その冒険家の名はラインバッハ
『モニュメント荒野』夜・ナミブ地帯
「いやー!旨い!まさかこんな荒野のど真ん中でこんな温かい食事が味わえるとは!信じられないな。そこの命の恩人兼料理人の方よ。ありがとうだ!ハハハ!」
目の前で豪快に笑っている十代後半に見える大人びた女性だ。頭にテンガロンハットを被り、肉付きが良く、スタイルもバックンときている。
俺が幼少の時に父が見せてくれた。不屈の名作であるローマの休日に出てくるヒロイン。オードリーヘップバーンがテンガロンハットを被り、豪快に笑っている姿を想像してもらえると分かりやすいだろう。
「それは良かったですけど‥‥‥‥あの?‥‥‥失礼ですがもう一度お名前をお伺いしても良いですか?エゴルさん」
「ラインでいいよ!ナルカミ氏。ラインで、ハハハ!俺のフルネームはラインバッハ・エゴル。世界をまたにかける冒険家さ!ハハハ!」
‥‥‥‥俺はその名前を聞いて、左手に持つエウロペ大陸。観光ガイドを見開いている。ラインバッハ・エゴル‥‥‥‥その名は俺がアリーナの世界に来た時から度々、耳にする著名な冒険家だ。
彼‥‥‥‥いや、目の前のラインバッハ・エゴルを名乗る人物は女性か。
彼女は数々の偉業がある。
一つ。未開の地である。『死の大地』の生還航路を見つけ出した。
一つ。エルフと妖精の国である。『セルビア』の地下深くにもう一つの国。『妖精国』を汲まなく探索し、未開の4つの世界を発見した。
一つ。アリーナの最後の未開の大陸。『天空大陸』を自身の肉眼で確認した等。嘘か真かは別として数々の逸話に事欠かせないのが、目の前で食事を美味しそうに頬張る。ラインバッハ・エゴルその人なのである。
「あの‥‥‥一つ質問があるんですが?良いですか?ラインさん」
「ん?なんだ?著名なナルカミ氏。まさか、こんな所で有名人に会えるとは思いもしなかったよ。ハハハ」
「いや、それは此方の台詞なんですがね‥‥‥‥このエウロペ大陸の観光ガイドのラインさんの絵がどう見てもおっさんにしか見えないのは何故ですか?つうか、貴女は本当にラインバッハ・エゴル本人何ですかね?」
「おーっ!懐かしいな!10年前位に書いた。観光ガイド本じゃないか。良く手に入ったな。それは結構人気でね、普通じゃあもう手に入らないんだよ。凄い。凄い」
「これはガルドという人から頂いたんですよ。それよりも俺の質問に‥‥‥‥」
「何?ガルドだって?彼はまだ生きているのか?」
「え?!ええ、数ヶ月前にお会いしましたよ。娘のアホ猫にアイアンクローをいつもやっていましたね」
「そうか、元気にしているのか!あの、アホ猫は‥‥‥それの観光ガイドは昔、『始まりの大森林』に滞在した時にガルドにあげた物なんだよ。家賃代わりにってね」
「‥‥‥‥あの?ガルドさんとはどういう繋がりで?」
「ん?俺とガルドの繋がり?‥‥‥気になるか?」
「えぇ、どちらも著名な方なので」
「俺はガルドと同じ七大賢者の1人なんだよ!どうだ?凄いだろう!ハハハ」
「は?!お主が?」
「はい?」
「‥‥‥ラインバッハ・エゴルが?七大賢者の1人?」
ガチャガチャ「私をこの檻から出して下さいまし~!シクシク」
俺達3人は驚き。結界魔法で造った檻の中に入るアヤネはシクシク泣いている。
「おお!良いリアクションだ!ハハハ。この話をすると皆、驚くから。楽しいな!ハハハ」
「驚いた。ラインバッハ・エゴルが七大賢者とは‥‥‥」
「『始まりの大森林』の新緑のガルド、魔王領の前魔王・カシア、『影の国』の霊王と同じ存在が今、目の前に入るとは驚きを隠せんよ。拙者」
「夜叉もですよ、グレイ殿。そもそも、冒険家としての名でもエウロペ大陸‥‥‥いえ、それ所が他、大陸にもう名を馳せる。ラインバッハ殿が七大賢者とは驚いて当然です」
「‥‥‥いや、まぁ、驚くんだが。だから、何でこの絵だとおっさんなんだよ!ラインさん」
「ん?そんなの簡単だろう?普段は認識阻害の魔法と変装魔道具で身バレを防いでいるからだよ。君もいつもやってるんだろう?ナルカミ氏。魔高炉の登場から始まり。賢者の石の雫の生成、魔道具の世界の形成理論と簡易移動転移の発表と色々と凄い事をしてたみたいじゃないか?ナルカミ氏」
