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彼女は魔術と紅茶を楽しんで  作者: 賀来文彰
王都連続爆破テロ
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一 RCISアクセス権限:最重要機密ファイル

 以下のインタビュー記録は、最初の攻撃の際に現場近くにいたボブ・ブロック氏に対し、特殊犯罪対策部門のチャールズ・ベイトソン王都担当特別捜査官が執り行ったものである。


【記録開始】


――あなたが見たことを教えて頂けますか?


 ひどいものだった。あれが起こる前はみんなが笑顔だった。

 国王陛下が久しぶりにみんなの前にお姿を現されるってことで、誰もが舞い上がっていた。俺自身もそうだ。それなのに……。こんなひどいことがあってたまるかよ……。


(ブロック氏は顔を両手で覆う)


――気分がすぐれないでしょうが、是非ともご協力を。


 ああ、分かってる。大丈夫だ。すまねえ。ただ、今でも悲鳴が頭の中から離れないんだよ。

 えーっと、俺は王城近くの噴水広場でパンを売っていた。その日は数年ぶりの叙勲式ってことで、王都だけじゃなくて色んなところから人が集まっていた。屋台を出している連中だって普段の顔なじみだけじゃなくて、他の都市から来たやつらもいた。

 その中にバリーってやつがいた。若い野郎で、俺と同じパンを売っていた。まあ、パンって言ってもあいつが売っていたのは細工パンで、魚の形をしたパンだった。

 若いのに礼儀正しいやつでな、俺と売るものがかぶってるってことでわざわざ挨拶に来たんだ。で、迷惑にならないように離れた場所で商売をしたいが、どこに行けば良いかって律義にも聞いてきた。


(ブロック氏はしばらくの間、言葉を詰まらせる)


 バリーはデーモンスパイダーに襲われた村の出身だった。バリーは家族と一緒に早くからサンスキンに避難していたから無事だったが、家は燃やされちまった。コーナー男爵様が被害に遭った連中の為に家を用意したが、財産までそっくり帰ってくる訳じゃねえ。見舞金はあっても家族に今までの生活をさせるには余裕がなかった。

 あいつは家族の為にわざわざ王都まで商売しに来たんだよ。その人柄に惚れて、俺は自分の真向かいを進めたんだ。


――爆発の際、あなたと彼はすぐそばにいました。


 ああ。そうだ。

 叙勲式が始まってしばらく経った頃だった。俺達と王城のちょうど間くらいの場所で爆発が起こった。

 これでも昔は冒険者をやっていたから、それが魔術によるものだってすぐに分かった。俺は急いで屋台を飛び出したが、その時には黒煙がもくもくと立ち込めていた。

 俺は逃げろと叫んだが、爆発の近くにいた連中は耳をやられていたのか呆然と辺りを力なくうろうろするか、その場にへたり込んでいた。


――あなた達は救助活動を始められた。


 俺以上にバリーが必死だったよ。思えば気の毒な話だ。デーモンスパイダーから間一髪逃げ切った矢先にこんなことに巻き込まれるなんて。でも、あいつは絶対に逃げなかった。あんたの仲間達と一緒に爆発の現場から少しでも多く避難させようと必死だった。


――その際ですね?あなた達が男を見たのは。


 ああ。そいつを見つけたのもバリーだった。あいつは逃げまどう人達全員に声をかけていた。こっちに早く逃げろとか、大丈夫かとか。あの野郎にもそんな感じで声をかけちまったんだろう。

 さっきの爆発よりは小さかったが大きな音がしたから振り返ったら、警官達と一緒にバリーが吹き飛ばされている最中だった。誰かが急いで風魔法を使ったから地面に直撃しなかったものの、あいつの右腕は変な方向にねじ曲がっていた。

 急いでそれをやった野郎を追いかけようとしたが、そいつは火魔術で俺達を攻撃して足止めするとそのまま西の方へと逃げていきやがった。


――その男の特徴は?


 あんたのお仲間にも話したけどよ。どうしても顔が思い出せないんだ。どこにでもある顔ってわけじゃない。ただ、思い出そうとすると輪郭までぼんやりとしちまうんだ。あれは間違いなく黒魔術だな。


