4.遭遇
石畳を歩き続けていると開けた場所に出た。
その場所だけは岩山の中でも周囲よりわずかに明るく、中央には水盆らしきものが置いてある。
周囲に警戒しつつ水盆を覗くと、そこには水はなく灰らしきものが底に溜まっていた。
そしてあることに気が付いた。
「あれ…そういえば、割と歩いたのに喉が渇いてない…?」
最初の場所から考えれば結構な距離を歩いているはずだが、一切のどの渇きを感じていない。
「この様子だと、腹も減らないのかな」
そう考えるとなんだか少し寂しい気持ちになる。
そんな場違いな考え事をしていた時、何か音がした。
最初は気のせいかと思ったが、違う。
音が確実に近づいている。
一瞬で血の気がひいた。
少し身を守るものを得ただけで何をのんきな考え事をしているんだ。
この場所はわけのわからない場所で、何があるかもわからないのに。
腰の剣を鞘から引き抜き、音の方向に向ける。
「誰だ!い、いるのはわか…わかってるんだ!」
声の上ずったなんとも情けない虚勢を張っているのはわかっている。
だが、こうしないと立っていられない。
少し考えればわかったことだろう。
あの騎士は鎧を着て、剣を持っていた。
という事は、この場所には少なくとも何かしらの「外敵」がいるのだ。
震え汗ばむ手から剣が落ちないようにしっかりと握りなおす。
深呼吸をしても落ち着く訳はない。
だが、何かに対峙する覚悟をしなくてはならない。
覚悟をして音の方向を見ていると、岩陰からフラリと何かが現れた。
岩陰から現れたそれは人型だった。
フードのようなぼろ布を被っているので顔はわからない。
だがそれより気になるものに目が行く。
それは相手が片手に持っている錆び付いたナイフ。
ナイフを視界に入れると同時に背中に嫌な感覚が走る。
頭が危険だと警告を鳴らした。
相手からナイフを向けられているわけではない。
だが、嫌な感覚がする。
それをこれから自分が向けられるような嫌な感覚。
「お、おい、こっちは剣を持ってるんだぞ。そ…それ以上、ち、近寄るな!」
声を上げるが、相手はこちらにむかって酔っ払ったようにフラフラと一歩一歩近づいてくる。
目線をそらすこともできなくそれを凝視してしまう。
そんな中また風は吹いた
その風によって相手が被っていたぼろ布がふわりと脱げた。
「…ひっ!?」
思わず上ずった声が出る。
ぼろ布が取れた相手の顔は生きている人間には見えなかった。
生気を失った瞳、土気色の肌、そしてやせ細った顔。
それを言葉にするのならば「亡者」という言葉が当てはまるだろう。
「お…ぉ、おぉぉおお…」
亡者の開いた口から音が漏れる。
それはおおよそ声と言い難いもの。
歯が小さく音を立てている。
身動きが取れない。金縛り状態だ。
フラリフラリと近づく亡者の動きが止まる。
そして、生気のない瞳が目標を捉えた。