それでも私の王子様
これは、わたしが『愛してその醜を忘る』とはこういう事なのだと思い知らされた出来事です。
その日、わたしは度重なる嫌がらせに、怒っていました。
いい加減、我慢の限界でその主犯とされていた方に直談判をしに行きました。
その方は、第一王子の婚約者 フィオニア・グラースフルール様
今では、怒りの矛先が違うとわかっていますが、
その時は彼女が犯人だと疑いもなく思っていました。
そして、わたしは無礼にも彼女のティータイムに乱入し今での鬱憤をぶちまけたのです。
「いい加減にしてください!!わたしが何をしたって言うんですか!クラスメイトは無視をするし、授業の変更連絡は来ないし、毎日毎日あのナルシスト王子は訪ねてきて、頼んでもいないのにお菓子やらアクセサリーやら一般庶民の手に余るものばかり寄越してきて!!それを断ったら無礼って!やんわりお断りしても、聞かないから直接的に言ったのに、王子本人は、面白いとか言って聞き入れてくれないし!側近の人達は王子を誑かすなとか言ってくるし!あなたのお友達は王子に近づくなとか、色目を使うなとか言いたい放題言って……」
はぁ…はぁ…
怒りで我を忘れ、息継ぎの後、より一層肩を怒らせてわたしは言い放ちました。
「わたしはあんな王子なんぞ好きじゃないわーーーーーーーーー!!」
そう、わたしは王子様を好きではありませんでした。
たまたま、ある能力をかわれて学園に勉学のために通っているのです。
それを悉く邪魔しにくる人を何故好きになるというのか。
王子様だから?どこのお伽話ですか。
現実は……
「貴方の言いたい事は分かりました。
貴方が置かれている現状を生み出したのは私の婚約者であるこの国の第一王子 カルロス・ルキゥール・ロワイヨーム様ということですね…」
凛とした声が、響きました。
彼女の方を見ると、物憂げに一つ溜息をこぼされました。
「貴方には、本当に迷惑をおかけしました。第一王子の婚約者として謝ります。この度は申し訳ありません。…この件は、私に預からせてくれるかしら?貴方への嫌がらせは無くすために尽力致しますわ。」
席を立ち、わたしに向かって謝罪をしてくださいました。
「あ、あの……じゃあ、嫌がらせは…あなたの指示ではないのですか?」
「あら、そう思われていたのね…
第一王子と結ばれたい方が多くて、私の次は貴方だっただけなのよ。」
当然の事のように、あっさりと答えられてわたしはとても驚きました。
「あんなナルシスト王子なのに、とお思いかしら?
多分王子様という幻想に囚われている方もいますでしょうけど、貴族としてのしがらみで妃の座を狙っているという方もいらっしゃるわ。
誰も、本気で第一王子本人をお慕いしているわけではないのよ。貴方のように、幻想に囚われる事のない方が王子を好きになられたら、とても困るから様子を見ていたけれど、大丈夫そうで安心したわ。」
そこで、第一王子一行がやってきていた。
けれど、彼女は気づかずに私へ第一王子の良いところを語り出した。
「カルロス様は、大変努力をなされていて、勉学に留まらず民の生活のためにと様々な知識を取り入れていらっしゃるの!民の生活も己の目で見ないと、とお忍びで市井に何度も足を運ばれているわ。護衛の足手纏いにならないようにと朝の目覚めは悪いほうなのだけれど、毎日欠かさず自主的に朝の鍛錬もされているの!王族の責任感は人一倍ある方なの!そのせいでとても重荷に感じてもおられるから、私も釣り合うように努力しようとしているわ。
ただ、王族というだけで言いよる女が多くて、困るわ。カルロス様自身、美形でいらっしゃるから勿論素でもオモテになるのでしょうけど、そのせいで恋愛面でとても視野が狭くなっていらっしゃるの。どんな女性でも自分を好きになる、と思って行動されるから。
初めてお会いした時には既にそのように思ってらっしゃって、花を渡されて喜んだら、この程度で喜ぶなんてと鼻で笑われて。でもその後、ずっと私が好きだと言った花を贈ってくださいます。
誕生日プレゼントにアクセサリーを頂いて、あくる日のパーティーに身につけて行ったら、その髪飾りを送る相手を間違えたなお前には似合わないと仰られて。
その後、こちらの方が似合うと別のものを贈って下さいました。
手紙のやり取りは、途絶えがちでこちらから何通も送ってやっと返事が頂けるの。お忙しいのよね。
私が心底王子様に惚れているのだと信じて疑っておられないから、遠ざけようとされての言動なのだけど、良心の呵責なのかより良いものを贈って下さって…
でも、そんな風に行動されるところもカルロス様の可愛いところで…
「やめてくれぇええ!!」
フィオニア様の次の言葉を遮るように王子が叫ぶ。
呆けていた状態から復活したらしい、フィオニア様のマシンガントークに目を白黒させていたわたしは、正直この時ばかりは王子にグッジョブと思った。
王子は顔を真っ赤にして、フィオニア様に詰め寄った。
「お、お前はそんな風に俺を見てたのか!」
「はい。どこかおかしいでしょうか?」
心底不思議だ、というようにフィオニア様は首を傾げられた。
「い、いや…たしかにそのように、したが…」
しどろもどろの王子の肯定する言葉に、側近達は唖然としていた。
言動と行動が伴っていない、愛想もよくない婚約者は普通に振られるだろう。
王が定めた婚約はなかなか破棄にできないらしいけど
「カルロス様、公的な場でしかお会いできずお伝えしていませんでしたが私は心底貴方様をお慕いしております。」
照れを孕みながらも嬉しそうにそう告げたフィオニア様はとても眩しい笑みを浮かべていました。
王子は何も言えず、顔を真っ赤にして黙り込みました。
その様子をフィオニア様は少し驚いた後、微笑んで
「少しは期待しても良いかしら?」と王子に尋ねておられました。
「勝手にしろ!!」と王子は捨て台詞を吐いて、逃げていきました。
フィオニア様はその様子を「かわいい…」と微笑ましげに見ておられました。
王子、この方の盲目度合いはやばい、諦めて…
この後、わたしへの嫌がらせは鳴りを潜め、
フィオニア様とは友人と呼べる仲になりました。
王子の嫉妬心はわたしに向けられるようになりましたが…
何はともあれ、一件落着
Q.あんな王子でいいんですか?
A.はい。それでも私の王子様が、かわいいので!
ナルシスト王子を書こうとしたはずが、
書けなかった。
誰かナルシストの思考と言語を教えて……