「‥‥‥‥何でそんな、昔の事を知ってやがる。ラインバッハ・エゴル」
「俺は魔法族の出でね。ほら、魔法族特有の赤い目がその証拠だ。『魔術院』や『北東魔法学院』にも知り合いが沢山入るんだよ。ナルカミ氏」
「それであんたは何の目的でこんな何もない辺境の地でぶっ倒れてたんだ?ラインバッハ」
俺はドスの効いた声で。目の前の得たいの知れなくなった女性に聞いた。
「何もない無くはないだろう。ナルカミ氏よ、君達がここに入る時点で何も無くは無くなったんだよ。ナルカミ氏」
「は?何で俺達が?」
「龍族の巫女姫‥‥‥‥剣聖グレイ・オルタナティブ‥‥‥‥それに魔道具のナルカミ氏が揃って入る時点で何かしら起ころうとしているんだろう?」
「‥‥‥‥いや‥‥‥それは‥‥‥」
「なーんてな!いやー!済まない。済まない。ハハハ!冗談だ!冗談!」
「は?冗談!」
「俺の目的はヘファイストス地方の再探索さ」
「再探索ですと?」
ラインバッハはそう言うと自身の荷物入れから紙などを取り出し始めた。
「‥‥‥いいかい?今、うちらが入るのは『モニュメント荒野』だ。それは分かっているな。3人と‥‥‥あの子は良いのか?」
「シクシク、反省しましたわ。だから、出して下さいまし~!セツ君」
「あれはただの変態痴女だから今はいい」
「‥‥‥‥そうか、ならいいか。」
「よくありませんわ!」
「「「‥‥‥‥‥話を先へ」」」
「あぁ、この『モニュメント荒野』は昔は色々な部族達で統治されていたんだかな‥‥‥‥近年は『悪魔の淑女』という者が現れ。部族達は支配化に置かれしまって入ると聞く」
「‥‥‥‥『悪魔の淑女』ですか?」
「そうだ。そして、『モニュメント荒野』を抜けた後は」モハーヴェ砂漠やグレートビクトリア砂漠等が各地帯として点在しているが‥‥‥その点在する砂漠の一つ。モハーヴェ砂漠を統治する国。『ファラオーラ』に対して宣戦布告をしたのがさっき話した『悪魔の淑女』なんだ」
「砂漠の国に宣戦布告ねぇ。なんとも信じがたい話だがな」
「だが、事実だ。俺はそんな、ヘファイストス地方の現状を取材する為に久しぶりにこの地へと来たんだが‥‥‥‥」
「食料も水も失って死にそうになっていたという事か?ラインバッハ殿」
「‥‥‥あぁ、そうだとも。魔法族は長命でね。そこら辺の事はあまり気にしていなかったがな。不老不死では無いからね。死にそうだったよ。剣聖グレイ殿‥‥‥それでだ。ナルカミ氏よ」
「なんだよ。ラインバッハ‥‥‥飯も与えたし。食料も分け与えた。用が済んだんなら、早くここから立ち去‥‥‥」
「それで良いのか?アリス姫に、聖女エリスに、刀匠カンナに、スカサハ姫もか?この手紙を送りつけるが?」
ラインバッハはそう言うと高級そうな赤色の紙を数十枚取り出した。
「‥‥‥‥‥なんだ?その赤い手紙みたいなのは?」
「君と懇意にしている著名な女性達に送る物だよ。君の女の子を連れている現状と居場所を事細かに記した手紙だ」
「何ですか?それは!セツ君。説明を求めます!!」
「静にしていろ!アヤネ。今夜は添い寝してやるから」
「はい!静かにしています」
「‥‥‥‥あの子もなのかい?ナルカミ氏。君はいったい何人とフラグという奴を建てていくんだい?」
「アイツは特別だ‥‥‥‥あんまり詮索するなよ?ラインバッハ‥‥‥‥別に送っても良いがな。その瞬間、お前がどうなるかは‥‥‥‥分かるな?」
ビリビリビリビリ
俺の周辺に電撃が迸る。
「ハイハイ。これも冗談だ‥‥‥手紙は良いとしても。あの子‥‥‥アヤネさんか?それを詮索したら。俺は消されるのか‥‥‥了解。了解だよ。ナルカミ氏よ」
「‥‥‥‥あぁ、分かればいい。ラインバッハ」
「ならば、手紙は送らないから。旅には同席させてくれ。あの何だい?鉄の塊は?あれで移動してきたのか?それにこの食事もこの世界の物とはとても思えないんだが?」
ラインバッハはそう言うと俺達が乗ってきた車に近づき色々と触り始めたのだった。
「‥‥‥‥何か変な偉人が旅の仲間に加わったな」
「‥‥‥‥異人の間違いでは?」
「そうとも言うな。夜叉」
俺と夜叉とグレイはそんな、話をしながらラインバッハ・エゴルを見つめていた。