【記録終了】



 以下は実行犯、或いは協力者とおぼしき存在を目撃した人物の証言の一部を抜粋したものである。



対象:成人男性、五十五歳。エルフ。

場所:噴水広場。

内容:黒っぽいローブを着た男。


対象:女子学生、十六歳。ラミア。

場所:王立バンクロフト学院正門前。

内容:淡い黄色のブラウスに白のロングスカートの女。右腕から激しい出血。


対象:成人女性、三十四歳。ヒト。

場所:王立バンクロフト学院正門前。

内容:全身紫がかった、もやのような存在。


対象:男子学生、十七歳。ヒト。

場所:城下通り。

内容:赤いオーラを全身にまとった男。


対象:成人男性、二十歳。ヒト。

場所:王城の正門前広場(叙勲式の式場)。

内容:右腕が極端に長く、細長い目をした男。


対象:成人女性、三十一歳。ヒト。

場所:王城の正門前広場(叙勲式の式場)。

内容:全身黒ずくめの女。



 以下は事件当日のタイムラインである。



・午前七時頃     :噴水広場から王城へと続く城下通りに人が集まり始める。

・午前七時十五分   :噴水広場に屋台が並び始める。

・午前八時~八時三十分:王城に受勲者とその親族が到着し、順次、謁見の間に案内される。

・午前八時四十五分  :国王陛下が大広間に到着。そのまま謁見の間に向かう。

・午前九時      :国王陛下に受勲者とその親族が謁見。

・午前九時五分頃   :最初の目撃情報。城下通りでもやのような存在が複数確認される。同時刻、国王陛下並びに受勲者とその親族が正門前広場に移動する。

・午前九時十五分頃  :城下通りを警備していたジョー・スミス巡査がもやのような存在を確認。近くで巡回中だったジェーン・ヒギンズ巡査部長に報告し、存在の追跡を始める。

・午前九時ニ十分   :正門前広場に国王陛下並びに受勲者とその親族が到着する。同時刻、もやのような存在が消失し、スミス巡査は追跡を中止。その旨をヒギンズ巡査部長に報告する。

・午前九時三十分   :叙勲式開始。

・午前九時三十五分頃 :城下通りで一度目の爆発。国王陛下並びに受勲者とその親族は直ちに城内へ避難する。同時刻、救助活動並びに捜査活動が開始。

・午前十時前後    :エルフの男性が声をかけた対象が襲撃。城下通りに更なる被害をもたらす。ジェーン・ヒギンズ巡査部長が追跡を開始。

・午前十時以降    :アシュリー・レーガン特別捜査官率いる特殊戦術部隊が城下通りに到着。対象の追跡に加わる。

・午前十時三十分頃  :王立バンクロフト学院正門前で二度目の爆発。臨時の負傷者治療所となっていた学院内医療センターの出入口がその影響で塞がる。同時刻、爆発場所から淡い黄色のブラウスに白のロングスカートの女が逃走。救助活動にあたっていたジョー・スミス巡査が追跡を開始。

・午前十一時頃    :王城の正門前広場で三度目の爆発。

・午後十三時     :国王陛下の勅命に基づく戒厳令発令。王都内のあらゆる建造物への対象捜索が始まる。同時刻、国王陛下の勅命に基づき飛行船の稼働が始まる。

・午後十五時ニ十分頃 :巡回中だったチャールズ・ベイトソン特別捜査官に対して対象達が攻撃。すぐに特殊戦術部隊が駆けつけ、対象達との戦闘となる。

・午後十五時三十五分頃:男とおぼしき対象が致命傷を受ける。それを確認したベイトソン特別捜査官は降伏を勧告。

・午後十五時四十分頃 :女が男とおぼしき対象を殺害し、その場から消失。

・午後十七時     :飛行船の稼働により爆発事件の負傷者の周辺都市への搬送が完了。同時に、周辺都市からの救援物資の搬入や増援の到着が迅速に行われ始める。

・午後二十三時    :王都内のあらゆる建造物への対象捜索が終了。一応の収束を見るものの戒厳令は継続。



 以下のインタビュー記録は、王立バンクロフト学院上級魔術学担当のジュリア・パーカー教授に対し、特殊犯罪対策部門のアシュリー・レーガン王都担当特別捜査官が執り行ったものである。


【記録開始】


――黒魔術についてお話ください。


 相手に対して負の効果を与える。これに尽きるわ。


――長時間、複数人に対して同時に認識を阻害することは可能でしょうか?


 できなくはないけど、かなりの技量と経験が要求されるわね。黒魔術は特に魔力消費量が激しいから、やろうとするだけでかなり苦労すると思うわ。


――具体的にはどれくらいの経験が必要ですか?


 さっきの質問のこと?そうね、例えば十分程度なら学院の中をこっそりと歩き回ることはできるでしょうね。でも、それは学生しかいない場合の話。教授を任せられるクラスになれば違和感にすぐ気付くから、簡単にバレるでしょうね。


――約十二時間、王都を移動し続けた場合についてお話ください。


 そうなると、まず不可能だと言うしかない。代わる代わる色んな人と出くわす以上、常に魔力を消費することになるから、一時間もすれば魔力が尽きちゃうでしょうね。

 ただ、私達のような吸血鬼やドラゴン、エルフといった長命な種族になるともう少しゆとりが出るけれど、それでも二時間は厳しいでしょうね。


――仮にそれができた場合、他の魔術を発動するのは可能だと言えますか?


