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不変の駄咲  作者: なんちゃら竜
1章 不死身の男編
3/43

2話 完全に理解した


「ウヒッ、ウヒヒッ」


 帰る前に本屋で買った、すりりんぐばーさんの最新号を床に寝転がりながら読む。


 相変わらず面白い。

 先生の指摘を受け入れ、読んでいる時の笑い方も変えてみた。

 これで周囲から白い目で見られることもなくなるだろう。

 それどころか見直されるかもしれない。


『臨時ニュースです。龍戸市、髭ノ町にて支配者が出現。推定危険指数はA。ゴールド以上のレンジャーが討伐隊を組んで警察と急行中。近隣住民は直ちに非難を開始してください』


 テーブルの上にあるラジオからニュースで女性キャスターの声が聞こえてくる。


 あれ? 龍戸市って隣町じゃないか?

 少々不安になる。

 が、漫画を読む手は止まらない。


「ただいまー」

「ウヒヒ、あ……お帰り」


 それから程なくして実里が帰ってくる。


「テレビつけていい? あとその笑い方キモイ……」

「おーうぇ……?」


 リビングにやっていた実里は突然俺に対し毒を吐くと、テレビをつける。先ほどのラジオと同じ内容の報道がテレビの映像付きで流れていた。


「危険指数Aって結構ヤバそう……」

「んー大丈夫だとおもうけどなぁ……探求者に任せるとしか」

「それもそうかも……」


 実里はリモコンを取り出し、チャンネルを変えた。

 夕方によくやっている学園もののギャグアニメが今度は流れていた。



「そういや、試験結果どうだった?」


 俺はそれとなく実里に尋ねる。


「合格。S判定もらったよ」

「オゥ……」


 実里の余裕の返答にとっさに尻込みしてしまう。

 さすがと言わざるを得ない。


 実里は俺と違って徹おじさんの実の娘だ。

 彼女ならきっと徹おじさんと同じ道へ進めるだろう。

 だから俺は高校を卒業したらどこかに就職して実里のために資金援助をしてやりたいと思っている。俺は彼女をいいところへ連れて行ってあげるようにしなければならない。


「で、そういう兄さんは?」

「え? あー、まぁいい感じ的な」

「45点……」

「ちょちょちょ~?」


 気づくと実里が俺のカバンからテスト用紙を取り出していた。

 恥ずかしいっ// じゃなくてこれはまずい……!


「兄さん、この点数は何? 復習したとこも何問か出てるし……」

「そ、それは~……」


 俺は何か言おうとして口籠ってしまう。

 特に言い返せるような言い訳など何一つなかった。


「兄さん」

「ひっ!」


 実里が冷ややかな眼差しで俺を見下ろしてくる。


「他の教科も返って来てるはずだよね」

「うぐっ」

「見せて」

「そ、それは……」


 しばらく沈黙が続く。

 俺がどうしたものかと目を泳がせていると、実里がしびれを切らしたようにため息をついた。


「はぁ、まぁいいか。赤点回避できただけ成長したってことだろうし」

「み、実里……!」

「……兄さんがバカってことには変わりないけど」

「ムググ……!」


 また、バカと言われた。

 その言葉で再び心にダメージを俺は負った。

 そんな時だった。 


 家の固定電話が鳴り始める。独特な電子音が部屋の中に響いた。

 というより一体誰だろうか。


 俺と実里は同時に電話があるの方を見つめる。


 夜中ではないから、電話が鳴ること自体は不思議ではないだろうが、俺たちの所に電話をかけてくる人なんてめずらしい。


「はい、神野です」


 実里が電話に出る。

 まぁ普通に考えて実里の友達とかそのあたりだろう。俺に電話をかけてくれるような友達なんていないからな。


 別に悲しくなんてないぞ! 強がってなんかないぞ!

 俺はもう悟りを開いているんだ。


 俺はもういいんだッ。

 実里さえ楽しくすごしてくれるならそれでッ!


 俺の事には構わず先にッ――


「兄さんに電話」

「はい」


 どうやら俺あてだったらしい。しかし誰だろうか。

 俺に電話をよこす人なんて……。


「変わりました。駄咲です」


 実里から受話器を受け取り、耳に当てる。


「駄咲、俺だ。要件がある。面をかせ」

「俺……?」


 なるほど、そういうことか。

 俺はすべてを理解した。


 これは……詐欺だな。


「合言葉は」


 俺は電話の主に少しドスの効かせた声で尋ねる。


「は?」

「合言葉は」

「ふざけてんのか?」


 どうやら相手は俺の要求する合言葉がなんなのか分からないらしい。これは詐欺で確定だ。


「あーやっぱり詐欺か……残念だったなぁ、俺には全部お見通しだ。あ、ちなみに合言葉なんだけど……」

「バカかお前。西上だ、早くしろ」

「西上……?」


 自分の中にある埋まった記憶をどうにか掘り進めていく。

 確か西上とかいう名前の人物に前もあったことがある気がする。

 よくよく思い返せば、確かに聞いたことのある渋い声だった。


「あぁ、西上さん」

「思い出したかバカ野郎、早く来い」

「はぃ~」


 プツッ


 俺が答えると、電話の主は通話を即切断する。


「兄さんどこに?」

「ちょっと出かけてくる」

「遅くなりそう?」

「うーん、七時くらいには帰ってこれるんじゃねーかな」


 玄関の脇にある丸い壁掛け時計を見るに、時刻は五時半といったところか。どれだけ長くても三時間以内で帰れるはずだ。多分。


「料理冷蔵庫入れとくよ?」

「おー、ありがとう」


 今日は少し冷えるため、制服の上から黒い無地のジャケットを羽織り、動きやすい白のスニーカーを履いた。

 そして俺は外へと出ていった。


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