才能とゼロ
魔森林『エンダ』
「しっ、しかし、タマキよ!」
「何ですか?エスフィール嬢」
「死霊とはいえ、よくもまぁ、これ程、ガッチガッチに束縛魔法と制御魔道具を使ったものだな」
「はい。凄く大変だったんですよ。この二人の霊魂を現世に定着させつつ、精神を正常化したんです。どれ程のレア魔道具を消耗したことか、これからはうちの玩具‥‥‥‥仲間として頑張って働いてもらいます」
「‥‥‥‥おぉ!そうなのか‥‥‥今後は大変そうじゃな。この二人は」
エスフィールは哀れみの目でウラさんとオン君を見上げている。
「んでよおお!!何でもてめえらは、昨日、俺達を襲ってきたんだ?!敗者共!」
「あぁ、我々の主人である」
「死神様にご命令頂いたのだ」
「死神様だあ?!なんだそいつは?!」
ヒスイが二人に問い詰める。
「それは‥‥‥‥ぐっ‥‥‥」
「お教えできぬ。」
「‥‥‥私との闘いの時、ウラミ殿は死神‥‥‥ゼロ様とか言っておったのう?」
「ゼロ様?」
「ゼロ様だあ?!‥‥‥ゼロ?‥‥‥おい!魔王様よう。ゼロって言えばよう!」
「あぁ、私もお主と同じ人物が頭を過った。ゼロ‥‥‥ここにきてその名前が出てくるとはのう」
「あぁ、厄介な話になってきやがった」
「何にゃあ?いったいにゃあ?メイエスと黒騎士は何で暗い顔をしてるのにゃあ?セツニャ」
「いや、俺に聞かれてもなぁ。俺は魔王領の地理はだいたい把握しているが。歴史までは詳しくないからな」
「わっちもにゃあ~」
「それは、昔から知ってるよ。‥‥‥‥そうだ!この旅ももう少しで終わりだろう?」
「‥‥‥‥‥そうだにゃあ」
セシリアは何処か寂しそうな顔で俺の質問に答えた。
「‥‥それでだ!魔王城の事が片付いて。『始まりの大森林』にいる、ラニーに会いに行く用事も済んだ後は、君は何をするのか決めているのか?例えばやりたい事が何かあるとか?」
「何も決めてないにゃあ‥‥‥‥」
セシリアは気まずそうに目をキョロキョロさせている。
「そうか‥‥‥なら、魔法を学ぼうと思っているならアテナ地方の『魔術院』に行くのを進めるよ」
「魔術院にゃあ?」
「あぁ、それから、武術を極めたいなら。ヘファイストス地方にある『オアシス』へ行ってみるといい」
「今度は『オアシス』にゃあ?」
「『オアシス』はエウロペ大陸で最も権威のある武術の流派がある。特に君が使う拳に関しては武術の歴史では一番古いんだ」
ピコン!ピコン!セシリアは自身の獣耳を激しく動かし始めた。
「‥‥‥‥魔術院にオアシス‥‥‥‥にゃあ‥‥‥」
「あぁ、‥‥‥ちょっと待ってろ。‥‥‥我に眷属に安念の道を願うものなり。過去、我が道と重なり合った者達と我が眷属の道を結ぶ事を我は願う」
俺は『眷属の縁手紙』を詠唱で造り出した。
「ほい!セシリア。これを君に渡しとくよ」
「んにゃ?何にゃこの紙?手紙かにゃあ?」
「『眷属の縁手紙』だ。それがあれば、その土地に行った時に昔、俺と縁が合った人の元へたどり着ける。魔手紙だ」
「にゃんと!そんにゃ、便利な物があるのかにゃあ?」
「アテナ地方の魔術院へ行くのなら。マーリン理事長の元へ。ヘファイストス地方なら。拳神『オルタリア』の元へたどり着けるようにしといた。君がどっちの地方に向かうのかは君、次第だが。この後の君の旅で上手く使ってくれ」
俺が眷属の縁手紙について説明し終えるとセシリアは手紙をジーッと見つめていた。
「サンキューにゃあ。セツニャ。昨日もあのオンネンとかいう。奴に指導をつけてやるとか言われてたのにゃあ」
「指導してやる?」
「うにゃあ~!にゃんか、わっちには武の才があるとか言われて。いきなり、わっちに指導し始めたのにゃあ」
