表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

悪魔転生

穏やかで暖かな液体の中でレミングは目を覚ます。


(……成功したか)


レミングは確かに死んだ。だが、死後の事を考えていない訳ではなかった。


【教会】とは違う、自然崇拝の教義に輪廻転生と言う概念がある。あらゆる生物は死後魔力の発生源である魂が肉体から離れ新たな生き物へと変えてこの世界に現れる、というものである。


その際、魂の表層にある記憶は完全に消去されるため自分の前世を思い出す事はない。だから通常なら認識出来なかったこの思想は【教会】から異端というの扱いを受けていた。


だが、レミングはそれを信じた。というのもレミングにとって転生と言う概念はあり得ると考えていたからだ。


それこそが悪魔化。自らを悪魔という新しい種にする事を擬似的な転生だと考えたレミングは自らにある術式を刻み込んだ。


自らの記憶、知識、経験を魂の奥に刻み込み輪廻転生した先で己の記憶と知識、経験を転生先に持っていく術式。【転生式:魂魄刻印】と名付けたレミングの【固有魔術】だ。


(尤も、その発動条件はキツいものだったが)


レミングが得意としていたのは【条件起動魔術】と呼ばれる魔術で、一定の動作や言葉を条件にしてそれに伴う行動によって発動するというものだ。


この魔術の欠点――どの魔術にも何かしらの欠点が存在する――があり、その欠点故に殆んどの人間は勿論、悪魔も使わなかった。


その欠点の一つは『条件が厳しくすればするほど効果が強くなる』と言うものである。言い換えれば『条件が緩ければ緩いほど効果が弱くなる』と言うものでその条件も個人の裁量ではなく、第三者な視点から『難しいか簡単か』である。


この【転生式:魂魄刻印】の場合の条件は大きく分けて三つ。


一つ目は転生前の肉体が完全に死ぬこと。その際に窒息死でも溺死でも圧死でもなく『刃物による刺殺』でなければならない。


二つ目は転生前の肉体を殺した刃物が魔力を持っていること。その魔力はただ微少な魔力ではなく一定以上の魔力の量であり、尚且つ【付与魔術】の術式を刻んでなければならず、更にその魔術は『【教会】の術式』でなければならない。


三つ目は死ぬ直前に秘密を暴露し、その暴露した秘密を誰かに聞いて貰うこと。その聞いて貰う相手は『自分を殺した者、またはその側近』でなければならない。


これら全ての条件を満たさなければ、【転生式:魂魄刻印】は発動しない。今回は偶然にも整ったが次はない、そうレミングは考えながら状況を確認する。


(光はない。液体に満たされてる。なのに息はできる。栄養状態は良い。魔力の流れも良好。動きは限定的……恐らく母体の体内の中、胎児の状態か)


状況を確認したレミングは(もう少し後になってから意識を戻して欲しかった)と思いながら自分に出来る事を始める。


体内に送られてくる魔力の流れを操作して魔力の道を作り定着させ、魔力の流れを逆流させ母体の五感に干渉する。


魔力の流れを道にする、というのは【魔術】を使うために最も重要な事である。魔力の道を作ればそこに魔力を通し、【魔術】の行使を最適化出来る。


これは幼少期から始めれば始める程早く作られる。逆に言えば作るのが遅ければ遅いほど作るのが難しくなる。肉体の形成する段階である胎児であれば道を作り定着する速度も幼児よりも早くなる。


(【伝染式:五色共有】)


母体の魔力を利用して魔術を起動させる。


【伝染魔術】は触媒を利用して魔術を発動させる【魔術】の一種だ。


「――――――」

「――――――」


(うん、分からない)


五感の内の聴覚に干渉し声を聴くが何を言っているのか分からずに匙を投げる。


(口の動きや下の動きに幾つか共通点が見られるし、恐らく言葉だろうが……何の言語だ?俺の知っている言語ではない)


少なくとも前世から数百年は経っている、と結論付け視覚の情報を頭に入れる。


母体の視界の情報を見てレミングは


(……なんだこれ?)


困惑してしまう。


灰色の塔に奇妙な服を着た人間、馬もなく走る車、空を飛ぶ金属の鳥。行き交う人たちは奇妙なカードを持ちそれを操作をし、中にはそれで会話をしている者もいる。


(あり得ない。これほどの技術は理論上不可能だ――!!)


思考が現実に追い付いたレミングは現実の理論を否定する。


母体には魔力はあれど魔力の道はない。魔力の道が無ければ【魔術】を使うことは出来ない。なのに母体も奇妙なカードを指先で操っている。


(別の技術か?だが、それでもこれは)


既存の技術では不可能だ、レミングは結論付ける。


人間が古い技術を捨て新しい技術に移ることは多々ある。だが、【魔術】と呼ばれる技術が無くなる事はあり得ない。レミングはそう考えていた。


手作業で城を作るのと機械で作るのとどちらが早いか、それは圧倒的に機械だ。それよりも【魔術】の方が遥かに早い。使い手によるが機械を使って一年はかかる物を【魔術】は半年まで短縮できる。便利さが、自由度が、機械よりも遥かに高いのだ、その技術を人間が捨てる訳がない。


だが現実はどうか。人間は【魔術】を捨て機械に頼っている。


(別の世界……そう考えた方が正しいか)


【魔術】が発達せず廃れ、代わりに科学技術が発達世界。そこに転生したのだとレミングは結論付け【伝染式:五色共有】を解除しようとする。


(がっ!?)


その瞬間、凄まじい衝撃が胎児のレミングの身体を揺さぶる。


咄嗟に魔術を発動させ衝撃を緩和して【伝染式:五色共有】で繋がった視界と聴覚から情報を入手する。


地面に倒れる母体の周りで多くの人が奇妙なカードでどこかに連絡し、母体を移動させているのが分かる。近くに鉄の車が止まり多くの人に囲まれている。


(あの鉄の車を動かしていた人間がこの母体を轢いたのか……!いや、今はそんな事よりも母体の状況を確認しないと)


レミングは魔力を逆流させ母体の体内の状態を確認する。


(外部は勿論、内部の出血が酷い。肋骨、肩甲骨、骨盤が折れ、皹を入れればさらに多い。肝臓が破裂している。……手をつけるのなら肝臓からだろう)


状況を確認すると体内に送られていた魔力を練り上げ始める。


(専門外だがやるしかない……!【一式:偶像の修復】!)


作り上げた【魔術】で潰れた肝臓を修復する。


完全に修復した瞬間、レミングの意識は白い靄がかかるのを想起し朦朧となる。


(魔力を使いすぎた……か……)


治癒に関わる魔術は総じて魔力を大量に消費する。臓器の破片を繋ぎ合わせ完全に修復するとなれば使う魔力も多くなる。


それに気づいたレミングは再び眠りにつくのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