3.能力
騎士を見送った後、残ったものは金属の鎧と剣。
これから先何があるかわからない。身を守る物が必要だ。
残された物とはいえ、墓荒しをしているような気分になる。
だが、さきほど約束したはずだ。
騎士の使命を継ぐ、と
「だけど、鎧なんて着たことないぞ…」
それはそうだ。現実世界で鎧を着る機会なんてそうあるものではない。
というか着たことなんてあるわけがない。どうしたものか。
暫く鎧を眺めていたが悩んでいても仕方がない。
何かをしなければ物語は進まないのだ。
「止め金とかを外して着たりするのかな…?」
そう言いながら鎧に触れる。
「…っ…?!」
体の中に何かが流れ込んでくる。
瞬きを一度する。するとどうだろう、目の前の鎧の着方が手に取るようにわかっていた。
さっきまでは着方も何もわからなかったというのに。
「…これが、俗に言う…チート…能力…なのか?」
今のところわかるのは
触れただけで物の使い方をわかる
というところだろうか…
「それなら剣に触れると剣術の型がをがわかったかりするの…か?」
そう思い剣に触れる。
だが期待とは裏腹に先程のような感覚はなく、ただの冷たい剣を触るだけの結果になった。
「そう都合よくはないよなぁ…」
ちょっと自嘲気味に笑い、鎧に向き直る。
「何がいるかわからないし、こんな服よりマシだよな」
再度鎧に触れる。また一瞬感覚があり、手慣れた手つきで鎧を着る事が出来た。
鎧を着てまず思ったのは、当たり前の事だが異様に重い。
こんなものを着てゲームのキャラたちは歩き回っていたのか。
サイズがピッタリと合う。まるで自分用に作られていたかのようだ。
「サイズも勝手に調整されるのか…?」
これもまたチート能力なのか…?
この様子だといくつかの能力はあるみたいだ。
「と、とりあえず…鎧は着れた…。後は…」
重い体を動かし、剣を拾い上げる。
剣はゲームでよく見る西洋の両刃の剣。
ズッシリと重く軽々振り回すのは難しそうだ。
鞘に触れれば、着用方法がわかった。
頭に浮かんだ手順通りにし、腰に鞘を取り付ける。
この格好ならば少しは身の安全を守れるだろう。
格好だけならば一端の騎士には見える。
「…騎士さん。貴方の物を使わせてもらいます。
」
騎士がいた場所に言葉をかける。
意味などないだろう。だが、それでもしなければいけない気がした。
礼儀みたいなものになるのだろうか。
静かに息を吐き、一度気を落ち着ける。
「よし…。…行こう。」
腰の剣を引き抜き、石畳が続く道の先へとまた歩みを進めた。