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24 毒

 ゴブリンを始末したことを依頼主であるルソット村村長に報告し、ひとまず俺たちは来たときに利用した宿屋にもどった。


 そこで俺とバレートは倒れた。高熱と吐き気に全身を蝕まれて。


「毒ね、これは」


 フォシアがいった。ポリメシアとミカナが顔色を変える。


「きっとゴブリンがもっていた剣に毒がぬられていたのね」


 ポリメシアが俺とバレートの傷を確かめた。どの傷も赤黒く腫れている。


「毒消しの薬は?」


 フォシアが問うと、ポリメシアとミカナは首を横に振った。


「持ってないわ」


 ポリメシアがこたえた。が、たとえ持っていたとしても──。


 毒の種類は様々である。一つの毒消し薬がすべての毒に効きはしないのだ。


 唯一、すべての毒を消し去る方法がある。聖魔法だ。


 ポリメシアが期待に満ちた目をむけた。けれどミカナは悲しそうに目を伏せた。


「だめなんです。魔力が尽きてしまっていて……」


「そんな」


 ポリメシアが息をひいた。


 毒性の強さはわからない。けれどゴブリンが低い毒性のものを使うはずがなかった。おそらく死に至る毒であろう。


「治療所にいけば薬が手に入るかも」


 ポリメシアがいった。すると今度はフォシアが首を横にふった。


「こんな小さな村にどれだけの種類の毒消しがあるかわからないわ」


「でも何もしないわけにはいかないわ」


 ポリメシアが俺とバレートを心配そうに見おろした。霞む視界の中に、俺はその顔を見とめている。


 バレートを見る顔はいまにも泣き出しそうだった。よほどバレートのことが好きなのだろう。


「ともかくいってくる。あるだけの毒消しを買ってくるわ」


「だめよ」


 フォシアがとめた。


「どうして?」


 焦りと怒りの色をにじませた声をポリメシアは発した。


「毒の種類がわからないからよ。違う毒消しを飲ませたら、それこそ命にかかわるわ」


「そんな……」


 ポリメシアが頽れた。床にへたり込む。


「じゃあ、どうしようもないっていうの? このまま指をくわえて二人が死ぬのを眺めていろって……」


「魔法」


 おずおずとミカナが口を開いた。


「魔法? 魔法がどうかしたの?」


 涙のにじむ目をポリメシアがあげた。すると躊躇いながらミカナがこたえた。


「もしかしたら使えるかもしれません」


「本当!」


 ポリメシアが目を輝かせた。


「魔力が戻ったの?」


「いいえ。でも少しだけ魔力が残っています。一度だけなら使えるかもしれません」


「一度だけ……」


 ポリメシアは声を途切れさせた。


 たった一度の魔法の発動。それで救えるのたった一人だけなのだ。


「……バレートに……使ってくれ」


 俺は必死になって声をしぼりだした。はっとした顔でポリメシアとミカナが俺を見た。


 本当のところ、二人はもともとの仲間であり友人であったバレートを一番に助けたいだろう。けれど、それは同時に俺を見捨てることになる。簡単に判断などできないに違いなかった。


「ハルトのいうとおりにして」


 躊躇っているポリメシアたちにむかってフォシアがいった。するとミカナが悲壮な顔をむけた。


「そう簡単にはいきません。ハルトを見捨てるわけには」


「でも、このままじゃ二人とも死んでしまうわよ。ハルトの思いを無駄にしないで」


「でも」


 いいかけたミカナをフォシアは手をあげて制した。


「大丈夫。ハルトはわたしが助けるから」


「助けるって……どうやって?」


「まあ、まかせて。だからバレートに魔法を」


 強い口調でフォシアがうながした。さすがにこれ以上、ミカナもぐずぐずしているわけにはいかない。このままでは二人とも死んでしまうからだ。


「……わかりました。それじゃあハルトのことはお願いします」


「わかった」


 うなずくと、フォシアが部屋を後にした。ドアが閉まると、すぐにミカナは呪をとなえた。するとバレートの身が淡い光につつまれた。


 ややあって荒かったバレートの息が落ち着いた。安らかな寝息に変わる。傷の腫れもひいていた。


「よかった」


 ポリメシアが安堵の吐息をもらした。が、ミカナが悲愴な声を発した。


「でもハルトが」


「えっ」


 ポリメシアが俺に目を転じた。息が低くなっている。死にかけているのだ。


「ミカナ。もう一度魔法を!」


「だめ。もう魔力が尽きました」


「そんな……」


 絶望にポリメシアが声を失った。

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