 恐らく可能でしょうけれど、私なら魔法陣を使うわね。その方が負担も少ないから。でも、魔法陣は少しのミスで発動しなかったり暴発したりするから、効率は悪い。まあ、こんなことを言うとポールに怒られるけど。


――魔法陣学のポール・クーパー氏のことですね。


 ええ。でも、さっきの話はポールも同意すると思う。あなたもそうだったでしょうし、私もそうだったけど、学生の頃に受けた魔法陣学の内容だけでも骨が折れたでしょう?学院で習うレベルのものですらあれ程面倒なんだから、それ以上のレベルのものをわざわざ時間をかけて用意するのは余程の暇人か軍人くらいでしょうね。


――あなたは以前、軍に所属されていましたね。


 遠い昔の話。当然、あなたも生まれていなかった。あの頃は今と違って冒険者ギルドもなかったから軍が動くことが多かった。色々な問題に対処する為に、色々な対策が取られていた。


――その時に取られた対策とは?


 一言で言えば、貯蔵ね。

 武器や防具は当然だけど、魔法薬が大量に作られ、保管された。魔術師のみならず錬金術師の囲い込みも行われた。あらゆる種類の魔法陣の大規模な作成も実施された。


――それらは今も軍に?


 軍を離れた私が知る訳ないでしょう。でも、冒険者ギルド設立にあたって、それらの大半はギルドに回されたから。それに八年前のスタンピードでかなり消費しただろうし。


【記録終了】



 以下のインタビュー記録は、王立バンクロフト学院内医療センターに所属するリリー・キャラハン副センター長に対し、特殊犯罪対策部門のチャールズ・ベイトソン王都担当特別捜査官が執り行ったものである。


【記録開始】


――爆発があった時のことをお話ください。


 最初?二度目?それとも三度目?


――二度目です。


 正直、よく覚えていないの。最初の爆発の衝撃から誰一人立ち直っていなかった時のことだったから。

 帝国との小競り合いや魔物との戦いは国境沿いのことで、少なくとも王都はまだ安全なはずだった。でも、それが思い込みだったことをまざまざと見せつけられた。


(キャラハン副センター長は肩を落とす)


 あれ程の負傷者を目にしたのは八年前のスタンピード以来だった。あの魔物の群れの襲撃による被害は今でも忘れられない。けれど、こんな短時間で同じくらいの被害が出たのは初めてのことだった。


――ですが、あなた方の尽力によって死者はいなかった。八年前とは違います。


 気休めはよして。確かに死者は出なかったかもしれないけれど、後遺症が残った患者も多い。

 それだけじゃない。応援で来てくれた周辺都市の白魔術師や有志で手伝ってくれた人達のほとんどが塞ぎ込んでいたり無気力状態になったりしている。或いはろくに休みも取らないで一心不乱に手当てを尽くしている。


――話を戻しましょう。爆発の際に何か気付いたことはありましたか?


 いえ、突然のことだったから。

 あの時、私はエルフの男性の治療にあたっていた。自分の腕が酷い状態になっているのに、しきりに他の患者を優先するようにと言ってきてね。落ち着かせるのに苦労したわ。何とか彼の処置を終えて、次の患者の処置に向かおうとした時、正面玄関の方から爆発音が聞こえ、凄まじい衝撃が襲いかかってきた。

 よろけた私は近くにいた警官に支えられたおかげで倒れずに済んだ。彼は両足を負傷して満足に動けない状態だったのに、上半身だけで私を支えてくれていた。

 でも、何かが崩れる音がして今度こそ私は倒れ込んだ。何とか起き上がった私は音がした方を見に行った。

 出入口はがれきで塞がっていたけれど、細身の人が何とか通れるくらいの隙間があった。そこを女性が無理矢理通ろうとしていた。

 あの時の彼女の表情がいまだに忘れられない。


――どんな表情でしたか?


 無表情だった。右腕から激しく出血してたのに痛がる様子も見せなかった。きっと、骨は粉々になっていたはずよ。完全に使い物にならなくなっていたのは明らかだった。

 でも、彼女は一切の感情を見せることなくその隙間を通り抜けようともがいていた。


――彼女の服装を覚えていますか?


 いえ、それが思い出せないの。ロングスカートだったのはかろうじて覚えているんだけど、それ以外のことが不思議と思い出せないの。

 今だから分かるんだけど、あの時の私は認識阻害をかけられていた。細部を思い出そうとする度にどんどん記憶は曖昧になっていく。でも、無表情だったことだけは覚えてる。

 あなたは本当の無表情を見たことがある?普通、無表情といってもそこに不機嫌さや怒りを認めるものだけれど、彼女は違った。どんな感情があって、どんな思いがあるのか一切外に現していなかった。

 彼女が何者か知らないけれど、確実に言えるのは彼女に心というものは存在しないということ。それ程恐ろしいことはないでしょうね。


【記録終了】


RCISの初出は夏休み編の『一 夏休み初日』の最後の方です。


王立犯罪捜査機関が正式名称ですが、アメリカの捜査機関の名乗りを

参考に略字標記としています。

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