そのさん
「おまえ、ずいぶん器用になったね」
「あたりまえです。私が教えているのですから」
肩にとまった赤い小鳥に、少年が話しかけると、魔法使いの青年が胸を張ります。
普通の旅人にしか見えない一羽とふたりですが、実は、赤い竜と勇者のこどもと魔法の剣なのです。
お城から逃げだしたあと。
王国の果てにある山奥で、卵から竜が生まれるまで過ごしました。
はじめは小さかった竜も、山で暮らしているうちにグングンと大きく育つので、正体を隠すために魔法を覚えたのです。
まだ子供なのでウロコと同じ赤色になってしまいますが、小鳥になったり、トカゲになったり、竜のまま小さくなったりできるようになりました。
魔法の先生になったのは、魔法の剣でした。
魔法の剣はとてもおしゃべりで、魔法も上手でした。
炎を出したり、水を出したりするだけではなく、色々な生き物に変身もできるのです。
剣のままでおしゃべりすると目立ちすぎるし、一人で旅をするには少年は少し幼かったので、魔法の剣は大人に姿を変えました。
大柄な戦士になることもあれば、青年の魔法使いになることもあります。
何年も旅をしているので、今の少年は一人旅をしてもおかしくないぐらい大きくなりましたが、ひとりよりも二人旅のほうが目立ちません。
魔法の剣が人間に変身している時は、師匠と呼ぶことになっています。
「勇者さまと冒険した時も、変身して旅をしたのですか?」
「まさか! あの男、私が話しかけても返事もしなかった」
おまけに、鞘のないむき身の剣なのを嫌って、ずっと体内にしまったままで外も見えず、とてもつまらなかったと、魔法の剣は師匠の姿でボヤきました。
外の世界が見えるのは戦うときだけで、終わるとすぐに手のひらに戻されたそうです。
少年と暮らしていたときの勇者さまはおしゃべりだったので、とても不思議な気持ちになりました。
「一緒に歩いたり、話したり、ご飯を食べてくれるお師匠様がいて、僕はうれしいよ」
「そうでしょう、そうでしょう。私もあなたと一緒の旅は楽しい」
剣なのに師匠。
少し変な気持ちになりますが、おしゃべりで物知りな魔法の剣はとても頼りになる相棒なのです。
ちなみに、魔法の剣は、戦うときには剣の姿に戻ります。
空を飛んだり、分裂したり、少年が持つと必殺技を放ったり、多芸多才な魔法の剣です。
そして、いっぱい魔法を使って疲れたら、少年の体の中で休みます。
魔法の剣には鞘がないので、勇者の体を鞘にして、手のひらやおでこから出たり入ったりするのです。
大きな声では言えませんが、手のひらからメキョッと剣が出てくるのは、目で見て気持ち悪いので、できるだけ師匠の姿でいてくれるようにお願いしています。
ただ、少年には魔法の才能がなくて、少しも使えないから残念でした。
「髪の色ぐらい、自分で変えたいのになぁ」
「私がいるのだから、頼ってください」
師匠がそう言うと、小鳥の竜も「僕だっているよ」と言うようにピィピィと鳴きました。
ありがとうと少年は笑いました。
ワルモノとして逃げる旅なのに、頼りになる相棒たちのおかげでとても楽しい毎日です。
あれから王様は、勇者のこどもと竜のこどもを、ずっと探しているようです。
いろんな街に旅人としていくのですが、街の真ん中にある広場のお尋ね者コーナーには必ず、少年の顔と竜の絵が大きく描かれています。
すごく怖い顔だなぁと、屋台で買ったお肉をモグモグ食べながら見上げて、まだ王様は追いかけるのをやめないのかと、あきれるばかりです。
目つきの悪い男の子の顔と、牙をむきだした竜の絵は、ちっとも似ていないので誰も少年に気が付きません。
こうして、いろんな街に行きました。
王国はとても大きな国だったので、砂ばかりの暑い場所も、氷の森がある寒い場所も、緑がいっぱいの草原もありました。
どの場所も、暮らしている人たちは楽しそうで、少年にとっては迷惑な王様も、国民にとっては良い王様のようでした。
珍しいご飯を食べたり、竜の好きな果物を探したり、お師匠様と一緒に人助けをしたり、冒険者のお仕事でお金を稼いだり、病気の時は宿屋に泊まったり。
見るものも、聞くものも、すべてが珍しく、良い国だと少年は思いました。
どこにいっても少年も竜もお尋ね者なので、ずっと旅人のままでしたが、とても美しい世界に出会えるから、旅はとても楽しいのです。