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中間ヒーロー マージナルマン  作者: 樒 きりり ~しきみ きりり~
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【 Ⅰ 】特能"マージナル"

この作品はフィクションです。

 正義と悪は十人十色。


 国が違えば、宗教が違えば、親が違えば……何が正しいか、何が悪いのかは変わってくる。その中で大切になってくるのは所属する集団の正義。

 豪に入れば郷に従え。その場所の善悪に委ねるのが社会の摂理。

 そして、正義を貫いていても、いつの間にか悪となることがある。


「ぎゃあああ。がぁぁ。ガラァルァガラァァ!」


 とある手術室の中。薄暗い部屋の中に一人の女が動けないように鎖に繋がれている。被検体に注入されていく謎の液体。その一部始終を一枚だけ設けられた透明な窓からその様子を見ていた。

 その女は人間から徐々に化け物へと変化していく。肌色が赤褐色に変色する。柔らかい皮膚は硬質化する。みるみる人間の原型は消えゆき、それは人間ではなくなった。

 今日から、それは人間に害をなす悪だ。

 悪を裁くのは大抵は正義だ。大義名分。正義の二文字を抱え、その怪物に対峙する一人の男。その男はヒーローコスチュームを着ている。


「残念だが、お前はもう我々人間を脅かす怪物だ。白き英雄、この"タイガ"が成敗する」


 白衣を着た人達がそこから離れ、その場所にはヒーローと怪物の二人だけが取り残された。その様子を窓の向こうから眺めていた。

 ふと現れる複数の白虎。狂暴な虎が鎖で動けない怪物を無様に殺していった。もう姿形はなくなった。

 同じく窓からその様子を見ていた男の子達は歓喜に湧いていた。ヒーローの活躍が心を掴んだようだ。彼らの暖色オーラは僕の居場所を狭くする。


 殺された怪物は僕の母親だったからだ。


 お金のために手術の被検体となり、それによって怪物となってしまった。

 さっきまで人間だった。それなのに、一瞬で怪物となった。

 さっきまで正義の内側にいた。それなのに、一瞬で悪となった。

 信じられない。母の優しく笑う姿が思い浮かんでいく。それとリンクして頬が濡れる。

 見た目は異形でも、中身は優しい母親だ。それを変化しただけで英雄気取りで意気揚々と殺害したのだ。それも正義としてその行為は正当化されている。

 この日、僕は……


 正義(ヒーロー)を憎んだ────





「なるほど。父親は例の不自然死か。そして、金銭的問題が浮き彫りになって母親が「()()」の手術を受けて失敗した。残された君は金銭的に高校中退が余儀なくされ、金を稼ぐために手術をしようとしている」

「はい。手術に失敗すれば母親と同じように死ぬだけです。もし成功すれば「特能」として待遇も良くなるだけです」


 この世界には特殊能力、俗称「特能」というものがある。

 通常の人間では不可能な非現実的な事柄をそれは可能にさせる。人間を凌駕する力は社会の中で最も待遇された存在だ。

 その特能を得るためには手術を受けなければならない。

 成功すれば、特能を手に入れられる。森羅万象。その能力は一人一つ。ある人は炎を操り、ある人は大木を繰り出し、ある人は鮫に変化する。何を手に入れるかは神のままに。強さや社会への役立ち度は運が定めるのだ。

 一方で、失敗すれば怪物となる。自我を失い、周囲の存在に襲いかかる愚動物になってしまう。それによる被害を防ぐために、対怪物及び怪物関係悪人者の排除を専門とするヒーローがこれを殺す。母はこれに則って殺されていた。

 特能になれば、社会から歓迎される。一か八かの駆けに勝ち、能力で社会を発展させていく。そんなことができる成功者は社会的に超が付くほどの高待遇となる。金銭的に見ても、一般で働いているよりも数十倍、いやそれ以上の給料になる。まさに天国への昇格だ。

 だが、怪物となれば、社会から除け者にされる。一か八かの駆けに負け、勝ち組によって殺される。そのまま、その人生はそこで潰える。


 僕はここで死ぬのか、それとも。


「最終的に決めるのは君自身だ。行くと言うのなら、幸運を祈るよ」


 手術を止めようとした男の人はもう止めるのを諦めたみたいだ。

 高校生という若さでこんなギャンブルはしない。そもそも、もしやろうとしても親や先生らが止めに入る。

 しかし、僕にはもう、この行為を止める親も先生もいない。唯一、この手術に気づいた赤の他人だけが止めただけ。残念ながら、それも無駄に終わる。

 手足が鎖で縛られる。どんなに抵抗しても外れないし壊れない鎖だ。手枷足枷が僕を閉じ込める。

 薄暗いその中で体の中に液体が注ぎ込まれていく。

 段々と意識が朦朧(もうろう)としていった。


 一か八か。僕は────


 体の半分が怪物に変わっている。

 ああ、僕は失敗したんだ。ここで人生の全てが終わるんだ。微かな意識の中で死を意識していく。

 窓の向こう側にいる少年達がヒーローの活躍を今か今かと待ちわびる。直接声が聞こえなくても、想像による穴埋めは容易だった。彼らの無邪気な眼差しが僕を闇の中へと押し込んでいく。


「失敗したか。怪物なら法の適応外だな。被検体として実験してもいいよな」


 止めに入っていた彼の声が木霊する。ただ、その声さえも闇に消えていった。もう体の殆どが闇の中に落ちている。


 怪物となり、死んだんだ。と思った。


 突如として襲う眩い光。意識がはっきりとした頃にようやくその異様な状況に気づくことができた。

 体半分は怪物となっている。普通なら意識がなくなるはずが、なぜか自我がある。なりより異形の皮膚が外見上、徐々に元通り、人間となっていく。


「何が起きてるんだ」と唖然とすることしかできない。


「手術は失敗した。しかしだ、実験は成功なんだ」


 その時は、何もかもが分からなかった。

 後々知ることとなる。僕は人間であるが、体の中に怪物を潜めていることに。そしてそれは、人間と怪物の二つを持ち合わせていること。


 僕は人間と怪物の中間に位置する存在となってしまったのだった。



 マージナル────


 それは子どもと大人の間を意味する。ここにおいて、特能"マージナル"は人間と怪物の間を意味するのである。

 正義と悪の間の中に僕は身を投じた。

次回予告


 マージの勧めで裏ヒーロー会社"NEET"に入社するナル。裏ヒーロー会社とはなんなのか。そして、そこで待ち受けていた真実とは。


マージ「確か、次回は個性が強すぎて一癖二癖ある先輩たちが登場するな」

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