【 ⅠⅠ 】裏会社"NEET"
マージは実験の成功を見て拳をギュッと握った。
特能"マージナル"。子どもと大人の間にのみその恩恵を受けられる。
大学生の内の三年間は謎のヒーローとして世界の平和に一躍買った。だが、大人となった今ではもう特能の発動は不可。引退を余儀なくされた。
ヒーロー活動の経験からヒーロー会社に勤務することになったが、正義と殺しとの両立による矛盾に苦しまされ、社会的には認知されていない会社を設立した。その会社を知るのは国の中枢と一部の人のみ。
影に隠れ、警察やヒーローにはできない正義に属する汚れた活動を行う。所謂、悪にも似た業務を秘密裏に行う。そんな会社だ。
経営者として会社に携わる一方、効果を失った特能の再活用に力を入れ始めた。能力は使えないが、まだ特殊能力は体の中に残っている。
もし誰かにこの特能をたくすことができたのなら────
その一心で実験を進めた。誰かに特能を移すこの実験。それが実を結び、今ナルの体に特能が移った。
マージナルパワーで怪物化を抑えている。自我の喪失や怪物化の進行などが起きる可能性が高い。それでも、それらを抑える手段はある。
ひとまず実験は成功に終わったようだ。
「ナル君。勝手に君の体で実験をして申し訳なかった。しかし分かってくれな、これは怪物化から救うための実験でもあることを」
手枷足枷が外される。
優しい笑顔で彼は微笑んでいた。
「ただ、君の半分は怪物で怪物化の可能性を秘めている。今は私から君に移した特能の力で人間と怪物の半分となり、とりあえずは人間として過ごせるようになった」
「特能……?」
「ああ。特能"マージナル"。子どもと大人の間にのみ効果をもたらす珍しい特能さ。今はそのお陰で今この状況に至るが、このまま何もせず大人になってしまえば、君は完全に怪物となる」
状況はあまり飲み込めていない。
分かるのは、僕が半分怪物になり、すぐに人間に戻ったこと。しかし、体の底から怪物の存在が蠢く。その度に吐き気がする。
彼の話は続くが、聞いている所ではなかった。
すぐに胃から逆流してきたドロドロしたものを口から吐き出していた。
◆
目を覚ますとそこはどこかの家の中だろう。実験病院の中ではないことはすぐに分かる。
近くにマージがいる。
彼はすぐに僕のことに気づいた。
「起きたかい。急に吐いてたからビックリしたよ」
「すみません」
彼からは労いの言葉が放たれ、病院で放たれた説明が繰り返された。そして、ようやく本題が繰り出される。
「ナル君。君にはね、ここの会社で働いて欲しいんだよ。ヒーロー稼業にも通ずるから厳しい世界だけど、怪物化を抑えるための修行になる。務めながら本当の人間を取り戻して欲しいんだ」
そう、僕には怪物にならないために鍛えるという使命ができた。
「給料や仕事の待遇は良い。良ければ家なども用意しようか。君の事情は聞いているけど、大変だったな。何か困ったことがあれば申してくれな」
「ありがとうございます」とお世辞で返す。
もう親はいない。けれども、あそこには思い出が残っている。家の件は断り、仕事の件は承諾した。
「それと、ここの会社は裏会社。世間にはバレてはいけない存在なんだ。絶対に秘密ではなければならない。君の親友にも話しては駄目だ。ここに守秘義務に関する書類を渡すからここにサインしてくれないかな」
その場に流されて書類にペンを通した。
こうして、僕は秘密結社のような裏会社"NEET"の正社員となったのだ。
裏会社"NEET"────
警察やヒーローが正義の執行として悪を懲らしめる。その勧善懲悪が社会的に悪い意味を持ってしまう場合や、周囲に反正義の意志を作らせる場合に秘密裏に活動する。
いわゆる、暗殺業だった。
普通の暗殺業と違うのはそれは実質国から認められているのと、正義に則って行動すること。それでも本質は変わらない。
《N》──need
《E》──earlier on
《E》──escape
《T》──team
ナル……入社。
次回予告
ついにようやく現れる個性的な社員達。そして、命じられる最初の仕事。裏稼業の初仕事はどんな仕事なのか……
ピーター「ワイは43歳だけど一応学生だ\( 'ω')/ 掲示板での論破歴は凄まじい頼れる先輩だvv」