おわり
「出番が来たら呼ぶから、それまで待ってろ」
魔王の城がある草原の近く。
山の頂上付近で待っていろと言って、勇者さまはどこかに行きました。
なにをするつもりなのかはわかりませんが、少年は言われた通り山の頂上にある大きな岩の影に隠れています。
「とてもお似合いです」
ヒョイヒョイと少年の周りを飛び回りながら、キラキラ輝く魔法の剣はうれしそうです。
今日の少年は、フルフェイスの全身鎧を着ています。
魔法の剣と対になる、魔法の鎧です。
物理にも魔法にも強い、勇者の鎧です。
魔王や邪竜といった強い敵と戦うときに、魔法の剣が召喚するそうです。
普通のこどもだった少年も、魔法の剣と魔法の鎧で、すっかり勇者そのものです。
魔法の鎧は見た目が金属で、重く動きにくそうに見えるのに、布の服よりも軽くて、身に着けているとモリモリと力がわいてきます。
じっと待ってるのが退屈で、少年は準備運動をはじめました。
竜も子犬くらい小さくなって、短い脚を動かして体操をしています。
とつぜん、魔王の城の方から声が聞こえてきました。
たくさんの魔物の声と、たくさんの人間の声です。
地響きがするような大きな音も続き、金属がぶつかる音や叫び声があたりに響き渡ります。
大きな岩の影から、魔王の城のほうを見て、少年は驚きました。
たくさんの魔物たちが追い立てられ、隊列を組んで四方八方から押しよせる騎士たちから、魔王の城へと逃げていたのです。
剣をふるって、魔物を倒す騎士もいます。
馬に乗って槍をふるう騎士もいます。
隊列からそれて逃げようとする魔物を、大きな盾で押し返す騎士もいます。
元勇者は、騎士たちに指示を出して、隊列で魔物たちを魔王の城へと追い込みます。
国中に散らばっていたたくさんの魔物を、大人たちは協力しあって集めてきたのです。
広く荒れた草原から、魔物たちは魔王の城の中へと消えていきました。
魔王よりは弱くても、力をあわせた人間は強いのです。
魔王の城から、ゴウゴウと激しい風が吹き上がりました。
ギャァギャァと引きつるような魔物の声も聞こえてきます。
まがまがしい黒い光がわきあがり、魔王の城を包んでいきます。
魔王が出てくるその前に、元勇者が空に向かって光を放ちます。
ピカピカと輝く白い光は、少年への合図でした。
「いこう! 魔王を倒すよ!」
大きな本来の姿に戻った竜に乗って、少年は空を翔けます。
魔王の城から後退していく騎士の隊列に、地面から現れたまっくろい魔王の力が襲いかかります。
その前に舞い降りると、少年は魔法の剣で切り裂いて、竜は口から吐いた炎で焼き払います。
「剣よ、力を貸して!」
魔法の剣が、少年の願いを受けて、強く光り輝きます。
魔法の剣だけに良いところをとられまいと、赤い竜も喉に力を集めます。
「いっけぇー!」
魔法の剣を振りぬくと同時に、竜も炎の咆哮を放ちます。
お城から湧き出ていた気持ちの悪い黒いものを、ブチブチと引きちぎった剣の力はそのままお城まで木っ端みじんに吹き飛ばし、竜の炎で燃え上がりました。
あっという間の出来事でした。
みごとに何もなくなって、お城があったことすらわかりません。
魔王や魔物も瓦礫と一緒に燃えたのか、なにもない更地です。
少年はその威力にビックリしたけれど、念のために三回ぐらい同じ攻撃をしておきました。
地面に穴は開いたけれどお城のあった場所に、魔王の生まれる黒い力の吹き溜まりがあったそうなので、消し飛ばしても問題ありません。
魔法の剣が周囲の浄化もしてくれたので、これで魔王もしばらく生まれないでしょう。
こうして、魔王を倒した勇者のこどもは、新しい勇者になったのです。
勝利の歓声が四方八方から聞こえてきたので、少年は振り向きました。
ここまで魔物を追い込んでくれた騎士たちが、作戦の成功を声をあげて喜んでいました。
その中にいる勇者さまを見つけて手を振ると、勇者さまは「行け」という風に手を振り返してくれました。
そうでした。
のんびりしているわけにはいきません。
赤い竜の背中に乗って、魔法の剣を右手に掲げると、少年は空へと飛び立ちました。
サヨナラを言うかわりに、グルグルと騎士たちの上空をまわります。
勇者のこどもは、本物の勇者になったけれど、まだ大人ではありません。
元勇者さまのように、王様や騎士たちと助け合いながら、卑怯者でかまわないと笑えるような、大人の仲間になるには早いのです。
それに、用事があれば、元勇者さまが呼びにくるそうです。
少年がどこにいても、元勇者さまにはわかるそうです。
勇者のこどもが、本物の勇者になったとしても。
こどもの時にしかできないことは、こどものうちに楽しんでこい。
元勇者さまはそう言って送り出してくれたし、困ったことがあれば助けに行くと約束してくれたので、少年はどこに行っても大丈夫なのです。
いつか、新しい魔王や邪竜が生まれるでしょう。
そして、勇者のこどもから、大人の勇者になって、卑怯者と呼ばれても協力し合あえる大人たちと、力をあわせる日も来ることでしょう。
その時までは、小鳥の竜と剣の師匠とのんびりと旅をします。
宝物みたいに大切なこの世界を、少年は楽しむのです。
おわり




