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41 ダークエルフ

「……なるほど」


 俺たちの話を聞き終え、ゼスヌムシル伯爵はうなずいた。


「用件はわかった。ソイアが世話になった君たちのことだ。力になることはやぶさかではない。とはいえ、たとえ騎士見習いといえども何の実績もない者を簡単にとりたてるわけにはいかない。仮であろうともね」


 そういうものかと俺は思った。


 賢一たちは簡単にとりたてられてようだが、それは異世界転移者であったからなのだろう。落ちこぼれであった俺は恥ずかしくて異世界転移者であるとはいえなかった。


 俺は尋ねた。


「では、どうすれば仮の騎士見習いとしてもらえるんでしようか?」


「そうだね。ひとつ手柄をたててもらいたい。ゾーフラユの外にうちすてられた館がある。そこにに不逞の輩が住み着いているらしい。何か企んでいるようなのだが、それを調べ、必要なら不逞の輩に相応の対処をしてもらいたいのだが、どうだろうか?」


「不逞の輩か」


 バレートは目を輝かせた。どうも彼は根っからの冒険好きらしい。


「わかりました。やります」


 バレートが受けた。


 安請け合いとはこのことだ。不逞の輩の正体も全くわからないというのに。俺たちが初級バンサーであることを忘れたのだろうか。


 けれどゼスヌムシル伯爵の申し出を受けてしまったのだから仕方ない。後の祭りという奴だ。もう後戻りはできなかった。



 その日のうちに俺たちはゾーフラユを出た。ミーラは宿で待たしてある。


 問題の館はゾーフラユから少し離れた森な中にあった。たどり着くまでそれほど時間はかからないそうだ。


 俺たちは夏らしい陽光をあびて歩いた。ルソット村にむかった時よりも熱い日差しであるように俺は感じた。


 やがて俺たちは森にたどり着いた。濃い緑の匂いが届いてくる。深い森のようだ。


 俺たちは森に分け入った。かつては道であったものが、いまは草で覆われている。


 けれど人の歩いた跡があった。人が通っているのだ。


 おそらくその先に問題の館があるのだろう。俺たちは足跡を追って歩いた。


「待て!」


 俺はとなりを歩くバレートをとめた。あわててバレートが足をとめる。


「な、なんだ、ハルト。どうしたんだ?」


「あれだ」


 俺は少し先の地を指し示した。細い糸が地面すれすれの高さで道を横切っている。


「なんだ、こいつは?」


 バレートが糸に目を近づけた。それから糸ののびている方に視線を転じる。木々のむこうにのびていた。


「罠だよ。なにかの仕掛けにつながってるんだ」


「仕掛け?」


「ああ。糸を切ったら仕掛けが作動するようになってるんだよ」


「どんな仕掛けなんだ?」


「わからない。矢が飛んでくるのか、音が鳴るのか……。けれどわかったことがある」


「わかったこと?」


 ミカナが俺の顔を覗き込んだ。ああ、と俺はうなずいた。


「館の連中がただの不逞の輩じゃないということさ。ただの不逞の輩ならこんな罠なんか仕掛けたりしない」


「おいおい」


 バレートの顔が緊張にこわばった。表情から気楽さが消し飛んでいる。ようやく事態が簡単なものではなさそうであることに気づいたようだ。


 俺たちは先を急いだ。今度は全員で警戒しつつ。


 やがて俺たちは大きな館にたどり着いた。崩れかけて久しいようだ。壁には蔦がからみついていた。


 その時だ。館のドアが開いた。現れたのは五人の男女である。


 全員、短剣で武装していた。俺の脳裏にごろつきどものことがよぎった。


 五人にはどこか彼らに似た雰囲気があった。剣呑なものを含んでいるのだ。


 俺たちはあわてて身を身をひそめた。藪の中に隠れる。


 五人の男女は声も発さず歩き去っていった。助かったという思いがある。


 用心していなければ身を隠すのが遅れていた。そうであれば今頃は彼らに発見されているところだ。


 すぐに動きだそうとしたバレートを俺はとめた。まだ館の中に残っている者があるかもしれない。


 その俺の危惧はあたっていた。ややあって館の中から二人の男が姿をみせたのである。


 一人はごつい体格の男だ。もう一人は──。


 タールを思わせる黒い肌。痩せてはいるが、引き締まった肉体の持ち主だ。そして特徴的なのは耳である。先端がピンと尖っていた。


「ダークエルフ!」


 ポリメシアが愕然とした声をもらした。

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