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7.再戦

あれから、何度倒れたかわからない。

途中から数えるのをやめてしまったから。


首を飛ばされた時もあった。

串刺しにされた時もあった。

滅多斬りされた時もあった。





…これ以上は思い出したくない。


だけど、嫌な記憶の中で足しになることは沢山見つけられた。

初めはめちゃくちゃだった剣の振り方が少しだけ理解が出来た。

次に戦うときに見るべき場所を把握が出来るようになれた。

避けるべき攻撃、受けられる攻撃。

この二つを見極める事が大切だと知れた。


この事が理解できた時、ただ殺られていただけではないと実感できた。





…次は負けない。





その決意をした時、体がほのかに熱くなるのを感じる。

そして、もう見慣れてしまった石畳を確かな足取りで一歩一歩歩きだした。





石畳を歩きながら思い出す。

相手の動き、自身の向けるべき視線の先。

無駄な動きを抑え、気力を残す。

今までの経験を無駄にせず、糧にする。


何度となく殺られてもこの剣だけは手放さなかった。


剣の柄を握り直す。


そして、剣を鞘から引き抜く。


視線は…あの亡者を捉える。


亡者は何も変わらない。

フラフラと歩き、向こうもこちらを視線に捉える。


「ぉ…お、ぉ…。おおおおおおぉぉぉおおぉお!!」


体を震わせる。

喉から絞り出したような声をあげ、亡者はこちらに向かって突進してきた。


この動きは何度も見てきている。


ギリギリまで引き付けて、真横に転がる。

ナイフを手に握った亡者の突進は空を突き、前のめりにバランスを崩す。


だが、この隙に攻撃を仕掛けてはいけない。

亡者は無理やり振り向き、ナイフが突き刺さる。


今するべき事は呼吸を調えて、自身の次の行動を考える。


相手が態勢を無理やり直すと言うことは、直し終わり、こちらを捉える前に僅かな隙がある。

狙うならそこだ。

そこで深い一撃を喰らわせる。


地面を蹴り、走り出す。

僅かな隙を見逃さないように。剣を届かせるように。


「…そこ、だっ!!」


自身を勢い付かせるように声を出し、剣を突きだす。

肉を斬り裂く感覚が手に伝わる。


剣が、届いた。


「ああああああぁぁぁぁああああああっ!!」


突き刺さった剣を力一杯上へ引き上げる。

どす黒い液体が飛び散り、肉を引き裂き、押さえ込まれていた感覚が不意になくなった。

剣が腹から肩へと斬り抜ける。


「お…おっ、お…」


肩口を斬り裂かれた亡者が口から音を出しふらつく。


次に生まれた隙を見逃す事はしない。


引き上げた剣を握り直し、弧を描くように動かし無防備になった脚を狙い振り抜く。


振り抜くと同時に脚であったものが片方吹き飛び、宙を舞う。


亡者はバランスを崩し、膝まずくような態勢になる。


振り抜いた剣を精一杯、頭上へ振り上げる。

歯を食い縛る。

次の一撃に全力をかける為。

完璧に止めを刺す為に。


「ーーーーーーーーーーーーっ!!」


歯を食い縛っていた為に声は出せなかった。

しかし、視線だけは当てるべき場所から視線を外さない。







一瞬柔らかい感覚が手に伝わる





次に、硬い物を叩き割る感覚が手に響く。





思い切り振り下ろした剣は、亡者の頭蓋骨を叩き割り、そのまま自身の方へと引き抜いた。


剣についた血飛沫が周囲に飛び散る。

ほんの少し遅れて、叩き割った頭からも血がドロリと溢れだし亡者は力なくドサリとその場に倒れ込んだ。


一瞬の静寂。

耳に届いたのは岩の間を風が吹き抜ける音。

次いで聞こえたのは息遣い。


まるで獣のように荒い息遣いだけが聞こえる。


この息遣いが自身のものだと気がつくのにはまだ少しかかった。


見開いたままの眼を何とか閉じさせる。

一呼吸すると手が震え始める。

剣の柄を痛いほど握り、震えを無理やり抑え込む。


ゆっくり体に態勢を変え、剣を下に向け、目の前の光景を直視した。


目前には今しがた自身が斬り倒した亡者が倒れ伏している。

これが動くことはもうないだろう。

それはそうだ。



腹から肩口にかけて斬り裂かれ、脚を片足失い、頭蓋骨を叩き割られているんだから。


改めて…自身がしたことに震えた。

今、自分は相手を完全に、完璧に…


殺した。


手が震えはなんだろう。

これは自分がした事への恐怖なのか、成し遂げた事への興奮なのか。

またはそれの両方か。


落ち着くために深く息を吐く。そして、吸い込む。


剣を鞘に納め、落ち着きを取り戻す。


「…。倒した…。」


自分の口から出たのはそんな一言。

体は熱く、熱を発していた。


だからなのか…

鎧で覆った体を撫でる風が妙に冷たく感じた。


先に進まないと。

ここで立ち止まっている訳にはいかない。



そうして、一歩また一歩と先へと続く石畳を歩き始めた。

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