くお尻を離しなさい」
「そうだな、話さない、会話をしないのはまずいよな」
「いや、だから、その話さないじゃないわよ!恥ずかしいから手を離してってことよ」
「成る程、防具を外してと」
「恥ずかしいよ、誰が外してなんて言って‥‥‥‥って何、防具を脱がそうとしてるのよ!神成」
「いや、防具を外そうとだな‥‥‥‥うわぁ、暴れるなよ!せっかく全身マッサージしてやろうと思ったのに」
「何がマッサージよ!それに今さら、最近はアヤネとばっかりと一緒にいて、私は放置してたくせに」
「あぁ、その埋め合わせを今からしてやる。アヤネは‥‥‥‥とりあえず、ソファーで寝ていろ」
「ハァー、あい‥‥‥‥何だか眠気が‥‥‥コテンッ!」
「あっ!ちょっと!アヤネ!!助けなさ‥‥‥」
「まぁ、まぁ、無事に『不思議の森』から帰還できたということで‥‥‥‥全身ほぐしてやる。委員長、えいっ!」
「か、神成!貴方、あの森の変な猫に何かやられたんじゃないの?って?!ニャアアアア!!!」
魔術院からの帰還後、直ぐに『ライトニング商会』の建物から少女の叫び声が聞こえてきたと従業員達は述べた。




