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彼女は魔術と紅茶を楽しんで  作者: 賀来文彰
冒険者ギルド復興
181/323

十 黒衣のパーティー

昨晩、ふと総合評価を見ると500ポイントを超えておりました。

皆様、本当に有難うございます。


「くそっ!敵が多過ぎる!」

「どんだけ強いんだよ!」


 冒険者達は悲壮な叫び声を上げる。


 血で血を洗うこの魔物領では弱肉強食が徹底している。圧倒的に強い魔物が姿を見せると、それより弱い魔物達は様子見を始める。暗がりや茂みに身を潜め、激闘によって激しく傷付いた相手を仕留めるのだ。

 その矛先は当然冒険者にも向いている。怪我の大小を問わず負傷者が増えれば増える程、魔物達には充分な量があるご馳走に見えていく。


「全員固まって動け!負傷者は中心に集めろ!」


 指示を出す冒険者にブラッドラビットが襲いかかる。致命傷は何とか避けたものの、左腕を切り裂かれてしまう。


「ったく、ジリ貧じゃねえか!」

「諦めるな!ギルドまでもう少しだ!」

「こうなるならもっと肉を食っておきゃ良かったぜ」

「心配すんな。後でたらふく食わせてやる」

「おい、奢りかい?」

「ああ。こんだけ魔物を狩ってりゃあ、臨時収入もあるだろうに」

「どうだかな。最近のギルドは渋いからな」

「ちげえねえ!」


 軽口を叩いて互いを鼓舞しながら冒険者達は移動していく。しかし、大きな影が彼らの前に立ちはだかった。


「おいおい、デビルスコーピオンかよ……」


 アル達が仕留めようとしていた魔物が姿を見せる。見るからに満身創痍なのは彼らと戦っていた個体だからだろう。


「カチカチカチカチ」


 耳障りな音を立てて鋏を震わせる。そんなデビルスコーピオンを前に早くも心が折れてしまい、脱力してしまう冒険者も何人かいた。


 だが、そんな彼らに檄が飛ぶ。


「何をしている!相手は手負いだ。勝機を逃すな!」


 振り返るとグレゴリーが周囲の魔物を蹴散らしながら、アル達を導いてくるところだった。


「彼らを中に!そいつは私が引き受ける!」


 三人を守り抜きながら戦ってきたデイヴィッドは、戦いの高揚感からグレゴリーとしての芝居をすっかり忘れてしまっている。余りにも変わっている口調や振る舞いに冒険者達がつっこまなかったのは、単に今まさにこの瞬間が戦闘中だからに他ならない。


 三人が冒険者達の輪の中心に入ったのを確認するやデイヴィッドは、一気に間合いを詰めてデビルスコーピオンと対峙する。


「おい、嘘だろ?」

「何て速さだ……」

「本当にグレゴリーだよな?」


 人狼状態にはなっていないものの、幼い頃から戦闘術を叩きこまれていたデイヴィッドは剣を三本目の腕のように自由自在に振るってデビルスコーピオンを圧倒する。

 彼が剣を振るい始めて五分も経たないうちに、デビルスコーピオンの尾と右の鋏が斬り落とされていた。


 だがデイヴィッドがとどめを刺そうと剣を振り上げた時、デビルスコーピオンが口から液体を吐き出した。


「ウォーターウォール!」


 しかし見るからに毒々しい液体はデイヴィッドの前に現れた水の壁に吸収される。


「ウィンド」


 直後、水の壁は何かに押し出されるかのように決壊し、デビルスコーピオンへと降り注ぐ。自身の毒が交じった水で表皮が爛れ、この凶悪な魔物は残った鋏を見境なく振り回す程に苦しんでいく。


「とどめを刺して!」


 そこへ女性が飛び込んでくる。黒いローブをひらりとはためかせながら剣を振るう彼女は速度を落とすことなくデビルスコーピオンの真横を駆け抜けた。


「手柄を譲られるのは気に食わない」

「周りをよく見て!まだまだ敵だらけよ!」


 不服そうに意見を伝えつつもデイヴィッドの剣はデビルスコーピオンの頭部を貫いている。そしてそれに答えるキャサリンの剣も草むらに潜んでいたデビルウルフを切り裂いていた。


「何人かこの死骸を運んでくれないかしら?このままだと援護が難しくて」


 最後に姿を見せたエリカは、マンティコアの死骸を再び風魔法で制御する。複数の魔術行使も不可能ではないが、負担が大き過ぎる。それならば戦力にならない負傷者達にこの死骸を運んでもらう方が合理的だと考えていた。


 しかし冒険者達は一瞬動きを止めてしまう。今まで見たことがない魔物の醜悪さと、そんな魔物を見事に討伐しただけでなくここまで持ち帰ってきたエリカの豪胆さに度肝を抜かれてしまっていたのだ。


「ほら、早く嬢ちゃんに手を貸すぞ」


 ベテラン故に一番立ち直りが早かったアルが声をかけ、冒険者達が死骸を担ぐ。その中にはダリルとジルもいた。


「あなた達はまだ輪の中心にいて」

「そりゃないよ、オードリーさん!俺達だって冒険者なんだ!」


 エリカの静止にダリルが口をとがらせる。言葉こそ発しないもののジルも同じ思いを抱いているようだった。


「ダリル。あなたにはジルを守るという大切な役目があるでしょう。ナイフしかない妹に魔物の相手をさせるつもり?」


 二人の状況を踏まえた助言にダリルはしょんぼりとするが、妹の手を引くと大人しく輪の中に戻る。


「随分と素直になったな」

「そりゃあ、嬢ちゃんの言葉だからな。俺だって従うさ」

「おい、アル!もう尻に敷かれてんのかよ!」


 ガハハと死骸運搬係達が笑う。まだ危険はそこら中に潜んでいるが、この黒衣のパーティーが傍にいるだけで不安が掻き消えていくのを強く実感していた。


 何せ三人の活躍ぶりはBランク以上に匹敵するのだ。


 エリカとデイヴィッドのような貴族は子供の頃からCランク相当の実力を付けることを目指すよう教育を受けているので、そのような評価を受けるのは当然のことだが、二人とも冒険者ギルドでの戦いという修羅場を潜り抜けた経験が生きているし、特にエリカにはその年齢に不相応の軍歴があるので強さが飛び抜けている。

 そしてキャサリンは元々近衛兵団の団長の座にあった程の実力者である。冒険者になってからもソロで動くことが多かっただけに、危機察知能力と剣技は鋭さを増していた。


 そして黒衣のパーティーの実力は魔物にも伝わっている。


 魔法と魔術を効果的に使い分けるだけでなく乱発することもできる魔術師と、的確に命を刈り取るのは同じなのに動き方が全く違う剣士が二人もいるのだ。彼らはこちらが手出しする前に自分達を見つけ、容赦なく狩っていく。

 弱肉強食の激しい世界だからこそ防衛本能が逃走を命ずる程に、三人の攻撃は猛威を振るっていた。


 やがて魔物の襲撃は散発的になり、それも遂には完全に途絶えた。こうしてエリカ達を含めた冒険者達は無事にギルドへ帰還することができたのだった。


前書きと重なりますが、皆様有難うございます。

いつも皆様からの評価やブックマーク数の増加に励まされております。


纏めて予約投稿しているので気付くのが遅くなり申し訳ございませんでしたが、

本当に嬉しく有難いです。


今後とも宜しくお願い致します。

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