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33 その夜のこと 1

 その夜は夜営することになった。襲撃の後始末などで出発が遅くなり、次の街までたどり着けなかったのだ。


 警戒するため、交代で見張りにつくことになった。まずは俺とミカナである。


 俺たちは焚き火の前に陣取った。他の者たちは馬車の中で眠っている。


「……すごいね、ハルトは」


 焚き火の光に顔を赤く染め、ミカナがいった。


「すごい?」


 俺が問い返すと、ミカナはこくりとうなずいた。


「うん。すごい。ミベニアでも手をやいていた人たちをあっという間に倒しちゃうんだもの」


「あ、ああ」


 俺は苦く笑った。まさかフォシアのキスのおかげだとはいえない。


「わたし、良かったと思っているんだ。ハルトたちと仲間になれたこと。同じ初級バンサーの人たちは頼りないし、かといって上級バンサーの人たちは野蛮だし。ハルトみたいに強くて優しい人はいないもの」


 いうと、恥ずかしそうにミカナは目を伏せた。


 俺は咳払いをひとつ。照れくさいのをごまかすために、ミカナに訊いた。


「ミカナたちは同じ街の出身なのか?」


「うん。ネバルという小さな村で幼なじみなの。わたしとポリメシアは魔法の才能があったから、バレートにバンサーにならないかって誘われて」


「それでネバルから出て来たのか?」


「うん。わたしはバンサーになるのは怖かったから嫌だったんだけど、ポリメシアがどうしてもって……。ポリメシアはバレートが好きだから」


「なるほど」


 俺は苦笑した。


「はた迷惑な話だな」


「ううん」


 ミカナが小さく首を横に振った。


「さっきもいったけど、ハルトと出会えたから良かったって思ってる。わたしの方はハルトの助けにはならないだろうけど」


「そんなことないさ」


 俺はいった。ミカナの聖魔法は危険がつきまとうバンサーにとっては貴重なものだ。お世辞ではなかった。


「そうかな? だったら嬉しい」


 ミカナが微笑んだ。



「しくじっただと?」


 蝋燭の明かりがゆれる一室。猛禽を思わせる鋭い目の男がいった。前に佇む二人の男がうなずく。


「おまえたちほどの手練れが八人も揃っていながら、小娘一人を拉致することもできなかったというのか?」


「エルフ一人、それと手練れが一人おりまして。おそらくはバンサーかと」


「バンサー?」


 鋭い目の男は眉をひそめた。


 バンサーの実力は様々だ。上級バンサーともなると騎士団にも匹敵する力をもつという。


「はっ。ミベニアというエルフだけならばしくじりはしなかったのですが、その者のために…。他のバンサーは初心者のようだったのですが。ただ」


「ただ?」


「そのバンサーなのですが、どうも知らぬ国の者のようなのです」


「知らぬ国?」


「はい」


 うなずくと、男はこたえた。そのバンサーの人相風体を。


「それは、もしかすると異世界人たちかもしれんな」


「異世界人!?」


 男たちが瞠目した。異世界人のことは噂のみ聞いたことがあり、実物を見たことはなかったのだ。


「まさか……」


 男たちはうめいた。鋭い目の男はじろりと男たちを睨めつけると、


「そうとしか考えられまい。若造のバンサーがそれほど強いはずはないからな。異世界人ならば納得できる。数日前、異世界人の一人が城から放逐されたらしい。もしかすると、そやつがそのバンサーなのかもしれんな」


 つぶやくと、鋭い目の男は命じた。


「そのバンサーをどうするか、王の判断を仰がねばなるまい。それまでは目をはなしてはならぬ。気取られずに監視するのだ」

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