ずっと、一緒。
本作を目に止めて頂きありがとうございます。柊漓虎と言います。本格的に公式企画に参加するのは本作が初めてです。ホラー小説は私自身、とても好きなジャンルなので書きたいと思い参加しました。未熟なので文章が拙い部分があると思いますが、温かい目で見てくださると嬉しいです。
是非、最後までお楽しみください。
塾の帰り、私、工藤奈乃葉は暗い道の中を一人で歩いていた。最初の頃、遅く帰ることを親に心配されていたが、家が近いから大丈夫だと言って一人で帰ることを許してもらった。だってもう高校二年生だし。でも、最近帰り道に嫌なことが一つだけある。それは…。
「瑞稀…」
私の視線の先には一本の電柱が立っている。電柱の下に目線をやると、大量の花やお菓子が並んでいる。つい三ヶ月前、私の親友_蛍原瑞稀は亡くなった。死因は事故死。飲酒運転の自動車が私達の方向に突っ込んできた。私はギリギリ避けれたが、瑞稀だけ轢かれ、即死。しかも最悪なことに私の目の前で亡くなったのだ。彼女とは塾が一緒で、たまたま帰る時間が同じだったため一緒に帰った。そのときに事故は起こったのだ。
無惨な親友の死体を眼前に晒されて、私は何も出来なかった。スマホを持って救急車やパトカーを呼ぼうとしたが、手が震えて出来なかった。幸い、交通量が多い通りだったため、異変に気づいた別の運転手がすぐに助けてくれた。担架に乗せられ運ばれていく親友を見て私はただ地面に座っていることしか出来なかった。自分の服や顔にべったりついた瑞稀の血液を纏って。
そこからだ。私の帰り道に異変が起き始めたのは。
電柱の前を通りかかろうとした時、後ろから「奈乃葉…」と掠れた声が聞こえる。振り返っても誰もいない。誰かの悪戯だろうか。そう思い歩き出そうとするとまた「奈乃葉…」さっきよりはっきり聞こえる。私は、声の正体は幽霊になった瑞稀なんだと考えるようになった。そんなことが三ヶ月間ずーっと続いている。
正直に言うと、そろそろ面倒くさくなってきた。最初の二ヶ月くらいは瑞稀にだって未練はあっただろうし、と同情してちょっとだけ帰りに電柱のそばにいてあげた。時々、お菓子なんかを持っていって電柱の下に置いておく。顔も見えないし、私の名前を呼ぶ時以外声を発しないから本当にここに奈乃葉がいるのかはわからなけど、ただ見ていることしか出来なかった当時の私の罪を償うのにも丁度良かった。
しかし、三ヶ月経った今でも塾の帰りに毎回のように呼び止められる。早く帰って見たいテレビがある日も、塾の問題がイマイチ解けなくてイライラしている時もお構いなしに瑞稀は私を呼び止める。でも、無視しちゃ可哀想だし…と思っていたので傍にいてあげてたけどそろそろ限界だ。私にだって私の時間があるし人権だってある。幽霊に自由を奪われてたまるか。
「奈乃葉…」
今日もまた聞こえる。でも私はそれを無視して歩く。「奈乃葉…」ずっと私の名前を呼ぶけどそれも無視。
「何で無視するの…?」
いつもと違う言葉を投げかけられた。今は車通りが少なかったため少し大きい声で叫んだ。
「毎回毎回しつこいの!!夜遅い時間に電柱の前にずっといなきゃいけない私の身にもなってよ!それで誰かに刺されて死んじゃったらどうするの!?」
声を荒らげて言い終えると、痛いくらいの静寂が辺りを包む。瑞稀も何も言ってこないので踵を返してこの場を去ろうとした、その時だった。
ぐいっと何者かに腕を引っ張られたのだ。そして強制的に電柱の方へと体を向けられる。そこにいたのは、紛れもない、瑞稀だった。でも、生きていた頃の姿とはかけ離れた姿。頭は一部だけ無いし全身ボロボロだし、何より血塗れ。腕を引っ張ったのは瑞稀だった。恐怖で固まっていると「何で?」と彼女は再び私に問いかけた。
「だから、何度も言うけど、私もう疲れたの。ていうか、逆に毎日見えもしない瑞稀の傍にいた私に感謝してよ!お菓子だって持ってきてあげてたし、月に一回は墓参りだって今もしてるじゃん。なのに何で…どうしてそこまで私に執着するの!?」
目の前の瑞稀はピクリとも動かない。血を滴らせているだけ。やがてその唇がゆっくり開いた。
「…私、奈乃葉が毎日ここに来てくれて嬉しかった。でも、こんな姿だからもし現れても奈乃葉を驚かせちゃうだけだって思って…。でも、そうなんだ、そんなふうに思ってたんだ、そっか」
感情の無い声で淡々と話す瑞稀を私は素直に怖いと思った。そして彼女は私に近づいてきた。私は後ずさることしか出来なかった。とうとう逃げ場がなくなった私の顔を覗き込むようにして瑞稀は言った。
「ずっと一緒って約束、あれ嘘だったんだ」
前髪から覗いた目に私は悲鳴をあげそうになった。両目から血が流れていて、目の奥はブラックホールのように暗く黒い。目の奥は永遠の闇。
私は思い出した。瑞稀の約束を。中学校から一緒だった私達は中学三年生の頃、約束した。
『私達は何があってもずーっと一緒だよ!』
そう言って小指を絡めあったあの時。瑞稀の顔はとても幸せそうだった。目を細めて可愛らしい笑い声で笑った。私も幸せだった。でも、もうあの時の瑞稀はもういない。ここにいるのは生前の瑞稀とはかけ離れた、ナニカ。
「ねぇ、あれ嘘だったの?ねぇ、ねぇ、ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ……」
延々と「ねぇ」と繰り返す彼女が気持ち悪くて思わず「気持ち悪いっ!」と言って目の前の瑞稀を叩くように手が空を切った。…いや、実際に叩いたのだ。瑞稀を。ぐちゃっ、と肉が潰れるような音と、自分の手に付着した、暗くてよく見えないがヌルヌルした血液。
私は家に逃げようと走り出そうとしたが、いつ動いたのか目の前に瑞稀がいて走れなかった。家のある方向に瑞稀がいては帰れない。どうしようとパニックになっている私とは対象に冷静な声で彼女は呟いた。
「…信じてたのに。奈乃葉なんて、大っ嫌い」
その言葉は私の胸に深く刺さった。無感情な「大っ嫌い」。もう私には興味が無いってくらい感情の籠ってない声で言った。
足がすくんで動けない私のもとにだんだん瑞稀が近づいてくる。足元に真っ赤な血を滴らせて。
「いやだ、来ないで、来ないで……!」
私の願いが叶うはずもなく瑞稀との距離は0に。血の流れた目を私に焼き付けるように見せながら一言。
「死ね」
刹那、私の体は道路に倒れた。彼女が押したのだ。立ち上がろうとした時、耳を劈くようなクラクションが鳴_。
最後に見た瑞稀の顔は_笑っていた。残酷なまでに。
「ずっと、一緒」
『ずっと、一緒。』いかがだったでしょうか。若干グロテスクな部分もありましたが、楽しんで頂けたでしょうか。最後まで読んで頂きありがとうございます。本作に時間を割いてくださったこと、感謝いたします。ホラーが好きなこともあり、楽しく書くことが出来ました。次にこのような企画があったら是非参加したいです。もしまた私の名前を見かけたら、その時もまた読んでもらえたら嬉しいです。
閲覧ありがとうございました!