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母親との顔合わせ

次にレミングが目が覚めた時に見えたのは明るい部屋の中だった。


(……体に負傷はなし。脳にも障害は残ってない。無傷で良かった)


身体の状態に安心したレミングは辺りを見回す。


暖色系の壁紙の部屋には統一した服を着た数人の女性が他の赤ん坊をあやしたり腰布を取り替えたりしている。


(……治療院のような場所だろうか)


あそこの匂いは嫌いだった、と内心苦笑いしながら身体の調子を実際に動かして確かめる。


(手足が上手く動かないし首も動かせないから自分の状態が分からない。安全そうなのは別に良いが……)


【教会】の治療院は高額な金を請求されるため貴族や王族と言った富豪しか使用していなかった。


その上、お手つきだったりすると暗殺者や金で買収された【回復魔術】専門の魔術師が子や母体を無きものにしようとする事が多々あった。


実際前世のレミングにも依頼の話をされた事があった。当たり前のように断り、ついでに話を持ちかけてきた富豪を物理的に壊滅させた。


(そのせいで貴族や王族の連中から目を付けられていたな……偵察は秘密裏に皆殺ししたけど)


思いだし笑いをしながら赤子の世話をしている女性たちの声を聴く。


何を言っているか分からないレミングだが脳内で言語体系を考え始める。


(種類としては神聖語ではない。どちらかと言えば、極東のヤマト語に近い)


前世の世界は国によって言語が違う事は勿論、種族、民族、宗教によって言語が変わってくる。


教会関係者が主に使う神聖語は【教会】にとって儀式の際に使うため、支配下にある地で公用語としてよく使われていた。


逆にヤマト語は【教会】の支配下から離れた異国の島国、『ヤマト』の公用語で複数の文字を繋げて一つの単語とする神聖語とは違い一つの文字で単語を為している。


幼い頃から世界各地を巡り、異国の地で布教していたレミングにとって複数の言語の知識を持つ事は当然だ。


(普通の【教会】の連中は俺が異国の言葉を話しているのを見てわーわーギャーギャーと騒いでいたな)


【教会】にとって異国の言葉は異教の言葉と判別できない。そのため、言語を弾圧したりすることはザラにあった。


それをレミングは「下らない」と言ってバッサリと切り捨てていた。


「―――――」

「あう?」


突然女の一人がレミングの身体を持ち上げる。抵抗する気力もなかったレミングは抵抗することなく女に持ち上げられる。


女は俺を持ったまま部屋から出て廊下を歩いていく。


(……どこに連れていくつもりだ?)


白を基調とした廊下を女はレミングを持って歩き、一つの部屋の中に入る

部屋の中には白衣を着た男とスーツを着た若い男。


「―――――――」


そしてベッドの上で起き上がっている女性がいた。


女性の身体は傷だらけで簡素な服の間から見える肌には幾つもの傷を縫合したような痕がある。穏やかな翡翠色の瞳をしているが身体はかなり憔悴している。


(起き上がっているのがやっとという状況か。それにこの魔力……俺の母親か)


レミングにとって母親に良い思い出はない。元より、レミングは母親と呼べる人間はいない。いるのは自分を産んだ女だけだった。


レミングを産んだ女は貴族の娘だった。騎士に汚され、それによって生まれた子だった。そのため生まれてすぐに【教会】の孤児院に預けられた。


(……俺が聖人になった時に遠目から嬉しそうに見ていたな)

「――――」


前世の母親の事を思い出していたレミングを抱えていた女はベッドにいる母親にゆっくりと渡す。


渡されたレミングの顔を母親上から見下ろしてくる。


(……綺麗な顔をしているな)


母親の顔は憔悴していたが今まで見てきた女性の誰よりも綺麗だった。運が良かったのか顔には目立った傷はなく、父親と思われる何軒よりも色白の肌をしている。肉付きのバランスも良く、肌には弾力がある。


母親の指を持てる力で握り、魔力の流れを感じとる。


(魔力の流れが不規則だがそれは産後ではよくあることだ。あと、肝臓の方は上手く機能しているようだな。治療院で【回復魔術】を習っておいて正解だった)


【回復魔術】はその名前の通り傷を癒したり病を取り除く【魔術】である。戦闘向きではないが、戦局を大きく左右する【魔術】の一つで軍隊には一つの部隊に少なくとも一人はいることを義務付けている程だ。


しかし、使い手の実力や才能、人体に対する知識、技術に大きく依存しているため育成に時間がかかり、需要に反して術者は少ない。


レミングはその【回復魔術】を体得している。しかし、レミング自身は【条件起動魔術】の方が得意としているためそちらに比べると遥かに技量は拙い――それでも十分に高い――ため正しく動いているか心配だった。


(あ、笑ってる)


レミングが思考の海から浮上して見上げると母親が笑っていた。


笑ってはいたのだがどこか泣きそうな瞳をしている。


(……当然か。事故で自分が死にかけたからその子供に何かしらの障害が発生していても可笑しくないしな)


この世界の医療技術が【回復魔術】とは方向性は違えど高いことは母親が生きていた事でレミングは理解していた。


だが、その技術でも子供の障害に関しては自力で治す事は難しい。【魔術】でも精神を歪めるものや人を自由に操れるものはあれどそれは治したとは言えない。


障害というものをレミングは『脳に何かしらの原因がある』と考えている。そのため、衝撃を緩和する術式を使ったのだ。


「―――――」

「――――――――」


レミングが考えていると女性が母親に何かを話す。


母親は寂しそうな笑顔をしてレミングの身体を女性に渡す。


(あの部屋に戻すのか。流石にその身体ではまだ長時間は無理そうだしな)


魔力の流れによってレミングは母親の体内の状態が分かっていた。そのため、母親がかなり無理をしている事も理解できた。


「あう!!」

(早く治せよ)


祈願の意味を込めた笑みをレミングは母親に向けると母親は涙を流しながら満面の笑みでレミングを見送る。


先ほどの部屋に戻るとレミングは目蓋を閉じて眠り始めるのだった。


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