「あいつが?セシリアに武の才があると?‥‥‥‥なら、魔術院で魔法の基礎を学んだら。オアシスのオルタリアの所で修行をつけてもらえば良さそうだな。紹介状もその中に入ってるから。オルタリアに会ったらついでに渡しておいてくれ」
「了解にゃあ~」
「それと『契約の輪』は俺があっちに帰る時に回収する予定なんだが、それと同時にセシリアの契約者の契約も自動的に解除になるがそれでいいか?」
「それでにゃにか変わるのかにゃあ?」
「そうだな。デメリットで雷撃の拷問を受けなくなる」
「マジかにゃあ!!!それにゃら‥‥‥‥今すぐにでも‥‥‥」
「後は、俺からの魔力供給がなくなり。今みたいな、魔力強化の恩恵は受けなくなるだろう。それから、転移召喚はできなくなり。状態異常無効も無くなる。後は、契約者特有の緻密転移の効果も無くなるな。後は‥‥‥‥」
俺は『契約の輪』のメリットに対する話を5分位に渡り。セシリアに説明した。
「以上が『契約の輪』の解除後のメリットだ。セシリア」
「‥魔力供給機能停止にゃあ‥‥‥転移魔法恩恵は無くなるにゃあ‥‥‥状態異常無効が無くなるにゃあ‥‥‥‥契約者に付与する魔力障壁も無くなるのにゃあ?!‥‥‥‥何にゃあ?!それ、セツニャとの『契約の輪』の契約を切った時のマイナスの方が、なんでそんなにデカイのにゃあ?」
「まぁ、俺、魔力総量だけは並みの魔法使いよりも。メチャクチャ多いからな。なんなら、今ここでセシリアとの契約を切っても‥‥‥」
俺はそう言ってセシリアの『契約の輪』を外してやろうとした瞬間。
「切らなくていいにゃあ!このまま、セツニャの眷属のまま。契約者のままで良いのにゃあ。わっちの首輪に触んないでくれにゃあ!セツニャ!フシャアーーー!」
激しく抵抗されてしまった。
「?‥‥‥そうか、君が良いなら。そのままにしておくよ。セシリア」
「や、やったにゃあー!これでセツニャの恩恵が消えることは無くなったのにゃあ」
何故かガッツポーズをして喜ぶ。セシリアだった。
エスフィールとヒスイ側
「魔王様よう!どうするよ!ゼロ‥‥‥‥多分、初代様だろう?」
暗い顔をするヒスイ
「ん?あぁ‥‥‥‥初代か‥‥‥初代魔王様『ゼロ・ブレインズ』様か‥‥‥」
「これが事実だったら。やべーだろう!ゼロ・ブレインズと言えば。あのセルビアの建国者。『オーディン・セルビア』や龍王『アルティマ』と肩を並べた、大英勇だぞ!おい!」
「そのくらい分かっておるわ!夜霧よ!‥‥‥今、対策を考え始めているところだ」
「対策も何もねえだろうよ!今の俺達の強さじゃあ、逆立ちしても倒せねえレベルだろうが!セルビアの時だって!カミナリがオーディンと黙示録の獣を呼び出さなかったら勝てる戦いじゃあなかったしよう!」
「つっ!それも分かっておるわ。」
「分かってたって!今の腑抜けた魔王軍じゃあ。ゼロ・ブレインズには絶対に勝てねえ。全滅だ!」
「あぁ、そうだろうな。それも分かっておる」
「おい!だからよう!さっきから分かっておる!分かっておる!だけじゃあよう!」
セシリアと長話をしている間にエスフィールとヒスイは口喧嘩を始めてしまったようだ。
「おーい!尋問は終わったのか?」
「終わったのかにゃーん!」
「‥‥‥‥いや」「終わってねえよ!」
「なんか」
「雰囲気悪いにゃあ~」
「当たり前だろうが!今回の黒幕。死神の正体が魔王領の初代魔王なんだからな!」
「初代魔王?」
「あぁ、今の俺達じゃあ、どうやったって勝てやしねえ!」
「‥‥‥あぁ、ヒスイの言う通りじゃ‥‥‥正直、今回の相手は悪すぎる」
「にゃんか、お通夜ムードだにゃあ」
「あぁ」
初代魔王か。『ゼロ・ブレインズ』神魔竜戦争の時、最も魔神と魔竜を屠り。武功を上げた魔族。死神=ゼロか。




