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45 叛乱

 俺は目を覚ました。


 どれほど時間がたったかわからない。窓の外は闇が満ちているようなので、まだ夜であることは間違いなかった。


 マンヘマー子爵の邸宅だ。与えられた一室の中である。


 もう一度寝ようと俺はベッドに上で横になった。が、寝つけない。


 仕方なく俺はベッドからおりた。部屋から出る。どうにも落ち着かなかった。


 俺はバルコニーに出た。広い庭を見渡す。


 あらためて俺は不思議な気持ちになった。


 少し前まで東京で普通の高校生として生きていた。それが、どうだ。今ではバンサーになって貴族の邸宅にいる。以前には考えられない境遇になっていた。


「眠れないのですか?」


 声がした。ふりむかなくても、わかる。ミーラの声だ。


「ミーラ。君もか?」


「え、ええ」


 ミーラが歩み寄り、俺の隣に立った。


「あの」


 ミーラが俺を見た。


「どうした?」


「父のこと。すみません。無理なことを言いだして」


「いやあ」


 俺は苦笑した。笑うしかできない。


「ミーラの方こそ困っただろう? 結婚なんて」


「いいえ、わたしは」


 ミーラが小さく首を横にふった。それから窺うように俺を見た。


「わたしはハルト様さえよけはば、その……」


 ミーラが声を途切れさせた。恥ずかしそうに俯く。


 可憐だ。思わず抱きしめたくなった。けれど、それはできなかった。


 その時だ。俺は異変に気づいた。


「あれは──」


 俺は闇を透かし見た。つられてミーラも闇を見る。


「何も見えませんが」


「いや」


 強化された俺の目には見える。邸宅の門の前に蠢く幾つもの影が。


 暗くてよくわからないが、盗賊の類いではないような気がする。彼らは鎧を身につけているようなのだ。


「門の前に大勢の鎧姿の者がいる。警備の騎士か何かかな?」


「いいえ。警備の者はおりますが、門の前に大勢というわけでは」


「そうか」


 嫌な予感がする。嵐の前の静けさのような。


「ミーラ。お父さんにこのことを知らせるんだ」


「えっ」


 さすがにミーラは驚いたようだ。が、すぐにうなずいた。


「わかりました。ハルト様は?」


「俺は仲間を起こしてくる。三階の廊下で落ち合おう」


 告げると、俺はミーラとわかれた。ミーラは階段を駆け上がっていく。


 俺は廊下をとって返した。まずむかったのはフォシアの部屋だ。


 ノックすると、すぐに鍵の解除される音がした。ドアが開かれる。


「どうしたの?」


 フォシアが問う。すでに覚醒した顔つきだ。


 俺は事情を説明した。ポリメシアとミカナを起こすよう頼む。


「俺はバレートを起こしてくる。すぐにここから離れられるように準備するんだ」


 命じると、俺はバレートの部屋にむかった。ドアをノックする。


 が、返事はない。眠りこけているのだ。


 躊躇っている余裕はない。俺はドアを蹴り開けた。


 衝撃に部屋が揺れる。さすがにベッドの上でバレートが身を起こした。


「な、なんだ?」


 寝ぼけ眼でバレートが辺りを見回した。駆け寄ると、俺はバレートの胸ぐらをつかんで揺さぶった。


「起きろ、バレート。すぐに身支度を整えるんだ!」


「ハルトじゃないか。どうしたんだよ?」


「変な騎士が外にいるんだ。大変なことが起こるかもしれない」


「大変なことって何だよ。ここは貴族様のお屋敷だぜ。何か起こったとしても大丈夫だって」


 バレートがおおきく欠伸をもらした。仕方ないとはいえ、緊張感などまるでない。


「大丈夫ならいい。けど、もしそうじゃなかったら──」


 その時だ。騒ぐ声がした。外からだ。


「な、何だ?」


 バレートの顔色が変わった。俺は告げた。


「早く身支度しろ。死にたくなかったら」


「し、死にたくなかったらって……何なんだ、いったい?」


「わからない。けど、急ぐんだ。三階にいけ。ミーラたちと合流するんだ」


「おまえはどうするんだよ?」


「俺は階下にいく。様子をみてくるよ」


「一人で大丈夫なのかよ?」


「少し様子を見てくるだけだ。じゃあ、急げよ」


 俺は背を返した。廊下に出る。すると騎士らしき男が階段を駆け上がってきた。


「どうかしたんですか?」


 騎士を呼び止め、俺は訊いた。

「叛乱だ」


 告げると、焦りを隠さず騎士らしき男は三階にむかってさらに階段を駆け上がっていった。

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